【報告書】授業アーカイブプロジェクト

授業アーカイブプロジェクト

授業アーカイブプロジェクト

授業アーカイブとは,行われた授業の記録とともに,授業研究に関連する情報を総合的に記録し,管理し,保管していく手法である.授業研究は,授業分析をはじめとする授業改善への取り組みである.授業研究をすることにより,教師の「暗黙知」の獲得が促進され,実践的な授業力の向上へとつながる.その認識を広げるため,また後世へ伝えるために,現代における優れた授業の授業アーカイブを行う.授業研究においては,授業を撮影したビデオ映像を対象に分析を行うことが重要である.多くの授業研究では,授業ビデオから教師や学習者の発話等を文字によって表記したプロトコルを作成し,発話内容や行動をカテゴリーに分類し(コーディング),授業における教師や学習者の相互作用を分析したり,教授=学習過程におけるコミュニケーションのパターンを見出したりする作業を行う.そのような授業分析を通して授業改善を繰り返していくことが重要であると同時に,長期保存を考えた授業アーカイブにおける関連教育資料を構成することが必要である.
1.教員に求められる実践的指導力
教職の専門性とその中核をなす「実践的指導力」は,大学における養成教育→教育現場での初任者研修→現職研修の各段階を通じて獲得され,形成される.そのうち大学における養成教育は,その位置づけと性格からみて「完成教育」ではありえず,あくまでも「準備教育」にとどまらざるを得ない.言い換えれば,教職の専門性と「実践的指導力」は,実際に子どもと向き合いながら教育実践を重ね,教師集団のなかで相互に授業分析をし合うことを通じて,本格的に,そしてより豊かに形成されていくものである.
また,学習指導要領に示された,教育のねらいである「生きる力」を育成するためには,教科の授業を中心にして,知の側面である「確かな学力」の定着を図ることが求められている.そのためには,授業を行う教師自身の授業力の向上が不可欠である.授業力の向上には,一人ひとりが自らの授業を振り返り,課題を明らかにし,授業改善に努めることが必要である.そのために授業分析が重要な役割を果たす.
平成22年10月,東京都教育委員会では「小学校教諭教職課程カリキュラムについて」を発表した.その中の「東京都教育委員会が求める教師として最小限必要な資質・能力」において,3領域「①教師の在り方に関する領域」「②各教科等における実践的な指導力に関する領域」「③学級経営に関する領域」を示し,「到達目標」「内容」について背景や趣旨,大学の講義,教育実習等における指導方法等を具体的に示している.この領域②(6)「授業力向上と授業改善」において,到達目標に「授業力を構成する要素や,授業力向上のためのPDCA サイクルを理解し,自己の授業実践を改善できる方法を身に付けている.」が示された.このように,実践的な指導力を身に付けるために授業研究方法の習得の必要性が述べられている.
授業研究は日本の教育現場において,注目されてきた研修方法である.
時代の変遷とともに子どもが変わり,保護者が変わり,既存の授業方法が成立しにくくなっている今日において,授業研究こそが,教師の実践的力量を育むために求められる研修方法である.(千々布敏弥 2005)
これまでにも優れた授業者は授業分析を行ってきており,その方法も多様に開発されてきた.これまでの授業研究は,主に音声のみや単視点の映像を基に行われてきたものが多いが,それだけでは授業全体の様子が分からない.しかし,音声や正面からの映像だけでなく,児童生徒の学ぶ姿を併せて授業を丸ごと記録できると,授業改善に向けてより多くのことに気付けるはずである.このように授業分析では,授業の様子を記録した音声やビデオ映像という事実を基に作業を行うことが重要である.そして,後世に授業の様子や優れた授業技術を伝えていくことが重要である.本研究では,授業を多視点で撮影した映像を基に,様々な授業分析の方法を用いて授業を実際にデジタル・アーカイブし,長期保存を考えた授業アーカイブにおける関連教育資料の構成について研究した.
また,授業分析を踏まえた授業改善の取組は,教員養成の段階として行うことは勿論であるが,大学としても授業アーカイブを組織的に行い,授業分析の課題やその成果を共有することが重要である.いつ・どこで・誰が・どんな授業を行って,どんな特徴や効果があったのかを検討し,よりよい授業づくりに向けて,示唆を得られるよう授業者は努力を重ねたい.
2.授業アーカイブのための関連教育資料
様々な授業を記録する授業アーカイブでは,ビデオ映像だけをアーカイブしても意味がない.その授業について背景等の情報が必要不可欠である.いつ・どこで・誰が・どんな計画をし,どんな思いをもって授業を行ったのか,ということや時代背景等の情報を知ることができると,授業を見る視点がより深まるはずである.そのためには,その授業を記録するための関連教育資料の整備が重要になる.特に,何十年,何百年後にも優れた授業を残していくことを考えると,それらの 情報の存在は重要な意味を持つ.
授業アーカイブの大きな目的は,教師の授業力向上と授業改善である.授業を改善へと導くためには,関連教育資料をマネジメントサイクルで構成していくことが必要である.マネジメントサイクルとは,目的を達成するために,多元的に計画し,計画通りに実行できたのかを評価し,次期への行動計画へと結びつける一連の管理システムである.
次のように,典型的なマネジメントサイクルである「PDCAサイクル」を基本に,関連教育資料の構成を考えた.例示したものは,アーカイブする関連教育資料として考えられるものである.
(1)計画(P)段階
授業を行うために授業全体を組み立てる.学習指導案や板書計画などが必要となる.
 例:学習指導案・板書計画・教材・テキスト・指導者に関する資料
(2)実施(D)段階
授業を実施する.そして授業分析のための資料収集を行う.授業は一過性の面があり,一見しただけでは捉えにくいものである.そこで授業の事実を捉えるために,文字化された記録だけでなく,メディアによる記録も収集し,分析の際に事実がはっきりと分かるようにする.
例:授業実践の記録(多視点映像教材・逐次言語記録)・データ化した授業活動の記録
(3)評価(C)段階
授業分析はこの段階で行われる.収集した授業記録に基づき,一つひとつの事実が持つ意味を明らかにすることを通して授業における課題を明らかにする.課題を明らかにすることで授業改善が図れるとともに,授業を行うための力量の向上が図れる.従って授業分析は授業研究において大切な位置を占める.
例:各種分析データの記録・評価カード
(4)改善(A)段階
成果と課題に基づいて具体的な改善策を考える.
例:授業改善のための資料,得られた情報を活かした実践報告の記録
3.関連教育資料の構成
授業分析は授業という事実に基づいて行われるため,授業を振り返ることができる客観的な資料を収集しておく必要がある.授業研究会では,授業者の力量が高いにもかかわらず,参観者に見せることを意識して,子どもの追究が甘くなってしまった授業,授業に多数の問題がありながらも,参会者から賛辞の言葉しか挙がってこない事後研究会,参観者の間で見解の相違がありながら,追究することなく終わってしまう事後研究会などが見られることが多い.授業分析をするとき,資料を何も用意せずに,授業場面を思い出すだけでは,主観的な分析の域を越えることはできない.授業研究においては,客観的な資料に基づく分析が大切であり,逐次発言記録に基づく授業分析では,正確で客観的な記録を集めることが重要である.感覚的に行うのではなく,事実を基に授業を見つめなおすことができるとより充実した授業研究となる.
授業分析のための基礎資料としては次のものがある.
(1)授業者による授業評価記録
図3のように,分析しようとする授業について,あらかじめ設定した観点に基づいて授業者自身が評価を行うものである.また,日々取り組まれている授業においても振り返りを行うことで,その蓄積した記録も大切な資料となる.
(3)多視点授業映像記録
HDビデオを使って授業を記録するものである.音声とともに教師や児童の様子を映像で再現できるところに音声記録との明らかな違いがある.特に,本学では,デジタル・アーカイブ手法を活用した多視点授業映像記録を行っている.図5のような多視点授業映像では,従来の単視点映像に比べて,児童生徒の様子がよくわかり,授業分析するための記録として重要である.ビデオ記録を活用した授業リフレクションについては,藤岡(1998)
が,「授業リフレクションを通じ,教師は子どもの見方を再構築し,さらには自分自身についての見方も再構築していくことができる」と述べている.
(4)授業者インタビュー
授業を撮影した後に,授業担当者と授業を参観した学生によるインタビューを行い(オーラル・ヒストリー)その様子を撮影する.
インタビュー実施には,授業で何が起こったのか理解を深めることや授業に関する様々な見方・考え方を交流し深めることなどの目的があり,授業に対してより深い理解を得ることができる.ただし,授業担当者へのインタビューでは,教師が授業中の各場面で何を考えていたか正確に記憶しているとは考えにくく,インタビュー内容が必ずしも授業中の教師の思考を正確に反映しているわけではない,という問題点もある.それでも教師の思考については本人に尋ねる以外ない.教師にインタビューしつつ,授業中の教師の態度との整合性を検討するなどして,教師の授業デザインの思考を明らかにしていくことが重要となる.
(5)参観者による観察記録
授業の参観者が,見聞きしながら直に記録するものである.あらかじめ作成されている用紙に記録する.多視点映像記録では分からない,授業全体の雰囲気や授業者の問いかけに対する児童の表情などの非言語活動もとらえることができる.
資料
1.授業アーカイブ・プロジェクト報告書
2.評価シート
3.各分析 ワークシート集
4.実践的な教師力を養成するための教材研究
5.授業研究のための多視点映像教材の開発
6.授業研究のための映像教材の研究
7.授業分析に必要な教育資料の構成と総合化
8.英国授業(教師20秒ごと)
9.高富小 6年道徳 20秒ごと(4画面)
10.高富小 6年道徳 20秒ごと(教師)1
11.高富小 6年道徳 20秒ごと(教師)2~5
報告書
1.授業アーカイブ・プロジェクト報告書Vol2.5
2.フィンランド教育Vol2

授業分析テンプレート
1.(参考)コミュニケーション分析
2.S‐T分析 テンプレート
3.ジェスチャー分析 テンプレート
4.行動分析 テンプレート
映像資料

1.イギリス授業分析(Excel版)

2.フィンランド授業分析(例 )

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