【授業】日本書道史
【授業】日本書道史
Ⅰ はじめに
現代は,過去の多様な価値観の集積の上に成り立っている.それは,文字文化や書道(書法)文化においても例外ではない.私たちが,広く文字に対して,特に書かれた文字に対してどのように考え,これからどのように関わっていくかを考えるためには,過去の歴史を今日的な視点から的確に捉えることが必要である.日本における文字や書道の歴史を辿ることは,そのまま現在の自己の立脚点を確認する作業である.
Ⅱ 授業の目的・ねらい
文字や書道の歴史を学ぼうとするときに求められるのは,まず過去の書跡や作品等についての正確な知識とその理解である.各時代の社会背景や状況を把握しながら,書跡の内容や形式,書者の事績等を総合的に理解するようにしたい。また,時代ごとのトピックスを的確に捉え,自らの課題に引き寄せ,主体的に学習を深めていく力の育成を目指す.また,現今の書道教育においては,複製等の視覚的教材による鑑賞とそれを充実したものにするための学習指導上の工夫が求められている.対話的な学習を通じて,自己の感じ方や考え方を適切に伝えることのできる能力の育成を目指し,今後求められることになる教育技術の向上につなげたい.
Ⅲ 授業の教育目標
(1)文字文化・書道(書法)文化の広がりの中で,日本の文字や書道の歩みについて的確に捉え,その専門的な事項を理解し,知識化し,活用することができる.
(2)書写における先人の感じ方や考え方を書跡の鑑賞や文献の読解を通して理解し,それらを具体的な書道技法と関連づけて説明することができる.
(3)日本書道史上の様々なトピックスについての討議を通じて,先人の立場や果した役割を理解し,他者の多様な価値観を認めつつ,自らの目標や価値規準の設定・修正に役立てることができる.
テーマ1 日本書道史への視点
1.何を学ぶか
(1)歴史研究の方法とは
(2)美術史における「様式」の考え方
(3)鑑賞の3つの方法
(4)高村光太郎の鑑賞に学ぶ
2.学習到達目標
(1)書道史研究の特色について,概括的に説明することができる.
(2)作品の鑑賞の方法について,事例にもとづいて,具体的に説明することができる.
3.研究課題
(1)書道史研究の特色について,下記のキーワードを使って,まとめなさい.「仮説」「様式」「臨書」
(2)高村光太郎の鑑賞文(鑑賞1~3)について,3つの鑑賞の方法:直感的鑑賞・分析的鑑賞・総合的鑑賞を当てはめて,考察しなさい.
4.プレゼン資料
5.動画資料
テーマ2 日本金石文と中国書法
1.何を学ぶか
(1)漢字の伝来と万葉仮名の発生
(2)仏教の伝来による書の発展
2.学習到達目標
(1)古墳時代以前の文字資料について,概括的に説明することができる.
(2)飛鳥時代の文字資料について,中国書法との関わりに言及しながら,概括的に説明することができる.
3.研究課題
(1)古墳時代から上代にかけての金石文に見られる漢字の書体と書風について,まとめなさい.
(2)万葉仮名の発生について,当時の文字資料を例として,順序立てて考察しなさい.
4.プレゼン資料
5.動画資料
テーマ3 天平の書と中国書法
1.何を学ぶか
(1)上代の金石文字資料
(2)仏教文化と写経の盛行
(3)万葉仮名による日本語表記
(4)王羲之書法の受容
2.学習到達目標
(1)《多胡碑》などの石刻書風について,概括的に説明することができる.
(2)万葉仮名が広く行われるようになった状況について,正倉院文書等の当時の文字資料にもとづいて,概括的に説明することができる.
(3)王羲之書法の受容の状況について,当時伝来した摸搨本等により,具体的に説明することができる.
3.研究課題
(1)光明皇后《楽毅論》の書風について,当時における王羲之書法の受容と関連づけて,考察しなさい.
4.プレゼン資料
5.動画資料
テーマ4 三筆と中国の書法
1.何を学ぶか
(1)遣唐使による唐文化の流入
(2)中唐の書における新旧の諸派
(3)「三筆」と空海書の多様性
2.学習到達目標
(1)空海の代表的な書作品を挙げて,その書風の特徴について具体的に説明することができる.
3.研究課題
(1)空海《風信帖》の書風について,徐浩や張従申等による中唐の書跡と関連づけて、説明しなさい.
4.プレゼン資料
5.動画資料
テーマ5 三跡と「和様」
1.何を学ぶか
(1)国風文化の盛行と三跡の登場
(2)小野道風と「和様」の誕生
(3)仮名文における草仮名の使用
2.学習到達目標
(1)三跡それぞれの代表的な書作品を挙げて,各人の書の特徴について,具体的に説明することができる.
(2)平安時代中期の「和様」の書の成立とその特徴について,概括的に説明することができる.
3.研究課題
(1)小野道風の行書作品と藤原行成の行書作品とを比較しながら,和様の成立とその特徴について,考察しなさい.
4.プレゼン資料
5.動画資料
テーマ6 平仮名の発生とその表現
1.何を学ぶか
(1)女手の発達
(2)《高野切》の成立と連綿の技法
2.学習到達目標
(1)平安時代中期の女手の発達について,具体的な作品例を挙げて,概括的に説明することができる.
(2)《高野切》の成立とその書としての特質について,具体的に説明することができる.
3.研究課題
(1)《高野切》の成立とその書としての特質について,下記のキーワードを使ってまとめなさい.「女手」「連綿」「古今和歌集」「寄合書き」
4.プレゼン資料
5.動画資料
テーマ7 散らし書き・料紙の美
1.何を学ぶか
(1)紙背仮名消息と散らし書き
(2)散らし書きの技法と三色紙
(3)料紙と装丁形式
2.学習到達目標
(1)平安時代中期から後期にかけての,女手による「古筆」の技法について,具体的な例を挙げて説明することができる.
(2)料紙作成の技法と代表的な装丁形式について,具体的な例を挙げて説明することができる.
3.研究課題
(1)散らし書きの技法の発生と展開について,紙背仮名消息と三色紙を例として,考察しなさい。
4.プレゼン資料
5.動画資料
テーマ8 和様の個性化と「墨跡」
1.何を学ぶか
(1)古筆の伝承筆者と系統的分類
(2)書流の展開と秘伝書
(3)「墨跡」と中国書法
2.学習到達目標
(1)名称に「伝」のついた古筆を例として,その名称と分類の意義について,概括的に説明することができる.
(2)「流」や「様」をもって語られる,代表的な書流と秘伝書について,概括的に説明することができる.
(3)「墨跡」の代表的な作例について,中国書法の影響に触れながら,具体的に説明することができる.
3.研究課題
(1)いわゆる「流儀書道」の功罪について,代表的な書流と秘伝書を例に挙げて,考察しなさい.
(2)「墨跡」の代表的な作例について,中国宋時代の書の影響に触れながら,まとめなさい.
4.プレゼン資料
5.動画資料
テーマ9 光悦の人と作品
1.何を学ぶか
(1)町衆の文化と「嵯峨本」
(2)本阿弥光悦の作品とその新しさ
(3)大字仮名と「寛永の三筆」
2.学習到達目標
(1)本阿弥光悦の書作品,工房における制作という作品制作のあり方等について,概括的に説明することができる.
(2)近衛信尹の大字書など,書に様々な装飾的な工夫が施されたことを作品例にもとづいて説明することができる.
3.研究課題
(1)文化の中心的な担い手が町衆に移行したことによる,書の特質の変化について,説明しなさい。
4.プレゼン資料
5.動画資料
テーマ10 和様書道と唐様書道
1.何を学ぶか
(1)和様書道と書の大衆化
(2)唐様書の流行と書論における実証主義の萌芽
2.学習到達目標
(1)唐様書道において,真跡を重視する考え方と法帖を重視する考え方が存在したことを,概括的に説明することができる.
3.研究課題
(1)真跡を重視する考え方と法帖を重視する考え方の両方の立場から,それぞれの所説をまとめなさい.
4.プレゼン資料
5.動画資料
テーマ11 僧侶・画人・文人の書
1.何を学ぶか
(1)「逸脱派」の書
(2)良寛の書と明治期以降におけるその受容
2.学習到達目標
(1)当時の和様書道、唐様書道のいずれの流れにも関わらず、個性的な書を書き、後にその書が高く評価されている人々の書について、具体的に説明することができる.
3.研究課題
(1)良寛の書は,明治以降において画人・文人の間で高く評価されている.その理由について,評価する意見とともに考察しなさい.
4.プレゼン資料
5.動画資料
テーマ12 幕末の三筆と六朝書道
1.何を学ぶか
(1)書家としての巻菱湖と市河米庵
(2)貫名菘翁における実証主義の展開とその評価
2.学習到達目標
(1)「幕末の三筆」の書作品について,実証主義の展開の観点から,具体的な作品例にもとづいて説明することができる.
(2)「明治の三大家」の書作品について,清朝からの新資料の流入等を踏まえて説明することができる.
3.研究課題
(1)貫名菘翁の書と学書の方法は,なぜ明治の識者から高く評価されたのか,考察しなさい.
4.プレゼン資料
5.動画資料
テーマ13 学書理論と資料収集
1.何を学ぶか
(1)書壇の形成と競書雑誌
(2)比田井天来による学書理論の確立
(3)書道資料の収集と出版の盛行
2.学習到達目標
(1)比田井天来の学書理論のあらましを「実用書と芸術書」の観点から説明することができる.
(2)中村不折らによる書道資料の収集とその紹介について,出版された図書等から説明することができる.
3.研究課題
(1)競書雑誌による学書システムの功罪について,考察しなさい.
4.プレゼン資料
5.動画資料
テーマ14 現代の書流と漢字仮名交じりの書
1.何を学ぶか
(1)現代書のジャンルと主な作品
(2)漢字仮名交じりの書の展開
2.学習到達目標
(1)現代書のジャンルと昭和期の主な書家の作品について,説明することができる.
3.研究課題
(1)漢字仮名交じりの書には「古典」がないといわれる.近現代の書家たちはその問題をどのように乗り越えようとしてきたのだろうか.討議してみよう.
4.プレゼン資料
5.動画資料
テーマ15 まとめ ―書家の書と文人の書―
1.何を学ぶか
(1)高村光太郎の書と書論
(2)會津八一の書と書論
(3)書家の書と文人の書
2.学習到達目標
(1)書家の書と文人の書のそれぞれの特質について,説明することができる.
3.研究課題
(1)書芸術が、書家の書と文人の書に分離している現状を踏まえて、私たちはどのような立場で制作に向き合ったらよいのだろうか.討議してみよう.
4.プレゼン資料
5.動画資料
Ⅳ レポート課題
課題1 「テーマ1~5」の「研究課題」中から,もっとも興味を持った課題を1題選択して,解答してください。
※冒頭に「第〇講 課題 学籍番号 氏名」を書き,自分なりの「題名」を記してから,本文を書いてください。
※レポートは,wordで作成し,PDFファイルで提出のこと.分量は,A4:1枚程度.自分がもっとも適切と考える書式設定で作成してください.
課題2 「テーマ6~13」の「研究課題」中から,もっとも興味を持った課題を1題選択して,解答してください。
※冒頭に「第〇講 課題 学籍番号 氏名」を書き,自分なりの「題名」を記してから,本文を書いてください。
※レポートは,wordで作成し,PDFファイルで提出のこと.分量は,A4:1枚程度.自分がもっとも適切と考える書式設定で作成してください.
Ⅴ アドバイス
課題1解説 テーマ1の講義内容を踏まえて,自分の感じたことや考えたことを記述すること.
参考文献などを広く調べ,その結果を整理し,正しく引用して記述すること.
課題2解説 テーマ1の講義内容を踏まえて,自分の感じたことや考えたことを記述すること.
参考文献などを広く調べ,その結果を整理し,正しく引用して記述すること.
Ⅵ 科目修得試験:レポート試験
次の古典作品のうちから1点を選び,時代・筆者(作者)・内容・書風などの観点から,自分の鑑賞にもとづいて,作品論をまとめなさい.
空海書《風信帖》 藤原行成《白氏詩巻》 伝藤原行成《高野切第三種》 伝小野道風《継色紙》
※冒頭に自分なりの「題名」を記してから,本文を書いてください。
※レポートは,wordで作成し,PDFファイルで提出のこと.
分量は,A4:1枚程度.自分がもっとも適切と考える書式設定で作成してください.
Ⅶ テキスト
○古谷稔著『書道テキスト 第3巻 日本書道史』 2010 二玄社
○住川英明著『日本書道史』 2024 岐阜女子大学
Ⅷ 参考文献
○名児耶明監修『決定版 日本書道史』 2009 芸術新聞社
○名児耶明編『日本書道史年表』 1999 二玄社
○古谷稔著『漢字かな交じりの書』 1998 雄山閣
○古谷稔著『かなの鑑賞基礎知識』 1995 至文堂
○村上翠亭監修『平安かなの美』 2004 二玄社
○斎藤蒼青著『書道テキスト 第11巻 近現代名家の書』 2009 二玄社
○高木厚人著『書道テキスト 第9巻 かな』 2007 二玄社
○永原康史著『日本語のデザイン』 2002 美術出版社
○辻惟雄著『日本美術の歴史』 2005 東京大学出版会
○小松茂美編『日本書道辞典』 1987 二玄社
○書学書道史学会編『書道史年表事典』 2007 萱原書房
資 料
3.テキスト