慈光寺
慈光寺(じこうじ)は、埼玉県比企郡ときがわ町にある天台宗の寺院である。山号は都幾山。院号は一乗法華院。本尊は千手観音で、坂東三十三観音第9番札所。
左甚五郎の持つノミは勢いよく彫り進み、2日3日と過ぎていくうちに、太い丸木は馬の頭になり足になり、尾になっていきました。甚五郎は目を入れるときふと荒々しい気持ちになりました。甚五郎は「この馬は、気が荒いようだ。」とつぶやきました。
この馬は夜になるとそっと抜け出して付近の畑の作物を荒しまわりました。
あるときは二里も三里も遠方まで駆けていくこともありました。百姓たちは不思議に思いましたが、まさか、この名馬の仕業とは思いませんでした。しかし幾日かすると誰言うとなく、あの名馬が夜になると姿をあらわすといいました。
そこで百姓たちは相談して、夜になるのを待って2、3人ずつが分かれて、思い思いの方面にいって隠れていました。名馬はそれとは知らずに、その夜ものそりのそりとやってきました。
「やっ、確かにあの馬だ。しかし不思議なことだ…。」百姓たちはあっけにとられました。
こうしたことがいくたびも続きましたので、百姓たちもおこって、その尾を切ったり、鉄鎖で口元をしっかり縛ったりして、観音堂の上に納めてしまいました。
歓喜院
歓喜院(かんぎいん)は、埼玉県熊谷市妻沼(めぬま)にある高野山真言宗の仏教寺院である。日本三大聖天の一つとされる。一般的には山号に地名を冠した「妻沼聖天山(めぬましょうでんざん)」と呼称され、公式でも主にその名で案内される。 また、「埼玉日光」(国宝に指定される前は「埼玉の小日光」[2] )とも称されている。参拝客や地元住民からは「(妻沼の)聖天様」などと呼ばれている。
寺伝では治承3年(1179年)に、長井庄(熊谷市妻沼)を本拠とした武将齋藤別当実盛が、守り本尊の大聖歓喜天(聖天)を祀る聖天宮を建立し、長井庄の総鎮守としたのが始まりとされている。その後、建久8年(1197年)、良応僧都(斎藤別当実盛の次男である実長)が聖天宮の別当寺院(本坊)として歓喜院長楽寺を建立し、十一面観音を本尊としたという。
鎌倉幕府初代将軍の源頼朝が参拝したほかにも、中世には忍(おし)城主の庇護を受け、近世初頭には徳川家康によって再興されたが、寛文10年(1670年)の妻沼の大火で焼失した。現存する聖天堂(本殿)は、享保から宝暦年間(18世紀半ば)にかけて再建されたものである。
平成15年(2003年)から平成23年(2011年)まで本殿の修復工事が行われ、平成22年(2010年)1月18日に本体工事の竣功式を、平成23年(2011年)6月1日に竣功奉告法会を執行し、同日から一般公開が始まっている。平成24年(2012年)7月9日に聖天堂(本殿)は国宝に指定された(埼玉県内における国宝建築物としては、初めての指定で、2021年現在唯一である)。
聖天堂(本殿)
拝殿・中殿(相の間)・奥殿からなる廟型式権現造(日光東照宮などに見られる、複数棟を一体とした建築形式)の建物である。大工棟梁は妻沼の名工林兵庫正清で幕府作事方棟梁の平内政信の子孫に当たり、子の正信の代まで享保20年(1735年)から宝暦10年(1760年)にわたる二十数年をかけて再建されたものである。奥殿は入母屋造、桁行3間・梁間3間、正面向拝付き、中殿は両下造(りょうさげづくり)、桁行3間・梁間1間、拝殿は入母屋造、桁行5間・梁間3間で、これらを接続して1棟とし、屋根はすべて瓦棒銅板葺きとする。
奥殿は内外ともに彫刻、漆塗、彩色、金具等を華麗にほどす装飾性の高い建築である。奥殿向拝南面羽目板の「鷲と猿」の彫刻は伝説的な彫刻職人の左甚五郎作とも伝承されるが実際の彫刻棟梁は石原吟八郎(吟八)と関口文治郎である。奥殿は柱、長押などの部材に地紋彫をほどこし、内法下の大羽目板には七福神、縁下には唐子遊びを題材とした彩色彫刻をほどこす。彫刻にはそれぞれ中国の故事にちなむ主題が見られ、唐破風下に「三聖吸酸」及び「司馬温公の瓶割り」など、拝殿正面唐破風下には「琴棋書画」がある。2003年から2010年にかけて屋根葺き替えと彩色修理を中心とする修理が実施され、当初の彩色がよみがえった。2012年、国宝に指定
泉福寺
泉福寺(せんぷくじ)は、埼玉県桶川市にある天台宗の寺院である。山号は東叡山。院号は勅願院。房号は円頓房。本尊は阿弥陀如来および地蔵菩薩。
泉福寺の正門にある竜の彫刻は左甚五郎の作といわれております。むかしこの村は非常な旱魃(ひでり)にあって、田畑の作物が枯死寸前となり、村人たちは困ってしまいました。すると村の長老が、「長いこと門に閉じこめられていて、さぞ退屈だったろう、どうじゃ寺の池にでも出して泳がせてみるとしたら」と、言いましたので、どんな雨乞いもきかなかったときのことだけに、村人たちもそろって賛成し、さっそく竜を門からおろして、池にはなしてやりました。
彫刻の竜は、雨乞いの村人たちの目の前で、まるで生きもののように泳ぎ出しました。雨乞いの祈りも忘れて、目を見張る村人たちの頭上が、にわかに曇って、その黒雲の流れの早いこと、見る間にあたりはうす暗く、風雨も強くなりました。
雷鳴がとどろき、大暴風雨となり、池はあふれ、たちまちのうちに荒川もいっぱいになり、とうとう大洪水となってしまいました。
あまりのことに驚いた村人たちは、雨乞いもやたらと出来ないと語り合い、あの竜をどうしたものかと相談することになりました。
竜を放そうと言った長老が、「この先、あばれすぎて、何が起こるか知れん。すぐにでもあの竜を動けないようにしなくてはならない」と、言いました。
それには、どうしたらよいかとみんなで知恵をしぼって考えました。村人たちが総出で、竜の爪を切りおとして、今まで納まっていた寺の門へ、かねのくさりで、しっかりとしばりつけることになりました。
それからは、村に大洪水はなくなったということです。
本掲載内容は、桶川市史「第11章 口頭伝承・民俗知識」の一部
泉福寺の正門の竜の彫刻は左甚五郎の作という。昔、大変な旱魃があり、田畑の作物は枯死寸前となった。すると村の長老が「長いこと門に閉じこめられていて、さぞ退屈だったろう、どうじゃ寺の池にでも出して泳がせてみるとしたら」といった。
どんな雨乞いも効果がなかったので、村人たちは皆賛成し、早速竜を門から下ろして、池に放った。彫刻の竜は皆の前でまるで生き物のように泳ぎ出し、村人たちは雨乞いも忘れて目を見張っていた。そうしているうちに黒雲が流れ出し、雷鳴が轟き、大暴風雨となった。
たちまち荒川があふれ、大洪水になってしまった。あまりのことに驚いた村人たちは、やたらと雨乞いはできないと語り合い、竜の爪を切り落し、寺の門へ鎖でしっかりと縛りつけることにした。それからは村に洪水はなくなったという。
『桶川市史 第六巻 民俗編』より要約
泉福寺の正門の竜の彫刻は左甚五郎の作という。昔、大変な旱魃があり、田畑の作物は枯死寸前となった。すると村の長老が「長いこと門に閉じこめられていて、さぞ退屈だったろう、どうじゃ寺の池にでも出して泳がせてみるとしたら」といった。
どんな雨乞いも効果がなかったので、村人たちは皆賛成し、早速竜を門から下ろして、池に放った。彫刻の竜は皆の前でまるで生き物のように泳ぎ出し、村人たちは雨乞いも忘れて目を見張っていた。そうしているうちに黒雲が流れ出し、雷鳴が轟き、大暴風雨となった。
たちまち荒川があふれ、大洪水になってしまった。あまりのことに驚いた村人たちは、やたらと雨乞いはできないと語り合い、竜の爪を切り落し、寺の門へ鎖でしっかりと縛りつけることにした。それからは村に洪水はなくなったという。
『桶川市史 第六巻 民俗編』より要約
幼稚園教諭の資質向上を目指すキャリアステージにおける講座の在り方の研究
-幼児教育の新たなキャリアである幼児教育コーディネータの養成-
社会,特に子どもを取り巻く環境が多様化し,幼稚園や認定こども園で幼児教育に携わる教員にもこうした状況に対応する資質・能力の向上が求められる.とりわけ,幼児教育の現場で中心的な役割を担う中堅層(ミドルリーダー)の果たすべき役割は大きい.しかし,中堅層の多くは二種免許状所有者であり,その専門性を向上させるためには教育委員会の研修で学ぶ教育の最新事情とともに,理論と実践を往還する内容が必要といえる.そのために,教員養成大学においても免許法認定講習等で,二種免許状保有者の専門性の向上を図り,上進を推進することが求められている.そこで,教員自身が時代や社会,環境の変化を的確につかみ取り,その時々の状況に応じた適切な教育・保育の提供を行うためには,個々の教員が自ら課題を持って,主体的に研修に参加する研修体制の確立が必要である.ここでは,幼稚園教諭の資質向上を目指すキャリアステージにおける講座の在り方を研究し,幼児教育の新たなキャリアである幼児教育コーディネータの養成について報告する.
<キーワード>幼児教育コーディネータ,キャリアステージ,幼稚園教諭の資質向上
1.はじめに
幼稚園教員の資質向上の意義について,平成14年6月24日に報告された「幼稚園教員の資質向上について-自ら学ぶ幼稚園教員のためにー」(報告)によると,次のように述べられている.
幼児期は,人間形成の基礎が培われる極めて重要な時期であり,他者の存在を意識し始め,人とのつながりや周りへの興味や関心が広がる時期である.幼児は,初めての集団生活である幼稚園において,主体的な活動としての遊びを通じ,他者との違いに気付き,ともに活動する喜びを得,自らの好奇心を高めるなど,生きる力の基礎を得ることができるようになるので,遊びを通した総合的な指導を行うことが重要である.
幼稚園教員は,幼児を内面から理解した上で,幼児の主体的な活動が確保されるように物的・空間的環境を構成するとともに,また,幼児の活動を豊かにするための役割が期待されており,幼児教育における中核的な役割を担っている.このため,幼稚園教員に優れた人材を得,また,その資質向上を図ることは極めて重要である.この調査研究においては,幼稚園教員の資質を,幼児教育に対する情熱と使命感に立脚した,知識や技術,能力の総体ととらえて,その向上のための課題と展望,今後の方向性及び方策を検討している.
教員として求められる資質は多岐にわたり,ライフステージに応じて,不断に向上に努めることが必要である.また,現職教員に対する研修だけでなく,人事や処遇等も含めて総合的に条件を整備していくことが,教員の総合的な資質の向上に必要である.
また,幼稚園が,自己点検・自己評価を行うことに努め,それらの結果や園の運営状況などに関する情報を園として積極的に公表していくことが求められているが,幼稚園教員の資質向上に関する項目についても,その対象とすることは,保護者や地域の多様なニーズに応え,幼稚園教育の水準を維持向上していくことに資する.
これらの観点を踏まえて,幼稚園教員自らが資質向上に対して取り組むことが重要であり,また,多くの関係者や関係団体がその取組を支援していくこと及びそのための環境の整備を国や地方公共団体が行うことが重要である.
そこで,本学において幼稚園教諭の資質向上を目指すキャリアステージにおける講座の在り方の研究として,幼児教育の新たなキャリアである幼児教育コーディネータの養成を始めたので報告する.
2.幼稚園教員に求められる専門性
幼稚園教員は,幼児一人一人の内面を理解し,信頼関係を築きつつ,集団生活の中で発達に必要な経験を幼児自らが獲得していくことができるように環境を構成し,活動の場面に応じた適切な指導を行う力をもつことが重要である.
また,家庭との連携を十分に図り,家庭と地域社会との連続性を保ちつつ教育を展開する力なども求められている.その際,幼稚園教育が,小学校以降の生活や学習の基盤の育成につながることに配慮し,幼児期にふさわしい生活を通して,創造的な思考や主体的な生活態度などの基礎を培うことに留意する必要がある.言うまでもなく,これらの教育活動に携わるにあたっては,豊かな人間性を基礎に,使命感や情熱が求められる.
3.教員のキャリアステージにおける資質の向上に関する指標
2017 年 4 月施行の教育公務員特例法(教特法)に基づき,各任命権者には教員育成指標とそれに基づく研修計画の策定が義務付けられた(第 22 条の 3,第 22 条の 4).法令・通知等から描出される理念型の教員育成指標は,教員キャリアの多様性を前提としつつ,教員キャリアにおいて身につけるべき資質・能力を明確化することで,全教員のキャリアに応じた基礎的資質・能力の確保(標準化)と,各教員の多様な資質・能力の伸長(卓越化)とを図るものである.また,その際には「教員の職責,経験及び適性」に対応した指標とすることが義務付けられている(第22 条の 3).
併せて国が策定した「公立の小学校等の校長及び教員としての資質の向上に関する指標の策定に関する指針」(以下,指針)では,教員育成指標に盛り込むべき要素として①学校種及び教員の職種,②職責,経験及び適性に応じた成長段階(以下,キャリアステージ),③資質・能力の内容(7項目)が明示されている.
「キャリアステージにおける目標を設定する際に」「資質向上のための研修を選ぶ際に」「今後目指すべき資質を明らかにする際に」少しでも役立てることを意図して策定された.
したがって,大学における幼稚園教諭の講習についてもこれらの指標(資質・能力)を踏まえたカリキュラムを作成することが重要である.
5.幼児期の教育と小学校教育の円滑な接続の在り方
平成22年11月11日 幼児期の教育と小学校教育の円滑な接続の在り方に関する調査研究協力者会議にて,「幼児期の教育と小学校教育の円滑な接続の在り方について(報告)」が提出された.
ここでは,子どもの発達や学びの連続性を保障するため,幼児期の教育と児童期の教育が円滑に接続し,体系的な教育が組織的に行われることが重要であるとの認識されている.その一方,地方公共団体や各学校・施設(幼稚園・保育所・認定こども園と小学校)の幼小接続のための取組は十分実施されているとはいえない状況であるとの課題も提言されている.その理由としては,「接続関係を具体的にすることが難しい」,「幼小の教育の違いについて十分理解・意識していない」,「接続した教育課程の編成に積極的ではない」があげられている.
このように,幼小連携の接続期の学びを進めていくためには,「幼稚園と小学校の教育課程の接続関係がわからない」,や「幼稚園教育と小学校教育の違いが十分理解されていない」という課題も明らかになっている.
6.幼児教育コーディネータの必要性
これらの幼児教育の社会的な課題を解決するためのキーパーソンとして,それぞれの園や教育委員会などに「幼児教育コーディネータ」を配置し,これらの社会的課題の解決し,幼児期から児童期の発達を見通しつつ,5歳児のカリキュラムとスタートカリキュラムを一体的に捉え,地域の幼児教育と小学校教育(低学年)の関係者が連携して,カリキュラム・教育方法の充実・改善にあたることを推進する体制を構築することが重要になる.
また,接続期に保育者が行っている環境の構成や子供への関わり方に関する工夫を見える化し,家庭や地域にも普及し,幼児期・接続期の教育の質保障のための枠組みを構築し,データに基づくカリキュラム・教育方法の改善を促進する必要がある. そこで、本学において幼稚園教諭の資質向上を目指すキャリアステージにおける講座の在り方を研究し,幼児教育の新たなキャリアである幼児教育コーディネータの養成カリキュラムを開発した.
参考文献
[1]久世均,斎藤陽子(2022):幼児教育コーディネータ概論,岐阜女子大学
資 料
1.幼稚園教諭の資質向上を目指すキャリアステージにおける講座の在り方の研究(論文)
2.幼稚園教諭の資質向上を目指すキャリアステージにおける講座の在り方の研究プレゼン(PDF)
3.幼稚園教諭の資質向上を目指すキャリアステージにおける講座の在り方の研究プレゼン(PPTX)
4. 幼児教育の専門性向上のための調査用紙(Word)
——令和4年度幼稚園教諭免許法認定講習等の在り方に関する調査研究推進事業評価検討委員会協議事項(PDF)
外部検討委員会(個別ヒアリング)
1. 令和4年度幼稚園教諭免許法認定講習等の在り方に関する調査研究推進事業評価検討委員会協議事項(Word)
—–令和4年度幼稚園教諭免許法認定講習等の在り方に関する調査研究推進事業受講者ヒアリング会議協議事項(PDF)
2. 令和4年度幼稚園教諭免許法認定講習等の在り方に関する調査研究推進事業受講者ヒアリング会議協議事項(word)
—–令和4年度幼稚園教諭免許法認定講習等の在り方に関する調査研究推進事業評価検討委員会協議事項(PDF)
関連サイト
1.【研究】幼稚園教諭免許法認定講習等の在り方に関する調査研究
2.【講義】幼児教育コーディネータ概論
教育のDX時代における “新たな学び”の在り方
-教育リソースと連携したe-Learningシステムの構築-
教育DX(Digital Transformation)時代における“新たな学び”とは,教師がデジタル技術を活用し,学びのあり方やカリキュラムを革新させると同時に,教職員の業務や組織,プロセス,学校文化を革新し,時代に対応した教育を確立することである.
また,学びという側面から考えてみると教育DXの目的は,「個別最適な学びという“新たな学び”の実現」である.20世紀の学習観は,行動主義・認知主義の学習観を採用していた.しかし,21世紀に入り,学習観は「主体的・対話的な深い学びの実現」という構成主義・社会構成主義の学習観に移行した.この変化から分かるように,教育が「全員に同じ教育」から「個々が持つ能力を最大限活かす教育」に変化している.また,デジタルツールを学びに活用することで,さらなるクリエイティブな学びの実現もDX時代における“新たな学び”の目的とされている.ここでは,これらの教育のDX時代における “新たな学び”の在り方について考える.
<キーワード>教育DX,GIGAスクール構想,J・B・キャロルの学校学習の時間モデル
1.はじめに
「DX(Digital Transformation)」は,2004年にスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授によって提唱された概念である.その内容は「進化し続けるテクノロジーが人々の生活を豊かにしていく」というもので,“進化したデジタル技術を浸透させることで人々の生活をより良いものへと変革すること”と解釈できる.
ただし,教育DXが及ぼすのは単なる「変革」ではなく,デジタル技術による破壊的な変革を意味する「デジタル・ディスラプション」.すなわち,既存の価値観や枠組みを根底から覆すような革新的なイノベーションをもたらすものであると捉えられている.
文部科学省も,この教育DX時代に対応して令和2年12月23日に文部科学省デジタル化推進本部から「文部科学省におけるデジタル化推進プラン」を報告している.ここでは,「・・・ポスト・コロナ期のニューノーマルに的確に対応していくために必要なDXに係る取組を早急かつ一体的に推進していかなければならない局面を迎えている.」とし,次のように4つの具体的な方針を掲げている.
①GIGA(Global and Innovation Gateway for All)スクール構想による1人1台端末の活用をはじめとした学校 教育の充実
②大学におけるデジタル活用の推進
③生涯学習・社会教育におけるデジタル化の推進
④教育データの利活用による,個人の学び,教師の指導・支援の充実, EBPM等の推進
特に,①のGIGAスクール構想については,令和3年3月12日の「GIGAスクール構想の下で整備された1人1台端末の積極的な利活用等について(通知)」において,「文部科学省では,Society 5.0 時代を生きる全ての子供たちの可能性を引き出す個別最適な学びと協働的な学びを実現するためには,学校現場における ICT の積極的な活用が不可欠との観点から「GIGA スクール構想」を推進しているところであり,関係各位の御尽力により,本年4月から,全国のほとんどの義務教育段階の学校において,児童生徒の「1人1台端末」及び「高速大容量の通信環境」の下での新しい学びが本格的にスタートする見込みとなっている.」と述べている.また,“新たな学び”について,文部科学大臣がメッセージで,「1人1台端末環境は,もはや令和の時代における学校の「スタンダード」であり,特別なことではない.これまでの我が国の 150 年に及ぶ教育実践の蓄積の上に,最先端の ICT 教育を取り入れ,これまでの実践と ICT とのベストミックスを図っていくことにより,これからの学校教育は劇的に変わる.この“新たな学び”の技術革新は,多様な子供たちを誰一人取り残すことのない公正に個別最適化された学びや創造性を育む学びにも寄与するものであり,特別な支援が必要な子供たちの可能性も大きく広げるものである.」と子供たち一人一人に個別最適化され,創造性を育む教育 ICT 環境の実現を求めている.ここでは,子供たち一人一人に個別最適化され,創造性を育む学びとは何か,その実現のための“新たな学び”とはどのような学びで,従来の学びとどのように異なるのかについて考える.
2.GIGAスクール構想
児童生徒一人一台コンピュータを実現することで,これまでの我が国の教育実践と最先端のICTのベストミックスを図り,教師・児童生徒の力を最大限に引き出す.災害や感染症の発生等による学校の臨時休業等の緊急時における,児童生徒の学びの保障の観点からも,ICTを効果的にフル活用することが重要である.
GIGAスクール構想が推し進められた背景は,日本の学校のICT環境整備の遅れだった.GIGAスクール構想の発表当初,教育用コンピュータ1台当たりの児童生徒数は全国平均で5.4人/台と1人1台には遠く及ばず,地域間格差も大きかった.また,その当時は世界的に見ても日本の学校におけるICT活用は遅れており,34カ国の先進諸国で構成されているOECDの中で,「学校の授業におけるデジタル機器の使用時間が最下位」という結果になっていた.こうした状況を打破するために,政府は校内通信ネットワークの整備と児童生徒1人1台端末の整備に補助金制度を導入し,GIGAスクール構想を推し進めることになった.
加えて,GIGAスクール構想より前から取り組み自体は始まっていたプログラミング教育もGIGAスクール構想の一部としてあらためて提唱された.AIやIoTを積極的に活用するSociety 5.0の時代の到来に備え,プログラミング教育を通して,情報活用能力と論理的思考力を身に付ける狙いだ.
こうした背景により始まったGIGAスクール構想は,「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)」の世界的な大流行を受けてその必要性が急速に高まり,2023年度までとした当初目標も2020年度内と前倒しされ,それに伴う予算措置も取られ,加速度的に端末などの整備が進んだ.
1人1台の端末が配布されることで,子供一人一人に応じたコンテンツや教材を配信できるため,学習状況に合わせた学びが可能になる.これまでの一斉型の授業では子供たちの理解力に差があっても,一人一人に最適化した教材や指導を取れないことが課題だった.また,地域間での教育格差など,学ぶ場所によって学習レベルが異なるという課題も存在していた.
しかし,GIGAスクール構想の目標である1人1台の端末と家庭を含むネットワーク環境整備が大きく進んだ現在,学習状況や地域を問わず,全ての子供が自分に合った教育を受け,災害や感染症による臨時休校時でも学びの機会を奪われない土台ができたといえる.
今後は授業や自宅学習での有効な利活用を進める,それを支える教員のスキルを向上させる,よりリッチなコンテンツを作るなど,端末や通信環境などのハードを活用したソフト側の高度化を進めることで,より質の高い教育が実現される.
生徒一人一人に端末を持たせることで,子供が互いの考えをリアルタイムで共有でき,双方向での意見交換が活発になると期待される.生徒どうしのみならず教員と生徒のコミュニケーションも行えるため,教員が生徒の学習状況や反応をより深く知ることができる.
従来の一斉型の授業では,手を挙げた子供だけが回答や意見を発表していたため,自ら表現できない子供も多かったが,GIGAスクール構想では,全ての子供の意見が情報端末を活用して共有されるなどして,コミュニケーションを活性化させることが期待される.
また,学びの機会は授業中の教員と生徒間でのコミュニケーション以外からも得ることができる.例えば,整備された端末を活用して子供たちが興味を持ったことを調べたり,写真や動画などでアウトプットしたり友達どうしで共有したりする過程で,創造性を育む学びにつながるとも言える.
GIGAスクール構想の重要な考え方として「創造性を育む学び」がある.滋賀県草津市の事例では,「タブレットを活用することで主体的かつ対話的な学習が可能になり,大きな効果を発揮した」としている.ICTは一方通行の勉強を教えるツールではなく,子供たちが学ぶためのツールであり,授業のみに留まらず,勉強にも遊びにも活用し,日常の一部として創造的に学ぶために活用されてこそ,真価を発揮する.ここでは,これらを背景とした“教育DX時代における新たな学び”を具体的に考えてみる.
3.J・B・キャロルの学校学習の時間モデル
学習者には,それぞれに個性があり,知識の差や興味関心が違う.このような個人差について教師はどのように考えたらいいか.
J・B・キャロル(Carroll)は,1963年に提唱した学校学習の時間モデルで,学習者の学習の目標の達成ができないことについて,それは学習者の能力が原因ではなく,学習の目標を達成するための学習者の時間が不足していたと考えた.このことにより,学習の目標の達成に必要な時間をどのように確保し,どのように支援を工夫したらもっと短い時間で学ぶことができるか改善することができる.つまり,J・B・キャロルは,能力から時間への発想の転換を行ったのである.
さらに,J・B・キャロルは,学習率に影響を与える変数を,5つの要素に分解して説明している.まず,「課題への適性」とは,ある課題を達成するのに必要な時間の長短によって表される学習者の特性を課題への適性とした.次に,「授業の質」は,学習者が短時間のうちにある課題を学べる授業かどうかを授業の質としてとらえている.質の高い授業の要件としては,少なくとも何をどう学習するかが学習者に伝わっていて,はっきりとした形で材料が提示され,授業同士が有機的に次につながっていて,授業を受ける学習者の特性に応じた配慮がなされていることが挙げられている.次に,授業の質の低さを克服する力を「授業理解力」と呼び,これが第3の要因としている.次に,学習に費やされる時間を左右する要因を次のように示している.ある課題を学習するためにカリキュラムの中に用意されている授業時間を「学習機会」と呼び,学習に費やされる時間を左右する第一の要因と考えている.また,与えられた学習機会のうち,学習者が実際に学ぼうと努力して,学習に使われた時間の割合を「学習持続力」としている.
教師は,学習率を高めるために,学習に必要な時間を分母の要因に注目して減らす工夫と,学習に費やされる時間を分子の要因に注目して増やす工夫ができる.J・B・キャロルの時間モデルに含まれている5つの変数は,教師として授業を工夫し,学習者一人一人が学習に費やす時間を確保し,また,学習に必要な時間を短縮していくためのチェックポイントと考えることができる.
ICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)の活用についても,学校学習の時間モデルのどの変数に働きかけるのが,何が,いつ,どのように効果があるのかという視点で考えると,ICTの活用の発想が広くなる.最近のインターネット上で誰もが無料で受講できる大規模な開かれた講義であるMOOCs(Massive Open Online Courses)や反転学習で代表される学習の場合は,授業時間以外の利用によって,「学習機会」の拡大につながる可能性が大きいことがわかる.
ここで,「インストラクショナルデザイン」や「教えないで学べる」学習環境は,キャロルの学校学習の時間モデルの授業の質を高め,授業理解力を助け,学習機会や学習持続力を高めるための手法であり,学習環境でもある.「教えないで学べる」という“新たな学び”を実現するためには,これらの手法や学習環境を整備することによって実現するものであり,学習者の学ぶ意欲を促し,自律的に継続して学ぶ力をつけていくことが大切である.
4.「教えないで学べる」学習環境
学校における授業は,教科書や様々な教材等を使用して行われており,児童生徒たちの学びにとってこれらの果たす役割は極めて大きいと考えられる.学校教育における重要なツールであるデジタル教科書・教材やタブレットPC等について,21 世紀を生きる児童生徒に求められる力の育成に対応した学習環境の整備を図っていくことが必要である.
ICTの活用では,一斉指導による学び(一斉学習)に加え,児童生徒一人一人の能力や特性に応じた学び(個別学習)や,児童生徒同士が教え合い学び合う協働的な学び(協働学習)を推進することにより,基礎的・基本的な知識・技能の習得や,思考力・判断力・表現力等や主体的に学習に取り組む態度の育成ができる.
こうした学びを,学校教育法第30 条第2 項に規定する学力の3 要素である「基礎的・基本的な知識・技能の習得」「思考力・判断力・表現力等の育成」「主体的に学習に取り組む態度の育成」という観点から見た授業を実践するために今後必要な学習環境を次に考えてみる.
(1)クラウドコンピューティング(cloud computing)
クラウドコンピューティングとは,ネットワーク,特にインターネットを介したコンピュータの利用形態で,学習者は,インターネット上にあるサーバやソフトウェアなどのリソースが提供するクラウドサービスを利用し,e-ラーニング(e-Learning)等のさまざまな学習を行うことができる.クラウドコンピューティングは,インターネット回線を経由して,データセンタに蓄積された資源を利用するものであり,学校でサーバ等の設備を持たずに済むことから,情報環境を構築する負荷の軽減と,運用に伴う人的・物的負担を軽減することが可能となる.
(2)電子書籍(デジタル教科書)
電子書籍とは,PCやタブレットPCで読むことができるように設計された従来の印刷図書の電子化で,電子書籍(electronic Book),デジタル書籍,デジタルブック(digital book),eブック(e-book),オンライン図書(online book)とも呼ばれている.
(3)フィールドワーク
フィールドワークのためのタブレットPCの機能分析及び活用方法の検討をとおして,タブレットPCの教育利用には大きな可能性があるものの,現在流通している機器そのままでは教育利用に適さない部分が多々ある.
(4)e-ラーニング(e-Learning)
e-Learningを推進する上では,教育リソースであるデジタル教材(学習材)の整備が必要不可欠となる.デジタル教材(学習材)自体は,各学校の教育事情に応じて整備されるべきもので,一元的に学校間で利用できるものにはなりにくいと考えられる.しかし,リメディアル系やキャリア支援系等の共通基盤教材や,教育素材的なものは,内容的・用途的にも十分共有可能であり,こうした利活用可能なデジタル教材(学習材)・素材を具体的に検討し,実際に実践可能な学校間で提供しあえるルール作りを検討することが重要である.
(5)eポートフォリオ(e-Portfolio)
eポートフォリオとは,「学習,スキル,実績を実証するための成果を,ある目的のもと,組織化/構造化しまとめた収集物」のことで,学びの目標を自己点検・確認させる一つの手段として,学びの成果を可視化するためのeポートフォリオの活用が進みつつある.しかし,まだこのeポートフォリオは,自己管理・点検させるまでに留まっている例が多い.そこで,児童生徒一人一人の課題と向き合い,組織的に学習指導を行い,授業と連携した「反転授業」や,不足している能力を卒業までに身に付させるための振り返りの学習の場を提供するルールを考える必要がある.今後,eポートフォリオをどのように評価するかという研究も行う必要がある.
(6)ラーニング・コモンズ(Learning Commons)
ラーニング・コモンズ(Learning Commons)とは,ICTを活用しながら,学習者自身が主体となって学ぶ教育環境をいう.能動的学習授業では,まず①教育リソース(デジタル教材)で予習をした上で,授業の最初に仮説の予想をし,②仮説をグループで討議し,机の上に用意されたタブレットPCで調査を行い,③調査結果をタブレットPCに接続された電子黒板(アクティブボード)を使って分析し,仮説が正しかったかどうかを検討する.その後,④結果を発表した後,電子黒板(アクティブボード)で仮説の内容を可視化しながらシミュレーションをし,仮説と調査結果の関係をグループで再討議し,⑤授業後に発展課題のレポートを作成する授業を推進するような,グループ・ディスカッション,ディベート,グループ・ワーク等による課題解決型の能動的学習を積極的に導入・実践することが必要となる.
そのためには,児童生徒が,十分な質を伴った学習時間を実質的に増加・確保するためにICTを利用した学習の方法として,授業の内容をアーカイブし,授業外の時間にデジタル教材管理システムで自主的に視聴できるようにする.このことにより,授業では事例や知識の応用を中心とした対話型の活動をする事が可能となる.このように,説明型の授業をオンライン教材化して授業外の時間に視聴し,従来宿題であった応用課題を教室で対話的に学ぶ教育方法(反転授業)を実践することが必要となる.
参考文献
(1)久世均:遠隔教育特講,2022.7,岐阜女子大学
資料
1.教育のDX時代における “新たな学び”の在り方(論文)
2.教育のDX時代における “新たな学び”の在り方プレゼン(PDF)
3.教育のDX時代における “新たな学び”の在り方プレゼン(PPTX)
教育リソースと連携したe-Learningシステム
1.【講義】教育情報特講
—–アンケートの分析
2.【講義】遠隔教育特講
3.【講義】教材リサーチⅠ
4.【講義】情報の管理と流通
—–アンケートの分析
5.【講義】教材リサーチⅡ
6.【講義】教材開発の基礎としてのインストラクショナルデザイン
7.【講義】情報処理Ⅱ~情報と人権~
アメリカ国立訓練研究所の研究によると、学習方法と平均学習定着率の関係は「ラーニングピラミッド」という図で表すことができます。大学の授業や会社の新人研修などでは、講義・実技・議論などさまざまな方法で学習を行いますが、学習時間が限られていて状況では、より効率の良い方法での学習がスムーズに学習内容を身につけることにつながります。
つまり、ラーニングピラミッドは受動的な学習から能動的な学習までを段階的に行い、学習の定着率アップを図っていく方法です。物事を他人に教えるためには、自分でしっかりと内容を理解していなければならないため、ラーニングピラミッド理論では、もっとも知識の定着率が高い段階とされています。
そこで、本講座は、学生と協働して、e-Learningコンテンツを作成します。学生は、各テーマに基づいて興味がある内容を選択し、最新情報も調査しまとめてプレゼン資料と動画資料を作成し人に教えることによって学ぶ方法を教えます。
—–アンケート分析
8.【講義】デジタル資料の選定評価
【参考】
—–日本教育情報学会第37回オンライン学会に関するアンケート分析
五箇山 菅沼合掌集落
富山県の南西端にある南砺市・五箇山には、9戸の合掌造り家屋を今に伝える菅沼合掌造り集落があります。その家屋は、いくつもの歳月を重ねて、冬の豪雪に耐えうる強さと、生活の場と養蚕などを生産する仕事場を兼ね備えた合理性を持つ建物です。
そのたくましく美しいたたずまいを筆頭に、日本の原風景ともいうべき山村の景観も含めて、1995年12月に岐阜県白川郷、五箇山相倉とともにユネスコの世界文化遺産に登録されました 周辺の山林をも含めた地域が世界文化遺産に指定されているため、観光地化されていない、ありのままの自然を残しているところが魅力。
遙か昔にタイムスリップしたかのような不思議な感覚を味わえます。また、集落内には江戸時代の主産業を今に伝える「塩硝の館」や「五箇山民俗館」があり、五箇山の歴史と伝統にふれることもできます。
(引用:http://suganuma.info/about)
五箇山 上平村上梨
上梨(かみなし)は、国道156号線沿いにある五箇山地域で最大の集落です。こきりこの里として知られています。毎年9月25日と26日にはこきりこ祭りが開催され、白山宮では奉納こきりこ踊りが行われます。
上梨は世界遺産に登録された五箇山の相倉(あいのくら)と菅沼の間に位置する集落。多くの観光客が素通りしていますが、ここにも見事な合掌造り民家が残されています。
富山県の五箇山(旧平村、旧上平村、旧利賀村の総称)にはかつて70の集落があり、そのほとんどが合掌造りの村でした。しかし近代化の影響を受け、多くの家が建て直され、また、豪雪被害などで廃村となる集落もありました。
現在、良好な状態で往時の姿をとどめるのが、相倉(合掌造りの民家は20戸)と菅沼(9戸)で、岐阜県白川郷の荻町とともに世界遺産に登録されています。
上梨は相倉と菅沼の間に位置する集落。合掌造りの家が5戸残り、数のうえでは五箇山で第三の合掌集落ということになります。
別の言い方をすれば、合掌造りの家が「群」をなしている光景を見られるのは、相倉、菅沼のほかには、ここ上梨だけということになります。