【研究論文】デジタルアーカイブ技術を活用した非漢字圏日本語学習者の 継続的学習支援に関する実践研究
【研究論文】デジタルアーカイブ技術を活用した非漢字圏日本語学習者の継続的学習支援に関する実践研究
― JLPT N3対策日本語小テストの学習履歴分析を通して ―
1.研究の基本構造
本研究は、指導後の方針に基づき、「背景―課題―仮説―実践―評価―結果の整理―今後の課題」の順で研究全体を再構成する。通常期の週2回の日本語小テストと、長期休暇中の80%到達型学習は目的と運用が異なるため、両者を明確に区別して分析する。読解力については勤務校の課題認識の背景に置くが、本研究では直接的な効果検証を行わず、結果を踏まえた今後の研究課題として位置づける。
| 背景 | 課題 | 仮説 | 実践 | 評価 | 今後の課題 |
| 留学生・日本語学習者の多様化 | 基礎項目の反復誤答と紙テストの限界 | 学習履歴の蓄積で弱点・推移・停滞を把握できる | 通常期小テスト+長期休暇80%到達型学習 | 学習履歴+学生4択アンケート | 基礎項目の学習と読解力の関係を検証 |
2.研究背景
日本国内では外国人留学生及び日本語学習者が増加し、母語、表記体系及び学習歴の異なる学習者に対応した日本語教育支援の重要性が高まっている。2025年5月1日現在の外国人留学生数は408,069人であり、2024年11月1日現在の国内の日本語学習者数は294,198人である[1][2]。
JLPT N3では、「言語知識(文字・語彙)」「言語知識(文法)・読解」「聴解」が試験科目として設定され、成績は「言語知識(文字・語彙・文法)」「読解」「聴解」の区分で示される[3]。勤務校では、非漢字圏出身の留学生がJLPT N3合格を目標として学習しており、漢字の読み、文字・語彙及び文法は、文章理解を支える基礎的な言語知識として継続的な学習が必要である。
非漢字圏学習者は、母語の表記体系に漢字を用いないため、日本語の漢字・漢語について既有知識を利用しにくく、字形・読み・意味・用法を新たに関連づけて処理する必要がある。先行研究では、非漢字圏学習者にとって漢字習得の負担が大きいことに加え、読解時に未知語、漢字、文法などの下位言語処理に多くの時間を要することで、文章全体の意味理解が限定される事例が報告されている[6][7][8][13]。また、非漢字圏学習者の読解では語彙力の強化が重要であることが指摘されており、学術的文章に多く含まれる漢語は非漢字圏学習者にとって相対的に難度が高いことも示されている[14][15]。
これらの知見は、非漢字圏学習者の読解力が一律に低いことを意味するものではないが、漢字・語彙・文法の処理負荷が文章理解に影響し得ることを示している。実際に勤務校でも、JLPT N3の読解区分及び校内定期試験の結果から、対象となる非漢字圏学習者の中に読解得点が十分でない者が見られる。そこで本研究では、この読解上の課題を研究背景に置き、その基礎となる漢字の読み、文字・語彙及び文法の学習状況を継続的に記録・分析する。なお、読解力そのものの向上については本研究で直接検証せず、結果を踏まえた今後の課題として位置づける。
3.勤務校における課題
筆者は勤務校において5年以上、週2回程度、JLPT対策日本語小テストの申込管理及び結果分析に関わってきた。JLPTの読解区分及び校内定期試験の結果から、対象学習者の中に文章理解に課題を持つ者が見られた。また、漢字の読み、文字・語彙及び文法について、既習項目であっても誤答を繰り返す状況が確認された。
従来の紙テストでは、得点を確認することはできても、学習者がどの問題で、どの選択肢を誤ったのか、通常期を通してどの分野で誤答が続いているのかを継続的に把握することが難しかった。さらに、長期休暇中の自主学習では、一定水準に到達するまでに何回の受験を必要としたか、どこで学習が停滞したかを講師側で継続的に確認することが困難であった。
この課題に対応するため、筆者はWebベースの4択式日本語小テストアプリを開発した。通常期の小テストでは反復受験を強制せず、継続的な学習状況を記録する。一方、長期休暇中の問題では、正答率80%以上を次の問題群に進む条件とし、80%未満の場合に同一問題を再受験する仕組みとしている。
4.研究目的
本研究の目的は、非漢字圏出身のJLPT N3学習者を対象として、通常期の継続的な日本語小テストと長期休暇中の80%到達型学習から得られる学習履歴を蓄積・分析し、漢字の読み、文字・語彙及び文法における学習状況、弱点、誤答傾向、学習の進行及び停滞をどのように可視化できるかを明らかにすることである。
また、実践終了後に学生アンケートを実施し、通常小テストの有用性、長期休暇中の80%到達型学習への評価、弱点への気づき、学習継続への認識及び文章理解への有用感を把握する。アプリに記録された客観的な学習履歴と学生の主観的評価を併用し、学習履歴データを教育資源として継続的に保存・可視化・活用する意義と課題を検討する。
5.仮説と研究課題
5.1 仮説
| 仮説 | 内容 |
| H1 | 通常期の小テスト結果を継続的に蓄積することで、単発の得点だけでは把握しにくい学習者別・分野別の弱点や時系列の変化を可視化できる。 |
| H2 | 長期休暇中の80%到達型学習では、80%到達までの受験回数、反復誤答及び未完了状況を記録することで、学習者ごとの反復量と停滞箇所を把握できる。 |
| H3 | 学習者は、通常期の継続的な小テスト及び長期休暇中の80%到達型学習について、弱点への気づきや学習継続に一定の有用性を認識する。 |
5.2 研究課題
| 研究課題 | 内容 |
| RQ1 | 通常期の週2回の小テスト履歴から、学習者別・分野別の学習状況及び誤答傾向をどのように把握できるか。 |
| RQ2 | 長期休暇中の80%到達型学習履歴から、80%到達までの反復量、反復誤答及び学習の停滞をどのように把握できるか。 |
| RQ3 | 学習者は、通常小テストと長期休暇中の80%到達型学習をどのように評価しているか。 |
| RQ4 | 蓄積された学習履歴を、教育資源としてどのように保存・可視化し、講師による学習状況把握や今後の指導改善に活用できるか。 |
6.実践計画
6.1 研究対象
- 対象:勤務校に在籍する非漢字圏出身のJLPT N3学習者 約20名
- 対象分野:漢字の読み、文字・語彙、文法
- 研究形態:単一教育機関における実践研究・事例研究
- 使用システム:筆者が開発したWebベースの4択式日本語小テストアプリ
6.2 通常期の小テスト
| 項目 | 内容 |
| 実施頻度 | 週2回程度 |
| 問題数 | 1回10問程度 |
| 実施回数 | 約20回 |
| 対象分野 | 漢字の読み、文字・語彙、文法 |
| 再受験 | 強制しない。再受験が行われた場合は履歴として保存する。 |
| 目的 | 継続的な学習状況、分野別正答率、誤答傾向及び時系列変化を把握する。 |
6.3 長期休暇中の80%到達型学習
| 項目 | 内容 |
| 実施量 | 1日20問 × 40日分 |
| 対象分野 | 文字・語彙、文法を中心とする |
| 進行条件 | 初回受験で正答率80%以上の場合、次の問題群へ進む。 |
| 80%未満の場合 | 同一の問題群を再受験し、80%以上に到達するまで次へ進めない。 |
| 主な記録 | 初回正答率、受験回数、80%到達の有無、反復誤答、完了状況、所要時間 |
| 目的 | 一定水準への到達に必要な反復量、停滞箇所及び学習進行を把握する。 |
6.4 通常期と長期休暇の位置づけ
| 比較項目 | 通常期 | 長期休暇 |
| 学習形態 | 継続的小テスト | 80%到達型学習 |
| 再受験 | 強制しない | 80%未満の場合に同一問題を再受験 |
| 主な評価 | 正答率、誤答傾向、時系列変化 | 初回正答率、到達回数、完了率、停滞 |
| 研究上の役割 | 日常的な学習状況の把握 | 反復学習過程の把握 |
7.保存する学習履歴データ
| 区分 | 主な項目 |
| 学習者情報 | 匿名化学習者ID、クラス、対象レベル |
| テスト情報 | テストID、実施日、通常期/長期休暇の区分、問題数、対象分野 |
| 問題情報 | 問題ID、問題分野、選択肢、正解、問題内容 |
| 回答情報 | 選択した選択肢、問題別正誤、回答保存日時 |
| 受験情報 | 受験回数、開始・終了日時、テスト全体の所要時間、正答率 |
| 長期休暇用 | 初回正答率、80%到達の有無、80%到達までの受験回数、完了状況 |
通常期の小テストには80%到達条件を適用しない。したがって、80%到達率及び80%到達までの受験回数は、長期休暇中の対象問題に限定して分析する。
8.評価方法
8.1 通常期の小テスト履歴の評価
- 各回の正答率及び分野別正答率
- 問題別正答率及び誤答選択肢の分布
- 学習者ごとの時系列推移
- 受験実施率及び未受験状況
- 再受験が行われた場合の受験回数(再受験自体は強制しない)
通常期は問題内容が各回で異なるため、単純な正答率の上昇を能力向上と断定しない。問題分野、難易度及び実施条件の違いを考慮しながら、学習状況の推移として記述する。
8.2 長期休暇中の80%到達型学習の評価
- 各問題群の初回正答率
- 80%到達率
- 80%到達までの受験回数
- 40日分の完了率
- 同一問題における反復誤答
- 分野別の停滞傾向
- 学習実施日数及び進行状況
80%未満の場合は同一問題を再受験するため、最終正答率には問題内容や正答の記憶が影響する可能性がある。このため、最終正答率だけを学習成果の指標とせず、初回正答率、到達までの受験回数、反復誤答及び完了状況を重視する。
8.3 学生アンケート
実践終了後、アプリを利用して4択式アンケートを実施する。通常期の小テストと長期休暇中の80%到達型学習を区別した設問とし、操作性、弱点への気づき、学習継続、反復学習の有用感・負担感、文章理解への有用感及び継続利用意向を確認する。
| 選択肢 | 回答 |
| 1 | まったくそう思わない |
| 2 | あまりそう思わない |
| 3 | 少しそう思う |
| 4 | とてもそう思う |
各設問について、回答人数、回答割合、平均値、中央値及び肯定的回答率(選択肢3又は4の割合)を示す。アンケートは学習者の主観的評価であり、漢字・語彙・文法能力又は読解力の客観的向上を示す証拠とはみなさない。
8.4 学生アンケート設問(20項目)
A 通常小テスト
1.週2回の小テストは、自分の日本語の学習状況を確認するために役立った。
2.通常小テストで、自分が間違えやすい問題に気づくことができた。
3.通常小テストがあることで、日本語を続けて勉強するきっかけになった。
4.アプリで自分のテスト結果を確認しやすかった。
B 長期休暇中の80%到達型学習
5.80%以上という目標は分かりやすかった。
6.80%未満のときに同じ問題をもう一度することで、間違いを確認できた。
7.80%以上になるまで同じ問題をする方法は、学習に役立った。
8.80%以上という目標があることで、学習を続けやすかった。
9.同じ問題を何回もすることは負担だった。
10.40日分の問題に取り組む方法は、長期休暇中の学習に役立った。
C 弱点への気づき・学習意識
11.自分が間違えやすい漢字の読みに気づいた。
12.自分が間違えやすい言葉に気づいた。
13.自分が間違えやすい文法に気づいた。
14.問題を間違えた理由を考えるようになった。
15.自分の苦手な分野を前より意識するようになった。
D 文章理解への有用感
16.漢字の読みを勉強することは、文章を読むときに役立つと思う。
17.言葉の意味を勉強することは、文章を理解するときに役立つと思う。
18.文法を勉強することは、文章を理解するときに役立つと思う。
E 継続利用意向
19.これからも週2回程度の小テストを使って勉強したい。
20.長期休暇でも80%以上を目標にする学習方法を使いたい。
9.結果の整理方法
| 区分 | 結果として示す内容 |
| 通常期 | 受験回数、受験実施率、全体・分野別正答率、問題別誤答、個人別時系列推移 |
| 長期休暇 | 初回正答率、80%到達率、到達までの受験回数、完了率、反復誤答、停滞箇所 |
| 学生アンケート | 設問別分布、平均値、中央値、肯定的回答率、通常小テストと80%到達型学習への評価 |
| 統合的整理 | 客観的な学習履歴と主観的な学生評価を照合し、運用上の有用性と課題を整理 |
対象者数が約20名であることから、統計的一般化を主目的とせず、記述統計、分布、時系列推移及び個人別事例を中心に分析する。必要に応じて、学習履歴とアンケート回答の関係を探索的に確認する。
10.期待される成果
- 通常期の小テスト履歴から、学習者別・分野別の弱点及び時系列の学習状況を可視化する方法を示す。
- 長期休暇中の80%到達型学習から、一定水準への到達に必要な反復量、反復誤答及び停滞箇所を把握する方法を示す。
- 学生アンケートにより、通常小テストと80%到達型学習を学習者がどのように評価しているかを明らかにする。
- 学習履歴を教育資源として継続保存し、検索・可視化・指導改善に活用する実践的な枠組みを提示する。
11.研究の限界と結果後の課題
- 通常期の小テストでは再受験を強制しておらず、問題も各回で異なるため、正答率の変化だけから能力向上を判断することはできない。
- 長期休暇中は80%未満の場合に同一問題を再受験するため、到達後の正答には問題や正答の記憶が影響する可能性がある。
- 比較群、独立した事前・事後テスト及び遅延テストを設けないため、本実践による学習効果を因果的に証明することはできない。
- 単一校のJLPT N3学習者約20名を対象とするため、結果をすべての非漢字圏日本語学習者に一般化することはできない。
- 本研究では読解力を直接検証しない。今後、難易度を統制した別問題による事前・事後・遅延読解テストや比較群を設定し、漢字の読み・文字語彙・文法の学習と読解力との関係を検証する必要がある。
- 学習者別復習問題の自動抽出機能は現時点で未実装であるため、本研究で得られた誤答傾向や停滞条件を基に、次段階での機能化を検討する。
12.論文構成(案)
| 章 | 内容 |
| 第1章 序論 | 研究背景、勤務校の課題、研究目的、仮説、研究課題、用語の整理 |
| 第2章 先行研究 | 非漢字圏学習者、漢字・語彙・文法学習、学習履歴、ラーニングアナリティクス、デジタルアーカイブ |
| 第3章 日本語小テストアプリと実践設計 | 開発背景、機能、通常期の運用、長期休暇中の80%到達型学習、保存データ |
| 第4章 研究方法 | 研究対象、実施方法、評価指標、学生アンケート、分析方法、倫理的配慮 |
| 第5章 結果 | 通常期の学習履歴、長期休暇の反復学習履歴、学生アンケート結果 |
| 第6章 考察 | 仮説・研究課題への検討、学習履歴活用の意義、教育実践上の課題、研究の限界 |
| 第7章 結論 | 研究成果の整理、デジタルアーカイブとしての意義、読解力検証を含む今後の課題 |
13.倫理的配慮
研究対象者には研究目的、参加の任意性、研究参加の有無が成績・出席・進級等に影響しないこと、途中で参加を撤回できること、研究成果を個人が特定されない形で公表することを説明する。研究用データでは氏名を用いず、匿名化した研究用IDを使用する。アンケートは成績評価と切り離し、回答しないことによる不利益が生じないようにする。研究データへのアクセス権限、保存期間及び廃棄方法は、大学院及び勤務校の手続に従って設定する。
14.参考文献・根拠資料
[1]日本学生支援機構(2026)「2025(令和7)年度外国人留学生在籍状況調査結果」.
[2]文部科学省(2025)「令和6年度日本語教育実態調査結果」.
[3]国際交流基金・日本国際教育支援協会「試験科目と問題の構成」日本語能力試験公式ウェブサイト.
[4]国際交流基金・日本国際教育支援協会「過去の試験のデータ」日本語能力試験公式ウェブサイト.
[5]デジタルアーカイブジャパン推進委員会実務者検討委員会(2023)『「デジタルアーカイブ活動」のためのガイドライン』.
[6]柳田しのぶ(2011)「非漢字圏日本語学習者における漢字学習への意識―フランスの大学生を対象に―」『JSL漢字学習研究会誌』3,8-13.
[7]加納千恵子(2017)「漢字圏学習者と非漢字圏学習者のための漢字学習と評価の方法」『JSL漢字学習研究会誌』9,1-10.
[8]柳本大地・李静宜・毛炫琇(2022)「非漢字圏の日本語学習者における漢字単語の視覚的認知―語彙判断課題時の眼球運動に基づく分析―」『JSL漢字学習研究会誌』14,9-17.
[9]林田なぎ(2019)「非漢字圏日本語学習者の漢字学習初期段階における習慣形成と漢字構成要素の理解に基づいた漢字指導法」『日本語教育方法研究会誌』25(2),88-89.
[10]寺澤孝文(2015)「教育ビッグデータの大きな可能性とアカデミズムに求められるもの―情報工学と社会科学のさらなる連携の重要性―」『コンピュータ&エデュケーション』38,28-38.
[11]森本康彦(2015)「eポートフォリオとしての教育ビッグデータとラーニングアナリティクス」『コンピュータ&エデュケーション』38,18-27.
[12]山田政寛(2017)「ラーニング・アナリティクス研究の現状と今後の方向性」『日本教育工学会論文誌』41(3),189-197.
[13]高橋亜紀子(2017)「ある中級日本語学習者の読解過程の分析」『日本語教育方法研究会誌』23(2),100-101.
[14]水野直美・牧野政子(1995)「中級前半レベル(非漢字圏学習者)を対象とした読解教材作成と授業の試み―「読み方」の指導と語彙力の向上を目的として―」『日本語教育方法研究会誌』2(2),6-7.
[15]松下達彦・佐藤尚子・笹尾洋介・田島ますみ・橋本美香(2020)「学習者言語が日本語学術共通語彙の理解に与える影響―中国語母語、中朝バイリンガル、韓国語母語、非漢字圏の学習者を比較して―」『専門日本語教育研究』22,25-32.
以下経緯
第1章 緒 言
1.はじめに
2.研究の目的
近年、日本国内における外国人労働者および留学生の増加に伴い、日本語教育の重要性は一層高まっている。特に非漢字圏出身の日本語学習者にとって、日本語能力試験(JLPT)は進学や就労に直結する重要な評価指標であり、その対策学習は教育現場において広く実施されている。しかしながら、従来の日本語教育における小テストや評価は、紙媒体または単発的なデジタルテストによって行われることが多く、学習履歴データを継続的に蓄積・分析し、教育改善に活用する仕組みは十分に整備されていない。
このような状況は、学習者の理解度や誤答傾向を長期的に把握することを困難にし、結果として指導が経験則に依存する要因となっている。また、教育分野においては ICT の活用が進展しているものの、蓄積された学習データを「教育資源」として保存・再利用する観点、すなわちデジタルアーカイブとしての活用は十分に進んでいるとは言えない。
一方、デジタルアーカイブの分野では、情報を長期的に保存し、再利用可能な形で管理することの重要性が指摘されており、文化資源のみならず教育分野への応用が期待されている。特に、学習履歴データは、学習者の理解過程や誤答の傾向を含む重要な情報資源であり、適切に管理・活用することで教育の質向上に寄与する可能性を有している。以上の社会的背景および課題を踏まえ、本研究では、非漢字圏日本語学習者を対象とした JLPT 対策日本語小テストを用い、学習履歴データをデジタルアーカイブとして体系的に管理・活用する手法について検討することを目的とする。具体的には、学習履歴データの構造化および蓄積方法を明らかにするとともに、その分析を通じて学習者の傾向を可視化し、日本語教育における新たな教育支援の可能性を示すことを目指す。
本研究で取り組む対象は、
①教育コンテンツのアーカイブ化
②学習者の詳細な行動・認知プロセスのデータ化
① デジタルアーカイブの構築・活用(入力側)
漢字・筆順のマルチメディアアーカイブ: 漢字の成り立ち(甲骨文字〜現代書体)、部首の概念、筆順アニメーション、ストローク(筆圧・速度)の3Dデータ化。
文化的・文脈的マルチメディアメタデータ: 単語単体ではなく、その語彙が使われる実際の生活場面・伝統文化・地域社会の画像・映像・音声をメタデータ付き(IIIF等の標準規格)で蓄積。
② 学習履歴データ(LMS / LRS)の収集・管理(出力側)
筆記・ストロークデータ: タブレット上の手書き入力による「書き順の間違い」「ストロークの迷い(滞留時間)」「画の交差位置のズレ」。
認識・読解データ: 異体字や類似漢字(例:「吉」と「古」、「土」と「士」)に対する誤答パターン、提示されたアーカイブ画像・動画の閲覧時間・拡大操作履歴。
認知プロセスデータ: 視線トラッキング(アイトラッキング)を用いた「文章を読む際の視線移動」「漢字のどこを注視しているか」のデータ。
3.方法
本研究では、非漢字圏出身の日本語学習者を対象とし、JLPT 対策として実施される日本語小テストを通じて学習履歴データを収集・分析する。
研究対象は、初級から中級レベルの学習者約15〜30名とし、実際の授業または課外学習の場においてデータ収集を行う。
データ収集には、筆者が開発した Web ベースの日本語小テストアプリを用いる。本システムは、4択式の日本語問題を出題し、学習者がスマートフォン等を用いて受験する形式を採用している。
講師はクラス単位でテストを作成し、学習者は マイページを通じてテストにアクセスする。
回答結果は受験と同時にシステムへ送信され、学習履歴データとして自動的に蓄積される。
収集される学習履歴データには、学習者ID、問題ID、正誤情報、選択した選択肢、受験日時などが含まれる。
➝ IRT(項目反応理論)_SP表の活用
項目応答理論は、運による要素や評価の相対性といった性質をもつ古典的テスト理論の限界を解消し、受験者の実力をより正確に測ろうとする理論である。
S-P(エス・ピー)表とは,全国学力・学習状況調査の結果を,学校や学級単位で,縦と横がそれぞれ児童生徒(S:Student)と設問(P:Problem)の正答数の多い順に並べ替えた表の中に,S曲線(青)とP曲線(赤)を書き入れたものであり,これを活用することにより,平均正答率だけでは把握できない,学校や学級全体の課題の傾向や,個々の児童生徒が理解していない可能性が高い設問を見つけ出すことができる。
参考
・【e-Learning】人工知能概論【II】 ~ データサイエンスから見える新たな学びの未来像 ~
・【e-Learning】学校DX戦略コーディネータ概論【Ⅲ】 未来を創る教育設計 ~カリキュラム開発の新しい視点 ~ 第12講 学力の可視化と授業改善(横浜市教育委員会)
これらのデータは、学習者別、問題別、時系列の観点から分析可能な構造で保存される。
本研究では、このように構造化されたデータを「学習履歴デジタルアーカイブ」と位置づける。
分析方法としては、まず記述統計により正答率や平均得点を算出し、全体的な学習傾向を把握する。
次に、問題別の正答率分析により難易度の高い項目を特定する。
また、選択肢別の誤答分析を行うことで、学習者がどのような誤解をしているかを検討する。
さらに、学習者ごとの成績推移を時系列で分析し、学習の進展や変化を把握する。
加えて、必要に応じて講師および学習者への簡易アンケートを実施し、学習履歴データの活用に関する意見を収集する。
これらの分析結果を総合的に検討することで、学習履歴データの管理および活用の有効性について考察を行う。
なお、本研究においては、学習者の個人情報を匿名化し、研究目的以外で使用しないなど、倫理的配慮を十分に行う。
4.主要参考文献
・佐藤(2015)「非漢字圏学習者の日本語習得における課題」『日本語教育』
・山本(2016)「非漢字圏学習者の語彙学習ストラテジー」『日本語教育研究』
・王(2017)「非漢字圏学習者の誤用分析」『日本語教育方法論』
・鈴木(2018)「初級日本語学習者における漢字・語彙習得」『日本語教育学会誌』
・李(2020)「非漢字圏学習者の日本語学習過程分析」『言語教育研究』
第2章 先行研究
第3章 システム設計
第4章 実証研究(方法)
第5章 分析結果
第6章 考 察
第7章 結 言



