【授業】書道研究Ⅰ
【授業】書道研究Ⅰ
Ⅰ はじめに
日本における漢字仮名交じりの書の発生とその展開については,書跡としての発生は平安から鎌倉にかけての時代に遡るとはいえ,「漢字仮名交じりの書」という書芸術のジャンルが生まれてからは日が浅いため,その内容と形式についての学術的な研究成果の蓄積が不十分な状況にある.しかしその一方で,高等学校芸術科書道においては,漢字の書,仮名の書と並んで取り上げられるなど,社会的・教育的な位置づけが高まりつつある。現代においては「漢字仮名交じりの書」の歴史的な検討やその評価規準の確立が強く求められている。
Ⅱ 授業の目的・ねらい
漢字仮名交じりの書の内容と形式の変遷をたどる.また,日本近代の文化人は,墨書やペン書によって数多くの手紙を遺しているが,その多くは「候文」などの特色ある表記によるものとはいえ,現代につながる漢字仮名交じり文によって書かれており,「漢字仮名交じりの書」の制作において,参考とすべきものの一つとなっている.本講義では,漢字仮名交じりの書の長い伝統を踏まえて,その中で定着した手紙の書式とその表現について学びつつ,さらに現代の漢字仮名交じり書作品へ活用する方法について考える.
Ⅲ 授業の教育目標
手紙の書式と表現について理解し,手紙の持つ「漢字仮名交じりの書」としての表現の特質と,それを現代の書の制作に活用する方法について考えることができる.
第1講 漢字仮名交じりの書の発生と展開
1.何を学ぶか
(1)漢字仮名交じりの書の発生
(2)漢字とかなの調和
(3)漢字仮名交じりの書と書式
2.学習到達目標
(1)漢字仮名交じりの書の発生と展開について,漢字とかなの調和の観点を踏まえて,説明することができる.
(2)漢字仮名交じりの書のさまざまな書式について,その具体例を挙げて,説明することができる.
3.研究課題
(1)鎌倉時代の絵巻詞書に見られる漢字仮名交じりの書について,その特徴をまとめなさい.
(2)近世初期の色紙や巻物に見られる漢字仮名交じりの書について,その特徴をまとめなさい.
4.映像資料
5.プレゼン資料
6.テキスト
第2講 手紙の歴史と日本語の表記
1.何を学ぶか
(1)日本における手紙の歴史
(2)表記法としての候文
2.学習到達目標
(1)日本における手紙の歴史について,その概略を説明することができる.
(2)候文の漢語的表現に概ね習熟し,その活字化された文献について,読解を試みることができる.
3.研究課題
(1)藤原佐理《離洛帖》の手紙としての魅力について考察しなさい.
(2)候文の漢語的表現について,謙譲などの敬語的な側面から,その特徴をまとめなさい.
4.映像資料
5.プレゼン資料
6.テキスト
第3講 手紙の書式とその書き方
1.何を学ぶか
(1)手紙の目的と書式
(2)巻紙による手紙の書き方
2.学習到達目標
(1)手紙の目的とそれに応じた書式について,その具体例を挙げて,説明することができる.
(2)巻紙による手紙の書き方について,その概略を説明することができる.
3.研究課題
(1)お見舞・お礼などの手紙の目的を明確にして,かつ具体的な宛先を想定して,巻紙による手紙を書きなさい.
4.映像資料
5.プレゼン資料
6.テキスト
第4講 手紙の読解と鑑賞―安田靭彦―
1.何を学ぶか
(1)良寛讃仰
(2)正しさと確かさと
2.学習到達目標
(1)安田靭彦が良寛の書の紹介において果たした役割について,年譜などの事歴にもとづいて説明することができる.
3.研究課題
(1)墨法の効果などの点から,安田靭彦の書の特質について分析し,まとめなさい.
4.映像資料
5.プレゼン資料
6.テキスト
第5講 手紙の読解と鑑賞―土田麦僊―
1.何を学ぶか
(1)平明の天才
(2)穏やかさへのあこがれ
2.学習到達目標
(1)手紙の内容と書きぶりから,筆者の人間性について想像し,説明することができる.
3.研究課題
(1)安田靭彦の書と土田麦僊の書とを比較して,その共通点・相違点について分析し,まとめなさい.
4.映像資料
5.プレゼン資料
6.テキスト
第6講 手紙の読解と鑑賞―鏑木清方―
1.何を学ぶか
(1)芸術の持つ役割
(2)是非もなきこと
2.学習到達目標
(1)手紙の読解を通じて,戦時における芸術,あるいは芸術家の役割についての,鏑木清方の考えを推察し,説明することができる.
3.研究課題
(1)日本画家の手紙の書の特質について,この講義で取り扱った3人の書を比較しながら,考察しなさい.
4.映像資料
5.プレゼン資料
6.テキスト
第7講 手紙の読解と鑑賞―黒田清輝―
1.何を学ぶか
(1)明治の洋画壇
(2)本文と追而書
(3)速筆と切り返し
2.学習到達目標
(1)黒田清輝の手紙の書の特質について,用筆や運筆の観点から,説明することができる.
3.研究課題
(1)候文という文体のもつ特質について,くり返し音読してから,話し合いなさい.
(2)本文と追而書の部分の内容を読み比べて,追而書の役割について考察しなさい.
4.映像資料
5.プレゼン資料
6.テキスト
第8講 手紙の読解と鑑賞―小出楢重―
1.何を学ぶか
(1)人と人とをつなぐもの
(2)書の線と絵画の線
2.学習到達目標
(1)手紙の内容と書きぶりから,筆者と宛名の人物との人間関係について想像し,説明することができる.
3.研究課題
(1)小出楢重の書の魅力について,その画と見比べながら,話し合いなさい.
4.映像資料
5.プレゼン資料
6.テキスト
第9講 手紙の読解と鑑賞―藤田嗣治―
1.何を学ぶか
(1)作戦記録画
(2)彩管報国
2.学習到達目標
(1)手紙の読解を通じて,藤田嗣治が作戦記録画《アッツ島玉砕》を制作し,発表した事由について,説明することができる.
3.研究課題
(1)歴史的事実を明らかにするうえで,資料としての手紙が果たす役割について,考察しなさい.
4.映像資料
5.プレゼン資料
6.テキスト
第10講 手紙の読解と鑑賞―伊藤左千夫―
1.何を学ぶか
(1)洒々落々たる味
(2)画に題する歌
2.学習到達目標
(1)手紙の内容と書きぶりから,筆者の人間性について想像し,説明することができる.
3.研究課題
(1)伊藤左千夫の書の魅力について,その詠歌や文章を参考にしながら,話し合いなさい.
4.映像資料
5.プレゼン資料
6.テキスト
第11講 手紙の読解と鑑賞―長塚節―
1.何を学ぶか
(1)澄明さ・濁りのなさ
(2)結核という病
2.学習到達目標
(1)手紙の内容と書きぶりから,筆者の人間性について想像し,説明することができる.
3.研究課題
(1)長塚節が自分の病気とどのように向き合ったか,その詠歌を参考にしながら,考察しなさい.
4.映像資料
5.プレゼン資料
6.テキスト
第12講 手紙の読解と鑑賞―斎藤茂吉―
1.何を学ぶか
(1)長塚節と茂吉
(2)粘着気質の人
2.学習到達目標
(1)手紙の内容と書きぶりから,筆者の人間性について想像し,説明することができる.
3.研究課題
(1)斎藤茂吉の編集者としての仕事ぶりについて,考えたことをまとめなさい.
(2)いわゆる「アララギ派」の歌人たちの系譜をたどりながら,歌人と書との関わりについて,考察しなさい.
4.映像資料
5.プレゼン資料
6.テキスト
第13講 手紙の読解と鑑賞―萩原朔太郎―
1.何を学ぶか
(1)昭和十三年六月六日
(2)表記への「こだわり」
2.学習到達目標
(1)手紙の内容と書きぶりから,筆者の人間性について想像し,説明することができる.
3.研究課題
(1)手紙の内容と筆者の年譜とを照合しながら,手紙の書かれた時日を特定していく過程について,まとめなさい.
4.映像資料
5.プレゼン資料
6.テキスト
第14講 手紙の読解と鑑賞―高村光太郎―
1.何を学ぶか
(1)光太郎書の変遷
(2)「造形」と「試み」
2.学習到達目標
(1)高村光太郎の手紙の書における書きぶりの変遷について,様式によりその時期を分けて,説明することができる.
3.研究課題
(1)葉書という書式の特徴について,高村光太郎の場合を具体例として,考察しなさい.
4.映像資料
5.プレゼン資料
6.テキスト
第15講 手紙の書美と制作への活用
1.何を学ぶか
(1)気息の表現―新鮮さ―
(2)初心の表現―純真さ―
(3)率意の表現―自然さ―
(4)手紙に学ぶ
2.学習到達目標
(1)手紙の魅力やその内容と書きぶりとの関わりについて,この講義の内容を踏まえて,説明することができる.
(2)手紙における書表現を漢字仮名交じりの書の制作に活かす方法について,この講義の内容を踏まえて,説明することができる.
3.研究課題
(1)手紙を書くことの意義について,自分が考えていることをまとめた上で,話し合いなさい.
4.映像資料
5.プレゼン資料
6.テキスト
Ⅳ レポート課題
課題1
第6講:研究課題(1)について,レポートにまとめなさい.
※冒頭に,自分なりの「題名」を記してから,本文を書いてください。
※レポートは,wordで作成し,PDFファイルで提出のこと.分量は,A4:1枚程度.自分がもっとも適切と考える書式設定で作成してください.
課題2
第14講:研究課題(1)について,レポートにまとめなさい.
※冒頭に,自分なりの「題名」を記してから,本文を書いてください。
※レポートは,wordで作成し,PDFファイルで提出のこと.分量は,A4:1枚程度.自分がもっとも適切と考える書式設定で作成してください.
Ⅴ アドバイス
課題1解説
近代の日本画家は,洋画とは異なる日本画の独自性を求めたといわれています.そのとき彼らが注目したのは,日本画の線のもつ性格(線性)であったとされています.彼らは,線のもつどのような性格に注目したのでしょうか.3人の日本画家と良寛の書との関わりをヒントにして考えてみましょう。
課題2解説
高村光太郎は,生涯にわたって,数多くの書簡を残しています.それらの多くは『高村光太郎全集』に収録されていますが,それらの記録と実際の肉筆とを比較してみると,彼の感じ方や考え方をうかがうことのできる,新たな発見があります.そこから,彼が葉書という書式(メディア)をどのようにとらえていたかを考えてみましょう.
Ⅵ 科目修得試験:レポート試験
手紙における書表現を漢字仮名交じりの書の制作に活かす方法について,この講義の内容を踏まえて,あなたの考えを説明しなさい.
※冒頭に自分なりの「題名」を記してから,本文を書いてください。
※レポートは,wordで作成し,PDFファイルで提出のこと.分量は,A4:1枚程度.自分がもっとも適切と考える書式設定で作成してください.
Ⅶ テキスト
○住川英明著『書道研究Ⅰ』 2024 岐阜女子大学
Ⅷ 参考文献
○野中吟雪著『書を語る』 2017 芸術新聞社
○古谷稔著『漢字かな交じりの書』 1998 雄山閣
○小松茂美編『日本書道辞典』 1987 二玄社
○書学書道史学会編『書道史年表事典』 2007 萱原書房