【研究】デジタルアーカイブの普通教科「情報」への展開
【研究】デジタルアーカイブの普通教科「情報」への展開
1.概要
探究学習とは、生徒自らが課題を設定し、解決に向けて情報を収集・整理・分析したり、周囲の人と意見交換・協働したりしながら進めていく学習活動のことです。探究学習では、生徒の思考力や判断力、表現力などの育成を目的としている。小学校や中学校では「総合的な学習の時間」の科目、高等学校では「総合的な探究の時間」などの科目において、探究学習を導入した授業が行われている。
平成30年の高等学校の学習指導要領では、 総合的な学習の時間は,学校が地域や学校,児童生徒の実態等に応じて,教科・科目等の枠を超えた横断的・総合的な学習とすることと同時に,探究的な学習や協働的な学習とすることが重要であるとしてきた。特に,探究的な学習を実現するため,「①課題の設定→②情報の収集→③整理・分析→④まとめ・表現」の探究のプロセスを明示し,学習活動を発展的に繰り返していくことを重視してきた。全国学力・学習状況調査の分析等において,総合的な学習の時間で探究のプロセスを意識した学習活動に取り組んでいる児童生徒ほど各教科の正答率が高い傾向にあること,探究的な学習活動に取り組んでいる児童生徒の割合が増えていることなどが明らかになっている。
また,総合的な学習の時間の役割はOECD が実施する生徒の学習到達度調査(PISA)における好成績につながったことのみならず,学習の姿勢の改善に大きく貢献するものとして OECD をはじめ国際的に高く評価されている。
そこで、 高等学校においては,名称を「総合的な探究の時間」に変更し,小・中学校における総合的な学習の時間の取組を基盤とした上で,各教科・科目等の特質に応じた「見方・考え方」を総合的・統合的に働かせることに加えて,自己の在り方生き方に照らし,自己のキャリア形成の方向性と関連付けながら「見方・考え方」を組み合わせて統合させ,働かせながら,自ら問いを見いだし探究する力を育成するようにした。
総合的な探究の時間のねらいや育成を目指す資質・能力を明確にし,その特質と目指すところが何かを端的に示したものが,以下の総合的な探究の時間の目標である。
第 1 目標
探究の見方・考え方を働かせ,横断的・総合的な学習を行うことを通して,自己の在り方生き方を考えながら,よりよく課題を発見し解決していくための資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
(1)探究の過程において,課題の発見と解決に必要な知識及び技能を身に付け,課題に関わる概念を形成し,探究の意義や価値を理解するようにする。
(2)実社会や実生活と自己との関わりから問いを見いだし,自分で課題を立て,情報を集め,整理・分析して,まとめ・表現することができるようにする。
(3)探究に主体的・協働的に取り組むとともに,互いのよさを生かしながら,新たな価値を創造し,よりよい社会を実現しようとする態度を養う。
つまり、総合的な学習の時間を総合的な探究の時間に変更することにより、その目的や授業の在り方についても大きく変更することが求められている。そもそも、「探求」とは、探し求めると書くように何かを探し求め手に入れようとすることです。一方で「探究」とは、探し究めると書くように何かを探しながら究めていくことになります。特に究めるという言葉は学問を究めたり、真相を究めたりといった場合に使われる言葉で、「探求」と「探究」では目的が異なっている。
つまり、「総合的な学習の時間」と「総合的な探究の時間」の違い学習指導要領の総合的な探究の時間の解説には以下のような記載がある。
両者の違いは(中略)総合的な学習の時間は、課題を解決することで自己の生き方を考えていく学びであるのに対して、総合的な探究の時間は、自己の在り方生き方と一体的で不可分な課題を自ら発見し、解決していくような学びを展開していく。ということである。
つまり、総合的な学習の時間が課題解決→自己の生き方の順であることに対し総合的な探究の時間はそれが同時であることが違いとしていえる。
デジタルアーカイブの普通教科「情報」への展開
日本における高等学校で「普通教科情報」という科目が設けられたことに関する弊害について考えてみます。情報教育の重要性を認識しつつも、いくつかの潜在的な問題点が挙げられます。
1. 教員の専門知識と研修不足
情報科目を教える教員が十分な専門知識や技術を持っていない場合、教育の質が低下する恐れがあります。特に、新しい科目導入初期には、教員の研修や再教育が追いつかないことが考えられます。
2. カリキュラムの過密化
新しい科目を追加することで、既存のカリキュラムがさらに過密化する可能性があります。これにより、生徒や教員の負担が増加し、他の重要な科目の学習時間が減少するリスクがあります。
3. 資源の不均衡
情報科目に必要なハードウェアやソフトウェアなどの教育リソースが、学校間で均等に整備されない可能性があります。特に、地方の学校や資金に余裕のない学校では、最新の技術を取り入れることが難しい場合があります。
4. 生徒間の格差
情報技術へのアクセスや前提知識に関して、生徒間で格差が生じる可能性があります。家庭環境や地域差によって、生徒が持つ情報リテラシーのレベルに大きな違いがある場合、公平な教育を実現するのが難しくなります。
5. 教育内容の急速な変化
情報技術の進歩は非常に速く、教育内容が時代遅れになるリスクがあります。カリキュラムの柔軟な更新が求められる一方で、それに追随するための制度や体制が整っていない場合、教育内容が現実の技術や社会のニーズと乖離する可能性があります。
6. 他科目との連携不足
情報科目が他の教科と連携せず、孤立した存在になるリスクもあります。他の教科との横断的な学びが重要であるにもかかわらず、それが十分に実現されない場合、情報教育の効果が限定的になる可能性があります。
これらの問題点を踏まえつつ、適切な対応策を講じることで、普通教科情報の導入が効果的に行われるよう努めることが重要です。例えば、教員の専門性向上のための研修プログラムの充実や、教育リソースの均等な配分を図るための政策が求められます。また、生徒間の格差を解消するためのサポート体制の強化も必要です。
「普通教科情報」が日本の高等学校に導入されたことにより、情報科目を嫌う学生が増えたかどうかについての具体的なデータや調査結果は現時点では十分に公開されていないため、確定的なことは言えません。ただし、いくつかの可能性と要因について考察することはできます。
1. 新しい科目への抵抗
新しい科目が導入される際、学生は未知の内容に対して抵抗感を抱くことがあります。特に、情報科目に対して興味や関心を持たない学生は、「難しい」「自分には向いていない」と感じるかもしれません。
2. 教え方の問題
情報科目を担当する教員の指導力や教え方によって、学生の興味が大きく影響されることがあります。教員が効果的な授業を行えない場合や、教員自身が情報技術に不慣れな場合、学生のモチベーションが低下する可能性があります。
3. 教材やカリキュラムの内容
情報科目の教材やカリキュラムが難解すぎたり、実生活との関連性が薄いと感じられたりすると、学生は興味を失いやすくなります。特に、プログラミングやデータサイエンスなどの内容が難しく感じられる場合、学生が「情報嫌い」になる可能性があります。
4. 試験や評価方法
評価方法が厳しすぎたり、一部の学生にとって不公平に感じられる場合も、情報科目に対するネガティブな感情が生まれる原因となります。例えば、試験の内容が難解である場合、学生はプレッシャーを感じ、情報科目を嫌うようになるかもしれません。
5. 既存の興味との競合
学生の興味が他の科目や活動に集中している場合、新しい情報科目に対する関心が薄れることがあります。例えば、文系科目やスポーツに強い関心を持つ学生にとって、情報科目は「必ずしも必要ではない」と感じられるかもしれません。
これらの要因が組み合わさることで、一部の学生が情報科目を嫌う可能性はあります。しかし、逆に、適切な指導法や興味を引く教材が提供されれば、情報科目への関心が高まることも十分に期待できます。教育現場では、学生一人ひとりのニーズや関心に応じた柔軟な対応が求められます。
教員の専門性向上: 情報科目を教える教員に対する研修を充実させる。
魅力的な教材開発: 学生が興味を持つような実践的で魅力的な教材を提供する。
柔軟な評価方法: 学生の多様な学びを評価できる柔軟な評価方法を導入する。
カリキュラムの調整: 学生の興味や関心に応じたカリキュラムの調整を行う。
これらの対策を講じることで、情報科目への嫌悪感を軽減し、より多くの学生が情報技術に興味を持つようになることが期待されます。
「普通教科情報」が理科系に偏っており、文科系の生徒にとって難しいと感じられる可能性はあります。以下にその理由と対策を挙げます。
技術的な内容の多さ
プログラミングやアルゴリズム、データベース、ネットワークなどの内容は、理科系の生徒にとっては興味深いかもしれませんが、文科系の生徒にとっては馴染みがなく、難解に感じられることがあります。
数理的な思考の要求
情報科目では論理的思考や数理的なアプローチが重要視されます。文科系の生徒にとっては、これらの思考方法が慣れないため、ハードルが高く感じられることがあります。
既存の興味とのギャップ
文科系の生徒は文学や歴史、社会学などに強い興味を持っていることが多く、情報科目の内容がその興味と大きく異なる場合、モチベーションの低下が懸念されます。
カリキュラムの多様化
情報科目のカリキュラムを多様化し、文科系の生徒にも関心を持たせる内容を取り入れることが重要です。例えば、デジタルリテラシー、メディアリテラシー、情報倫理など、文科系の生徒にも関連性のあるトピックを強化することが考えられます。
実生活との関連付け
情報技術がどのように実生活や社会に応用されるかを具体例を通じて示すことで、文科系の生徒にも興味を持たせることができます。例えば、デジタルアーカイブの活用やソーシャルメディアの影響など、身近なテーマを取り上げることが効果的です。
プロジェクトベースの学習
文科系の生徒が取り組みやすいプロジェクトベースの学習を導入することで、実践的なスキルを身に付けながら学ぶことができます。例えば、デジタルストーリーテリングのプロジェクトや、社会問題をデータで分析するプロジェクトなどが考えられます。
協力的な学習環境の提供
理科系の生徒と文科系の生徒が協力して学ぶ環境を整えることで、お互いの強みを活かし合いながら学ぶことができます。グループワークやペアプログラミングなどを通じて、異なる背景を持つ生徒同士の交流を促進することが重要です。
まとめ
「普通教科情報」が理科系に偏りがちで、文科系の生徒にとって難しいと感じられる場合があります。しかし、カリキュラムの多様化や実生活との関連付け、プロジェクトベースの学習などを取り入れることで、文科系の生徒にも興味を持たせ、学びやすくすることが可能です。教育現場では、生徒一人ひとりのニーズや関心に応じた柔軟な対応が求められます。
普通教科情報に「デジタルアーカイブ」を導入することは、非常に有益な取り組みとなる可能性があります。以下にその理由と導入のメリットを挙げます。
理由とメリット
実生活との関連性
デジタルアーカイブは、文化財や歴史的資料の保存・活用に関わるため、実生活や社会と深く関連しています。これにより、文科系の生徒も興味を持ちやすくなります。
文理融合の教育
デジタルアーカイブの作成や管理には、情報技術だけでなく、歴史や文化、社会学などの知識も必要です。これにより、文系と理系の学びを融合させることができ、総合的な教育が可能となります。
スキルの多様性
デジタルアーカイブには、データのデジタル化、データベース管理、メタデータの付与、ユーザーインターフェースの設計など、多様なスキルが求められます。これにより、学生は幅広いスキルセットを習得できます。
プロジェクトベースの学習
デジタルアーカイブのプロジェクトは、実践的で魅力的なプロジェクトベースの学習の題材となります。学生は実際のアーカイブ資料を扱いながら、チームで協力してプロジェクトを進めることができます。
社会貢献の意識
デジタルアーカイブは、文化財の保護や情報の公開・共有に貢献する活動です。これにより、学生は社会貢献の意識を持ち、情報技術を社会に役立てる方法を学ぶことができます。
導入の具体例
歴史的資料のデジタル化
地元の歴史的資料や学校の歴史資料をデジタル化するプロジェクトを実施します。これにより、学生はスキャニング技術や画像処理の基本を学ぶことができます。
メタデータの付与と管理
デジタル化された資料にメタデータを付与することで、データベース管理の基本を学びます。これには、データベース設計やSQLの基本も含まれます。
ユーザーインターフェースの設計
デジタルアーカイブのユーザーインターフェースを設計・開発することで、ウェブデザインやユーザーエクスペリエンス(UX)の基本を学びます。これには、HTMLやCSS、JavaScriptの基本も含まれます。
デジタルアーカイブの公開と普及
作成したデジタルアーカイブを一般公開し、地域社会や学校コミュニティに役立てることで、情報の共有と普及の重要性を学びます。
まとめ
「デジタルアーカイブ」を普通教科情報に導入することは、文理融合の教育を推進し、生徒に多様なスキルを身につけさせる有効な方法です。実生活との関連性が高く、プロジェクトベースの学習にも適しているため、生徒の興味を引きやすく、学習意欲の向上にもつながるでしょう。