【研究論文】短期大学から大学院まで体系化した教員養成 カリキュラムの開発
【研究論文】短期大学から大学院まで体系化した教員養成 カリキュラムの開発
1.教員養成を取り巻く現状と課題
教育を取り巻く社会状況の変化等の中で,学校現場には,子どもたちの学ぶ意欲の低下,自立心の低下,社会性の不足,いじめや不登校などの深刻な状況等々,様々な教育課題が生じてきている。これらの変化や諸課題に対応し得るより行動な専門性と豊かな人間性・社会性を備えた力量ある教員が求められるようになってきた。
平成24年8月28日付の中央教育審議会答申「教職生活の全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上方策について」では,「これからの社会で求められる人材像を踏まえた教育の展開や学校現場の諸課題への対応を図るためには,①社会からの尊敬・信頼を受ける教員,②思考力・判断力・表現力等を育成する実践的指導力を有する教員,③困難な課題に同僚と協働し,地域と連携して対応する教員が必要である。」と述べている。
また,「そのためには,教育委員会と大学との連携・協働により,教職生活全体を通じて学び続ける教員を継続的に支援するための一体的な改革を行う必要がある。また,修士レベルの教員養成の質と量の充実を図るため,修士課程等の教育内容・方法の改革を推進する仕組みを早急に構築する。」とも述べている。
(1)現職の教員を続けながら大学院の第3ステージまでの実践的で体系的なカリキュラム
平成25年3月29日付で,大学設置基準の一部が改正され,大学における創意工夫により,より多様な授業機関の設定が可能になった。特に,講義とフィールドワークを組み合わせた授業科目の実施やサービス・ラーニングの導入等による弾力的な学事暦の設定が可能となり,短期大学や大学を卒業し,実際に教員として実践しながら,大学や大学院に入学し,土日等を通じて理論的な学修を行うことが可能になった。
本事業では,教員養成課程がある短期大学での学修を第1ステージ,大学へ編入して第2ステージ,大学院の第3ステージと,教員養成を3つのステージに分け,現職の教員を続けながら短期大学から大学院までの連携したカリキュラムを構成することにより,より実践的で体系的な教員養成カリキュラムを開発する。
(2)現職教員として働きながら課題を解決する仕組みと新しい教育方法の設計
現在の教職課程の課題として,大学の教員の研究領域の専門性に偏した授業が多く,学校現場が抱える課題に必ずしも十分対応していないことが指摘されている。
そこで,学校現場における実践力・応用力など教職に求められる高度な専門性を育成するためには,学校教育における理論と実践との融合を強く意識し,理論と実践の往還という観点から体系的な教育課程を編成することが特に重要となる。
本事業では,短期大学を卒業し,幼稚園・小学校教諭二種免許状を取得した学生が,幼稚園や小学校の教員として働きながら,勤務している学校や幼稚園等における実践で生じた指導上の疑問に答えることや課題についての討論を行うなどの事例研究,模擬授業,授業観察・分析,ロールプレーイング,現場における実践活動・現地調査(フィールドワーク)等のディアルシステムによる教育方法を積極的に開発・導入することにより,現職教員として働きながら課題を解決する仕組みと新しい教育方法を設計し実践した。
図1-1 現職の教員を続けながら大学院の第3ステージまでの実践的で体系的なカリキュラム
(3)理論と実践の往還により学生の力量の変化を評価
現在の教育職員免許法は,教科に関する科目,教職に関する科目等の所定単位を修得することにより教員免許が授与されることとなっており,個々の単位を修得した学生が本当に教員として必要な力を身に付けたかどうかは,各科目を選択して履修した学生に任されている。今後の,教員養成教育の改善に取り組む大学では,このような学習者依存型の教員養成ではなく,教員養成課程のプログラム全体で学生の力量を保証しようと取り組むことが重要である。
また,教員の資質向上方策の見直し及び教員免許更新制の効果検証に係る調査の集計結果(平成22年8月)によると,必要とされる教員の資質能力の充足度において,教育委員会からは,教材解釈の力(35。8%)が一番不足していると回答しているが,教職課程を有する大学では,対人間関係能力(54.4%)が一番不足していると回答している。つまり,教育委員会と大学とでは,必要とされる教員の資質能力において意識の違いがあり,また,教員養成の課題として,担当する大学教員の学校現場の経験が不十分(60.8%)と指摘されている。
そこで,本事業では,これらの短期大学から大学院までの体系的なカリキュラムや理論と実践の往還という観点における理論と実践の融合カリキュラムについて,教育委員会,短期大学,大学,大学院の4機関共同の評価検討委員会を設置し,教員養成における学生の知識・技能および活用力・創造的・探究力等の力量の変化を評価する手法を開発した。
沖縄と岐阜との教育における連携
1.沖縄と岐阜との教育における連携のはじまり
(1)沖縄県浦添市立当山小学校との連携
沖縄と岐阜とが連携をして教育を行った最初は昭和63年の「国立教育研究所プロジェクト研究」である。昭和63年4月より沖縄県教育委員会及び浦添市教育委員会の研究校指定を沖縄県浦添市立当山小学校(学校長仲本實氏(当時))が受けて,その一年次「算数科における基礎学力を高める為の指導~実態調査による児童のつまずきの把握と考察~」と言うテーマで研究を進めていた。同年の6月か7月頃に,当時岐阜大学教授後藤忠彦氏(現本学学長)よりコンピュータに関する講演があった。当時,当山小学校は県教委の達成度テストの結果が思わしくなく,結果はいつも沖縄県の下位グループで,如何にして学力を高めようかと思案にくれていたところの講演であり,その内容にヒントを得て,研究に役立つのではないかとの仲本学校長の思いから後藤教授の指導を得ることとなった。これが沖縄と岐阜とを教育で繋ぐ始まりであった。
平成元年の3月1日第一次研究発表会を終わり,児童の学力低下の原因や,今後の研究の進め方に付いて思案している所に,「学情研プロジェクトⅠ」への参加の話が後藤教授や浦添市教育委員会の池田指導主事から持ち上がり,当山小学校が参加する事を決めた。全国的な研究を基盤に沖縄と岐阜との教育が展開した初めである。
この研究を進めるにあたり,後藤教授は2~3か月毎に当山小学校を訪れ職員研修を行った。この継続した指導が沖縄の地に根付き,多くの教師の資質向上に繋がった。
(2)沖縄県宜野湾市立嘉数小学校との連携
平成4年には当山小学校校長であった仲本氏が宜野湾市立嘉数小学校へ学校長として転任をした。当山小学校で指導を受けたように後藤教授より嘉数小学校でも指導を受けたいと考えていた仲本氏が,岐阜県で開催された後藤教授がかかわる研究発表会に研究主任新垣英司教諭を派遣し引き合わせた。そのことにより嘉数小学校との繋がりができ,平成5年には数回嘉数小学校にて後藤教授は指導を行っている。嘉数小学校での指導においては財団法人学習ソフトウェア情報研究センターより学習ソフトが嘉数小学校に寄贈され,学習指導に役立てられた。
また,研究主任であった新垣英司教諭は沖縄県教育工学研究会に所属しており,後藤教授と沖縄県全体に情報教育が広まり,平成6年には「沖縄県マルチメディア教育研究会」を立ち上げることとなった。そのマルチメディア研究会で学習ソフトウェア情報研究センターのプロジェクトⅣに繋がり,後藤教授との関係が更に深まっていくこととなった。
2.沖縄と岐阜との教育における連携の経緯 ~教材開発(マルチメディア)と遠隔教育(教師教育)を中心に~
(1)沖縄県宜野湾市立嘉数小学校(平成5年)
①沖縄県宜野湾市立嘉数小学校(平成5年)に富士通FM-TOWNS 20台導入
平成5年度にプロジェクト研究の協力校および宜野湾市のコンピュータ整備事業によりネットワークの整ったパソコン室が設置され,マルチメディア対応の富士通FM-TOWNSが20台設置された。
ア.教育実践の状況
教員のコンピュータ活用能力向上のための一斉研修並びにいつでもどこでも個別対応での研修の実施。教育委員会とは連携を図り,学校の意見を多く取り入れて教育活動を行った。PTAの協力もありプリンタのインク等の消耗品費や教育ソフト購入費を予算化し購入した。
イ.教員の研究・研修の状況
平成5年岐阜県での情報教育研究大会に研究主任新垣教諭が参加。日本最先端の情報教育のノウハウを学び,沖縄県の学校で実践を行う。
ウ.教材の利用・開発
岐阜大学が支援し「マルチ学習カード」といった多機能の学習ソフトを開発し,嘉数小学校で活用し,子ども達が主体となって学習し,表現する授業等の研究を進めた。
エ.教育実践結果の評価
県・市「情報教育」指定校の嘉数小学校の研究発表会には県内離島を含め多くの教職員が参加した。嘉数小学校の研究成果は沖縄県の情報教育の推進に大きく貢献した。
(2)沖縄の地域文化教材の開発
①平成6年「沖縄県マルチメディア教育研究会」設立
顧問:岐阜大学 後藤忠彦教授
会長:嘉数小学校校長 仲本 實
事務局長:嘉数小学校研究主任 新垣英司
平成6年から県大会を開催し自作ソフトを活用したコンピュータの授業実践やインターネットを活用した授業提案として研究成果を公開した。また,平成7年から平成9年にかけて「マルチメディア教材実践プロジェクトⅣ沖縄県地区素材データベース」の参加団体として沖縄県マルチメディア教育研究会も沖縄県から参加した。
主なカリキュラム開発の実績としては,平成8年には『沖縄の素材を生かした自由研究』を沖縄出版から出版した。平成10年には宜野湾市立志真志小学校(研究主任:新垣英司)の校内研修とタイアップし,学習指導要領改訂の移行期前ではあるが,先行研究として総合的な学習における福祉教育プログラム(クロスカリキュラム)を開発した。
平成14年には,体験学習のガイドブックとして沖縄の素材を集め『親子で楽しむ 沖縄の自然探検』を日本標準から出版した。平成15年にはテレビ会議を活用したプロジェクト型の総合学習コラボレーション型の総合的な学習としてアメリカンスクールの子ども達と交流し「国際理解教育(普天間基地・嘉手納飛行場)」をテーマにテレビ会議で平和のメッセージを共同制作した。平成15年には全日本教育工学研究協議会・コンピュータ教育研究協議会・全日本情報教育研究協議会全国大会の事務局として沖縄大会「ITで広げよう心のネットワーク,育てよう未来からの留学生」を開催した。
②文部科学省指定デジタルコンテンツ高度化活用実践研究・地域資料情報化コンソーシアム
平成14年から平成17年までの間,文部科学省指定デジタルコンテンツ高度化活用実践研究・地域資料情報化コンソーシアム(岐阜・高知・沖縄)に沖縄県マルチメディア研究会も参加した。素材内容としては自然や文化,沖縄の城,伝統工芸,産業,漁業,農業等々の取材計画を作り,リバーサルフィルムによる撮影を行い,二次情報を加え素材データベースを制作した。
③伝統文化デジタルアーカイブ(教材)の開発,『沖縄危険生物デジタル辞典』の制作
平成16年に子どもゆめ基金助成(子ども向け教材開発・普及活動助成)を受け,『沖縄危険生物デジタル辞典』を作成しインターネットを活用し配信した。
④沖縄デジタル教科書研究会・沖縄カリキュラム開発研究会
平成23年度に科学研究費補助金(奨励研究)の助成を受け,「デジタル教科書における社会科地域資料のアーカイブ化の研究」の研究粋推進チームとして沖縄デジタル教科書研究会を組織した。その後,岐阜女子大学沖縄サテライト校に沖縄カリキュラム開発研究センターが設置されることになり名称を沖縄カリキュラム開発研究会に変更した。また,平成25年度は,科学研究費補助金(奨励研究)の助成を受け,「学習指導法についての教師が希望するメディア利用の特性~社会科の利用特性と教材化~」に取り組んでいる。
3.沖縄と岐阜との遠隔教育~教師教育としての遠隔教育~
(1)遠隔教育での教師教育
教師教育を遠隔教育において行った最初は平成4年11月1日(日)が最初である。財団法人学習ソフトウェア情報研究センターが主催した通信衛星による「学習講座」の実験事業がそれにあたる。コーディネート等でかかわった人物が,後藤教授(当時岐阜大学教授)である。北海道(江別市)・仙台・広島の会場を通信衛星で結び双方向性を保ち,中継放映教室として札幌,新潟,名古屋(2),大阪,福岡,小倉,大分,鹿児島,水戸,松戸,甲府,静岡,四日市の計14ヶ所で受講することができるようにした教員研修である。
その後遠隔教育としては,平成11年には松下視聴覚教育財団(当時木田宏理事長)による北海道,新潟(佐渡),岐阜(輪之内),宮崎(村間),東京をテレビ電話で結び,小学校の共同授業が開催された。
平成8年からは「大学院専修免許公開講座(岐阜大学主催)」を開催し,岐阜大学(岐阜市)と高山市とをテレビ電話を活用し結び,遠隔教育講座を開催した。当初は岐阜と高山の両教室に教員が在中している形態をとっていた。しかし平成10年3月に学校教育法の改正がなされ「遠隔教室」の設置が可能となった。(遠隔教室:マルチメディアを用いて,大学の教室と同様な教育が可能と認めることを条件)そのことにより,一方の会場から教員が講義を行う形態をとるようになった。テレビ会議システムを活用した教師教育の本格的な始まりである。岐阜市の岐阜大学の会場と高山市の会場で教員が教員免許状を専修免許状に上進するために講座を受講し多くの現職教員が専修免許状への上進を果たした。
平成12年には「遠隔教育振興連携大学遠隔教育プロジェクト」が発足し,プロジェクトの代表として木田宏先生,その中心校として岐阜女子大学が参画することとなった。衛星放送(CS),テレビ会議システムを用いた教師教育の実践を行った。多くの国私立大学が連携し,東亜大学の協力による衛星放送(CS)と各大学のテレビ会議システムを用いて,それぞれの大学のもつ特性を有効に活用した授業の在り方を検討し,放送と通信を併用した連携大学院遠隔教育システムを開発した。その結果全国の十数ヶ所の遠隔教室で,大学院の専修免許関係の講義を開講し約1900名さらに生涯学習,一般の教師教育等でも多数のものが受講した。共同開発者は後藤忠彦・谷口知司(岐阜女子大学),生田孝至(新潟大学),加藤直樹・村瀬康一郎(岐阜大学),松下文夫(香川大学),中村紘司(北海道教育大学),有薗格(静岡文化芸術大学)である。
このような経緯を経て,遠隔教育での教師教育が本格的にスタートしていったのである。
(2)沖縄県での教員研修
①CSを用いた遠隔教育
平成12年度より開催されていた岐阜女子大学が中心校となっての遠隔教育プロジェクトにおいて,平成13年に岐阜女子大学文化情報研究センターおよび沖縄県でCSとテレビ会議システムを用いて大学院専修免許公開講座を開設した。
②インターネットを用いた遠隔教育
その後,教員経験による専修免許状取得単位が6単位から15単位になり,対応が困難になった。(その後,沖縄では平成18年よりインターネット(Bフレッツ)を用いた大学院遠隔教育を始めることとなる。)
(3)沖縄等と岐阜女子大学の遠隔教育(平成13年以降)
①沖縄と岐阜の第一期の遠隔教育システムを用いた専修免許取得講座(6単位)の開催
平成13年に宜野湾市立教育研究所(はごろも学習センター)の教員研修として,遠隔教育振興会連携大学遠隔教育プロジェクトを活用した専修免許取得の講座を実施した。岐阜大学の支援を受け電話回線によるテレビ会議システムを利用し,文部科学省の免許法認定講習会を宜野湾市立教育研究所(はごろも学習センター)で受講できる環境を整えることができ,これまで沖縄県の島嶼性により免許法認定講習会を受講することができなかった沖縄県の多くの教職員が専修免許への上進を行うことができた。(研修係長:新垣英司氏)
しかし,教員経験による専修免許状取得単位が6単位より15単位に増加したことにより,この遠隔教育での対応が困難となった。しかし,沖縄県からの要望として次のような要望が強く起こり,平成18年に次の段階へと進むこととなった。
【沖縄の要望】
・小学校教諭二種免許状から一種免許状への上進を希望する教員が多い
・小学校教諭一種免許状から専修免許状への上進を希望する教員が多い
・大学院授業の開設の希望が多い(教員,デジタルアーキビスト等の資格)
上記の要望の声が大きくなり平成18年に大学院・研修講座の開講へと発展していった。
②沖縄教育カレッジでの大学院・研修講座の開講(平成18年)
沖縄教育カレッジ(代表:宮里祐光氏)の教室を借用し通信ネットワーク(Bフレッツ),テレビ会議システムを用いた高画質の映像による双方向通信システムによる授業の開講を始めた。沖縄教育カレッジの好意で1教室を借用し,遠隔教育システムを平成18年に設置した。最初は,大学院の遠隔教育を始めたが,小学校教諭二種免許状から一種免許状への上進希望者が多く,科目等履修の形をとり一部の教科を開講した。これがその後の沖縄女子短期大学との姉妹校提携につながることとなる。
(4)沖縄女子短期大学との姉妹校提携
①姉妹校提携への経過
平成20年,沖縄教育カレッジ(宮里先生)より,当時,岐阜女子大学と教育カレッジの間で行われていた遠隔授業,大学院(専修免許,上級デジタル・アーキビスト資格),教員免許状上進についての情報が沖縄女子短期大学の福地学長へ提供された。
短期大学(その他)等において,教員二種免許状を取得し教員採用試験に合格した教員の上進の課題,また,沖縄女子短期大学の学生の教員免許状の上進などについて,どのように保障していくのかという内容で,福地学長,宮里氏,長尾氏(当時,沖縄県教育庁生涯学習振興課に在職中)で話し合いが持たれた。
沖縄女子短期大学として,短期大学を卒業後,一種~専修までの学習を保障することが必要であること,および学び続ける教師の育成が必要であることなど,多角的な見地から岐阜女子大学との連携について前進させることを確認することとなった。
その後,岐阜女子大学と沖縄女子短期大学の連携締結がなされ,沖縄女子短期大学→岐阜女子大学への3年次編入制→岐阜女子大学大学院入学という形が確立されることとなった。
②姉妹校提携
平成21年2月に岐阜女子大学と沖縄女子短期大学は姉妹校締結を行った。同年4月より岐阜女子大学沖縄サテライト校開設の運びとなった。4月より沖縄女子短期大学を卒業した8名の学生が岐阜女子大学3年次へ編入するとともに大学院への6名の入学生も迎え入れた。
沖縄女子短期大学としては,教員免許に関する今後の社会状況を踏まえ,短期大学学生にもできる限り一種免許状の取得をさせたいこと,四年制大学の学位を授与させたいこと,これらを現職の教員として働きながら実現させたいことの要望があった。本学との連携においては,沖縄女子短期大学の施設内に沖縄サテライト校を設置したこと,一種並びに専修免許状への上進のための授業,大学・大学院卒業・修了のための授業・研究を全て土日に設定し行ったことにより,現職の教員として働きながら免許状の上進をするとともに学位(学士や修士)を得ることができる仕組みを実現した。
③短大卒業教員の大学院での履修~資質の向上と専修免許への上進~
平成25年9月現在,岐阜女子大学沖縄サテライト校の大学院で学ぶ院生は大学院在学中の者の中で,約66%の者が沖縄女子短期大学の卒業生である。このことは,岐阜女子大学との姉妹校提携により,沖縄女子短期大学の卒業生の大学院への進学および再教育(資質の向上と専修免許への上進)への方向付けが可能になり,その教育実践が進みだしたと考える。
これにより,沖縄女子短期大学の卒業生の二種免許状から専修免許状への上進の対応が進みだし,短期大学入学生の教員免許(幼・小学校)の上進の方向性が確立できた。
④遠隔教育システムの構成
沖縄女子短期大学と岐阜女子大学は,平成21年2月に姉妹校提携を結び沖縄女子短期大学から進学した学生は,岐阜女子大学沖縄サテライト校にて,テレビ会議システム,岐阜女子大学e-Learningシステムを活用した遠隔教育による講義を受講している。
また,夏季休暇を利用して岐阜女子大学本校での夏季集中講義を受講し,講義内容の充実を図っている。進学した沖縄女子短期大学の学生のほとんどが,小学校の非常勤教員や非常勤の幼稚園教諭,保育士として現場での研鑽を重ねながら,基本的には土曜日,日曜日の通学により小学校教諭一種免許状,幼稚園教諭一種免許状の取得に向けて取り組んでいる。さらに,単位を取得して,上級デジタル・アーキビスト,学校図書館司書教諭,図書館司書等の免許の取得が可能となっており,進学者の学習意欲を高めている。
これまで述べてきたように,沖縄と岐阜とが教育において連携を図るようになったのは昭和63年のころからであり,本学学長後藤忠彦のかかわるところが非常に大きいということは言うまでもない。現在の沖縄女子短期大学と連携した教師教育が行うに至ったには,これまでの後藤を中心とした沖縄との二十年来に渡る教育実践研究・教員研修等の功績が大いにかかわるものである。
沖縄と岐阜の連携による教師教育についての詳細は,巻末に資料Ⅲ「沖縄・岐阜連携の教師教育と教育実践研究 ~遠隔教育・デジタルアーカイブの利用~」として収録した。
短期大学から大学院までの実践的で体系的なカリキュラムの開発
1.大学編入プログラムの開発
(1)大学編入カリキュラムポリシー
○本学は「人らしく,女らしく,あなたらしく,あなたならでは」という建学の精神に基づいて「教養ある高度な専門性をもつ職業人養成を重視した教育を施す」という教育目標を掲げている。
○それは,慈しみの心を育み(人らしく),きめ細やかな感性を発揚し(女らしく),自我を確立させ(あなたらしく),責任ある個性が発揮できる(あなたならでは)人材を養成する(教養ある高度な専門職)という教育理念をもとに,社会に貢献できる人材の育成が本学の使命である。
○建学の精神,教育目標に基づいて,本学の学部(家政学部,文化創造学部)では,「あいさつ」運動を始め,教育概念に対する教育および21世紀の高度化,多様化が進んだ,この社会を教養ある高い専門性をもつ職業人として生き抜くことのできる人材育成を進めている。
○さらに,今後の社会の高度化に対し,大学院教育をより充実し,社会に貢献できる各専門分野で活躍できる高度な専門性をもつ人材の育成が必要である。
○また,我が国の18歳以上の減少,社会の多様化,高度化と社会的需要の推移に応じた学部の改組,大学院の充実が必要となった。
○平成21年2月に,沖縄女子短期大学と姉妹校提携を締結し大学の3年次への編入学のコースさらに,大学院のコースを設置し,短大―大学―大学院の連携教育と公開講座を開講し,社会貢献として,広く社会人の大学・大学院での学修を可能にした。
○姉妹校である沖縄女子短期大学にも,従来の総合ビジネス学科に観光ホスピタリティコースを開設され,本学で幼稚園教諭の専修免許取得ができることから,福祉教育コースや心理教育コースからも学生の編入(進級)希望が増加している。
○本学も,これらの外部環境の変化に伴い,毎年編入生のニーズに合ったカリキュラムを独自に作成し,平成26年度からは教材クリエイターコースも開設し,本学独自の特色を持ったカリキュラムにしてきた。その結果,沖縄女子短期大学からの編入生も,平成21年度は8名であったのが,現在28名の学生が学んでいる。一方,沖縄の大学院生も,27名在籍しており,今後も学部生・大学院生の増加が見込まれる。
○今年度,この短大から編入し,大学,大学院と実践的で体系的な本学のカリキュラムによる教育システムが評価され,平成25年度文部科学省より教員の資質能力向上に係る先導的取組支援事業【教育委員会等との連携による教員の実践的資質能力向上システムの構築~短期大学から大学院まで体系化した教員養成カリキュラムの開発と教材資料の流通・提供~】に採択された。
○沖縄女子短期大学からの編入については,図のような履修モデルを示し,現職教員として働きながら学ぶことできるように,事前学習科目を設定し,短大在学中に受講することにより,本学に編入した時に単位を認定する科目を設定し,編入について荷重負担とならないとともに,短大から大学への編入に対する抵抗感を無くすように工夫した。
2.大学編入における科目認定基準と単位互換の検討
(1)大学編入における科目認定基準
3年次編入に関する単位認定についての基本的な方針(案)
岐阜女子大学文化創造学部
基本的な方針
本学では,編入学前の大学,短期大学等の教育機関での学習経験を尊重し, 70単位を上限として個別認定(一部包括認定)を基本とする。
内規(案)
(趣旨)
第1条 この内規は,岐阜女子大学学則第26条並びに第27条において岐阜女子大学文化創造学部(以下「文化創造学部」という。)に編入学した学生が,本学部に編入する前に大学,短期大学,高等専門学校又は専修学校等(以下「大学等」という。)において履修した授業科目について修得した単位の認定(以下「編入学前の既修得単位の認定」という。)に関し必要な事項を定める。
(編入学前の既修得単位の認定)
第2条 編入学前の大学等の教育機関での学習経験を尊重し,70単位を上限として個別に認定(一部包括認定)する。
第3条 編入学前の既修得単位の認定は,各専攻において教務委員が,次に揚げる事項を総合的に評価し,教務委員会の審議を経て教授会が行う。
(1) 編入学前の既修得した授業科目(以下「編入学前の授業科目等」という。)の内容,レベルおよびその単位の修得に要した受講時間等
(2) 編入学前の授業科目等のシラバス,テキスト及び成績
2 前項の評価にあたっては,同項第1号にあっては,面接及び口頭試問又は筆記試験を行うことができる。
(認定単位数等)
第4条 単位を認定した授業科目の成績評価は「認定」とする。
附 則
この内規は,平成○年○月○日から施行する。
(2)大学編入における単位互換の方針
沖縄女子短期大学と岐阜女子大学との単位互換に関する協定(案)
沖縄女子短期大学と岐阜女子大学は,相互の交流と協力を振興し,教育研究の活性化及び教育課程の充実を図りつつ,学生に多様な教育を提供することを目的とし,次により沖縄女子短期大学の学生に対する単位互換を行うことに合意する。
(対象学生)
第1条 本協定による単位互換制度の対象となる学生は,沖縄女子短期大学に在学する学生とする。
(受入学生の呼称)
第2条 本協定に基づき,岐阜女子大学が受け入れる沖縄女子短期大学の学生は,単位互換履修生と称する。
(受入学生数)
第3条 岐阜女子大学が受け入れる単位互換履修生の数は,沖縄女子短期大学と岐阜女子大学の協議により決定する。
(履修方法)
第4条 単位互換履修生の科目登録,単位の認定等の履修方法については,沖縄女子短期大学の定める規則による。
(授業料等の費用)
第5条 単位互換履修生の受入に係る検定料,入学料及び授業料は徴収しない。
(運営組織)
第6条 本協定書に基づく単位互換を円滑に実施するため,沖縄女子短期大学と岐阜女子大学の代表者による運営組織を設ける。
(改廃)
第7条 本協定に参加する大学の変更及び本協定書の改廃については,学長間の協議によるものとする。
(その他)
第8条 本協定書の定めるもののほか,単位互換の実施に関する細目は,覚書により別に定める。
附則 この協定は,平成○年○月○日から施行する。
本協定書は2通作成し,それぞれ署名捺印の上,各自が1通を保管する。
3.短期大学と連携した教育プログラムの開発
(1)短期大学における教員養成の課題
昨今の教育を取り巻く社会状況は,様々な変化を抱えている。特に,子どもたちの抱える課題には,いじめや不登校,学ぶ意欲や社会性の低下等,様々な課題が山積している。少子化,親の経済基盤の揺らぎなどから生ずる問題も多くみられる。このような多様な教育的な課題に適切に対応するために,教員としての専門性を兼ね備え,さらには豊かな人間性と指導力が求められるようになってきている。
短期大学で取得できる教員免許が二種免許であり,短大を卒業後の教員の資質向上及び免状の上進にかかわる支援が急務となっている。一方で,短期大学での教員養成の特徴として,現職教員としての実務をこなしながら理論と実践をつなぐべく大学,大学院に進学するという選択肢も広がっている。また,短期大学の現時点での幼稚園教諭の70パーセント,小学校教諭に関しても15パーセントが二種免許の保有者となっており,その方々の免許の上進も課題となっている。
さらに,沖縄県の現状として,近年の小学校教員の採用試験に関しては,1400から1500名程度の受験希望者がおり,その中から選抜される採用候補者が100名程度となっており,倍率の高さが鮮明となっている。毎年実施される教員採用試験に合格ができる基礎学力および教職教養等の充実も教職課程を有する短大としての取り組みを充実させる必要も生じている。
近年の学校現場では子どもたち自身の変化はもとより教育環境や社会情勢等の変化などから教育にかかわる状況は日々,新しい知識や情報,より高度で適切な指導方法が必要になってきている。直接,子どもたちとかかわる教員には,そのような変化に対応できる先生には学び続ける教員像が求められている。
高度な教育者としての資質や研究心をどのように持続し,実践の場で理論を展開するか養成校として,その責任が問われてきている。特に,短期大学という2年間の学びの中で,教師としての理論と実践を充実させ,さらにその後の免許の上進や現職教員となって後の研究機関としての短大の在り方について考えなければならない。
(2)短期大学・大学・大学院への継続した学び
現在,短期大学で取得できる教員免許状は二種教員免許状である。短期大学を卒業後の教員の資質能力の向上及び免許状の上進に関わる支援が急務となっている。一方で,短期大学の学びの特色として,現職の教員として実務に携わりながら,大学・大学院での学びを行うことができるという大きなものがある。これは,短期大学において二種免許状を取得するからこそ実現できる学びの方法である。そこで,この現職での実務に就きながら,大学・大学院での学びを支援する方策が必要となってくる。そこで,短期大学と大学・大学院が連携をした教員養成のための教育プログラムの開発が行われた。
短期大学は沖縄女子短期大学であり,大学・大学院は岐阜女子大学である。沖縄女子短期大学と岐阜女子大学は成21年2月に姉妹校提携を結び,教員養成の体系的な連携を図ってきた。沖縄女子短期大学での幼・小学校教諭二種免許状の取得のための教育を第1ステージでの学修と位置づけ,岐阜女子大学へ編入しての幼・小学校教諭一種免許状取得のための教育を第2ステージでの学修,さらに大学院へ編入し,幼・小学校教諭専修免許状取得のための教育を第3ステージでの学修と位置づけた。
(3)短期大学での学び(第1ステージでの学修)
沖縄女子短期大学は,これまでに沖縄県内を中心として小学校教員採用試験の合格者約400名を輩出し,多くが小学校等で活躍している。幼稚園教諭,保育士に関しても数千名を超える資格取得者を輩出し,県内の幼児教育の現場で働いている。短期大学で取得できる教員免許状は二種免許状であること,在学の学生はもとより,卒業生の資質向上と免許の上進についても教職課程を有する短大の担う責務として検討を行ってきた。
これらの教員に対し,短大・大学・大学院の連携したリカレント教育は学校教育の高度化と教員の資質の向上,さらに教員免許の上進として,姉妹校としての両大学が社会的に責任をもつ必要がある。
このことは,教員養成を目的とする大学,学部等にとって,卒業生のアフターケアとして,また,教員の資質向上として,当然すべき課題である。
そこで,両大学は,積極的な卒業生の学修支援活動を進めてきた。その結果,平成25年9月現在,岐阜女子大学沖縄サテライト校の大学院で学ぶ院生は次のようである。
図3-2のように大学院在学中の者の中で,約66%の者が沖縄女子短期大学の卒業生である。このことは,岐阜女子大学との姉妹校提携により,沖縄女子短期大学の卒業生の大学院への進学および再教育(資質の向上と専修免許への上進)への方向付けが可能になり,その教育実践が進みだした結果である。
(4)大学での学び(第2ステージでの学修)
沖縄女子短期大学から岐阜女子大学へ進学した学生は,岐阜女子大学沖縄サテライト校にて,テレビ会議システム及び岐阜女子大学e-Learningシステムを活用した遠隔教育による講義を受講する。さらには,夏季休暇を利用して岐阜女子大学本校での夏季集中講義を受講し,講義内容の充実を図っている。
進学した沖縄女子短期大学の学生のほとんどが,小学校・幼稚園の非常勤教諭,保育士として現場での研鑽を重ねながら,基本的には土曜日,日曜日の通学により講義を受講し,小学校教諭一種免許状,幼稚園教諭一種免許状の取得に向けて学びを進める。さらに,デジタルアーキビスト,学校図書館司書教諭,図書館司書等の資格取得が可能であり,複数の免許状並びに資格を取得し,自身の教員としての資質能力の向上を図ることができるカリキュラムがあり,進学者の学習意欲を高めている。
(5)大学院での学び(第3ステージでの学修)
大学での学び以上にさらに学ぶ意欲があり,そして免許の上進を希望する学生に対しては,大学院の整備が行われている。大学院へ進学することにより小学校教諭専修免許状,幼稚園教諭専修免許状の取得が可能である。また,本学では大学院科目早期履修制度があり,大学4年次で大学院の科目を早期に履修することができ,大学院へ進学することによりその単位が認定される。この制度を活用することにより,大学院での学びを1年間で修了することが可能となっている。
このような免許の上進制度を活用して沖縄女子短期大学から岐阜女子大学・大学院へ進学した学生数をまとめたのが表3-2である。
これまで述べてきた沖縄女子短期大学と岐阜女子大学との連携の在り方,教育プログラムについてまとめたのが,図3-3である。
以上のことから,短期大学の卒業生が大学・大学院と連携をして教員養成のための教育プログラムを開発し実施することにより,二種免許状から一種免許状そして専修免許状への上進につながる道筋が整った。これは以前より海外でも言われていた短期大学卒業後,教員として活躍し,その後,教育的な課題をもって大学・大学院で学修・研究することで,教員としての資質能力の向上を図るという一つの教員養成,並びに教員の資質向上方策の体制が整備できたのである。
4.講義とフィールドワークを組み合わせた授業科目の実施やサービス・ラーニングの導入等による弾力的な学事暦の設定
(1)学生の教育実践活動と講義の連携
教師の立場から見た大学・大学院での学修は,教育実践活動,大学での理論的背景とそれを支援する実践・研究用の教育資料(教育情報)の提供・利用でより確かな実践力をつけることにある。
この教育実践研究資料としては,大きく分けて次のように資料の整備を進めている。
①教育実践の各課題の背景となる資料
たとえば,新教育課程の検討にあたって,教育基本法等がどのような背景で構成されてきたか,関連資料を整備し,研究の基礎資料として提供している。
②カリキュラム・教材開発の基礎資料
たとえば,言語活動の指導であれば,「~から~まで」,「~と~」,「~の~」などの「ものごと」を考える基礎となる論理的思考操作に関する言語が小学校1年生から6年生まででどのように使われているか,また,その学習状況についてのデータ等の提供をしている。
③学習指導に関する資料
たとえば,発問に対する児童の反応,話し合いでの指導方法等に関する基礎資料の提供をしている。
④デジタル教科書等の研究基礎資料
戦後の教科書制度に関する各種資料や昭和21年当時の文部省教科書担当者のオーラルヒストリー等を管理し,提供している。
⑤素材・教材等の管理と提供
デジタルアーカイブとして,たとえば沖縄県内の映像(1万数千件)素材や教育実践で開発された教材等を保管し,提供している。
このような各種のデータの提供を進めることを可能にし,これらを基礎として教育実践研究を進めている。これらの整備を進め,各種資料が支えとなり,教育実践と授業の理論が融合した学生の教育研究へと発展できていると考える(図3-5)。
さらには,教師として日頃実践している教育実践を単位化することも考えている。これは,教師としての実践活動を中心にした授業は,教育実習以上に教育の理論と実践を結びつけ,確かな実践力・教育力を育成すると考えているからである。このため本学では,これらの実践と理論を結びつける授業を構成し,その単位化を図っている。この成果は,卒論や修論研究の基礎学習としても重要である。このため,今後,さらなる授業科目の設定と教育資料の充実を進め,新しい教員養成や教師教育の方向性の研究を進めていきたい。
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