【研究論文】教育DX時代における“新たな学び”をデザインする
1.デジタル・フュージョン・ラーニング(DFL)について
デジタル・フュージョン・ラーニングは、伝統的な学習方法とデジタル技術を組み合わせた新しい学習アプローチ
このアプローチでは、学習者がデジタルツールやオンラインリソースを活用しながら、対面授業や対話型の学習体験を組み合わせることで、より効果的な学びを提供する。
デジタル技術を活用することで、学習者はより柔軟な学習スタイルを選択し、自分のペースで学習を進めることができる。また、デジタルツールを活用することで、学習者同士や教師とのコミュニケーションが促進され、より豊かな学習体験が可能となる。
さらに、デジタル・フュージョン・ラーニングは、学習者がリアルな問題解決やプロジェクトベースの学習に取り組む機会を提供し、実践的なスキルや知識を身につけることを重視している。
このように、デジタル・フュージョン・ラーニングは、伝統的な学習方法とデジタル技術を融合させることで、より効果的で魅力的な学習環境を提供する新しい学習アプローチである。
デジタル・フュージョン・ラーニングを実現するためには、以下のような点を考慮して授業を改善する必要がある。
1. デジタルツールの活用: 教師は、デジタルツールやオンラインリソースを積極的に活用して授業を補完し、学習者が自律的に学ぶ環境を整える必要がある。
2. インタラクティブな学習体験: 対話型の学習やグループワーク、ディスカッションなど、学習者同士や教師とのコミュニケーションを促進することで、より深い学びを実現する。
3. プロジェクトベースの学習: 学習者が実践的なスキルや知識を身につけるために、リアルな問題解決やプロジェクトベースの学習に取り組む機会を提供することが重要である。
4. 学習者のニーズに合わせたカスタマイズ: 学習者の興味や学習スタイルに合わせて、個別にカスタマイズされた学習プランを提供することで、学習効果を最大化する。
5. フィードバックと評価の重視: 学習者の成長を促すために、定期的なフィードバックや適切な評価を行い、学習の進捗状況を把握する。
「デジタル・フュージョン・エデュケーション」は、デジタル技術と伝統的な教育方法を融合させた新しい教育アプローチを指す。
デジタル技術を活用しながら、対面授業や対話型の学習体験を組み合わせることで、より効果的な学習環境を提供することを目指す。
資料
1.教育DX(Digital Transformation)時代“新たな学び”をデザインする(プレゼン)
2.Multi Campus One Digital University構想
教育DX(Digital Transformation)時代における“新たな学び”とは,教師がデジタル技術を活用し,学びのあり方やカリキュラムを革新させると同時に,教職員の業務や組織,プロセス,学校文化を革新し,時代に対応した教育を確立することである.
また,学びという側面から考えてみると教育DXの目的は,「個別最適な学びという“新たな学び”の実現」である.20世紀の学習観は,行動主義・認知主義の学習観を採用していた.しかし,21世紀に入り,学習観は「主体的・対話的な深い学びの実現」という構成主義・社会構成主義の学習観に移行した.この変化から分かるように,教育が「全員に同じ教育」から「個々が持つ能力を最大限活かす教育」に変化している.また,デジタルツールを学びに活用することで,さらなるクリエイティブな学びの実現もDX時代における“新たな学び”の目的とされている.ここでは,これらの教育のDX時代における “新たな学び”の在り方について考える.
(1)教育DX時代における教育リソース並びにe-Learningの構成
「DX(Digital Transformation)」は,2004年にスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授によって提唱された概念である.その内容は「進化し続けるテクノロジーが人々の生活を豊かにしていく」というもので,“進化したデジタル技術を浸透させることで人々の生活をより良いものへと変革すること”と解釈できる.
ただし,教育DXが及ぼすのは単なる「変革」ではなく,デジタル技術による破壊的な変革を意味する「デジタル・ディスラプション」.すなわち,既存の価値観や枠組みを根底から覆すような革新的なイノベーションをもたらすものであると捉えられている.
文部科学省も,この教育DX時代に対応して令和2年12月23日に文部科学省デジタル化推進本部から「文部科学省におけるデジタル化推進プラン」を報告している.ここでは,「・・・ポスト・コロナ期のニューノーマルに的確に対応していくために必要なDXに係る取組を早急かつ一体的に推進していかなければならない局面を迎えている.」とし,次のように4つの具体的な方針を掲げている.
①GIGA(Global and Innovation Gateway for All)スクール構想による1人1台端末の活用をはじめとした学校 教育の充実
②大学におけるデジタル活用の推進
③生涯学習・社会教育におけるデジタル化の推進
④教育データの利活用による,個人の学び,教師の指導・支援の充実, EBPM等の推進特に,①のGIGAスクール構想については,令和3年3月12日の「GIGAスクール構想の下で整備された1人1台端末の積極的な利活用等について(通知)」において,「文部科学省では,Society 5.0 時代を生きる全ての子供たちの可能性を引き出す個別最適な学びと協働的な学びを実現するためには,学校現場における ICT の積極的な活用が不可欠との観点から「GIGA スクール構想」を推進しているところであり,関係各位の御尽力により,本年4月から,全国のほとんどの義務教育段階の学校において,児童生徒の「1人1台端末」及び「高速大容量の通信環境」の下での新しい学びが本格的にスタートする見込みとなっている.」と述べている.また,“新たな学び”について,文部科学大臣がメッセージで,「1人1台端末環境は,もはや令和の時代における学校の「スタンダード」であり,特別なことではない.これまでの我が国の 150 年に及ぶ教育実践の蓄積の上に,最先端の ICT 教育を取り入れ,これまでの実践と ICT とのベストミックスを図っていくことにより,これからの学校教育は劇的に変わる.この“新たな学び”の技術革新は,多様な子供たちを誰一人取り残すことのない公正に個別最適化された学びや創造性を育む学びにも寄与するものであり,特別な支援が必要な子供たちの可能性も大きく広げるものである.」と子供たち一人一人に個別最適化され,創造性を育む教育 ICT 環境の実現を求めている.ここでは,子供たち一人一人に個別最適化され,創造性を育む学びとは何か,その実現のための“新たな学び”とはどのような学びで,従来の学びとどのように異なるのかについて考える.
(2)遠隔授業(ハイブリット型授業)
授業の設計に関して「何をどのように教えるか」がカリキュラムである.それに対して,カリキュラムを構築するための方法論が「インストラクショナルデザイン」である.インストラクショナルデザインは,カリキュラムを効率的に教えるために,学習者の特徴や与えられた環境,教育リソースなどを考慮し,最も効果的で効率的・魅力的な教育方法を選択することであり,実行と評価を繰り返すことで,研修の成果を高めることができる.
ハイブリット型授業のためには,テキスト,教育リソース(教材・素材のデジタルアーカイブ),質問・応答の体制が重要である.特に,各教科の学習到達目標の見直しと学習を深化するための仕掛け,教育リソース(個別に対応した教材・素材のデジタルアーカイブ等学習支援デジタルアーカイブ)が重要である.また,「自ら知識を構成する」学習観である構成主義の学びと創造的に学ぶ(クリエイティブ・ラーニング)教育を実現においても,教材のデジタルアーカイブの充実は必要となる.このハイブリット型授業には以下の3つの型がある.
(a)Ⅰ型
対面授業とe-Learning を交代に組み合わせて,e-Learningの映像により理論的な学びをし,対面授業によりグループ討議やワークショップを行う.e-Learningにより授業内容に課題や疑問点を持ち対面授業に向かうことで,個別最適化した学びの実現と問題解決能力を身に着けることができる.
(b)Ⅱ型
対面授業とe-Learning を組み合わせて,最初の対面授業にて授業の目標を明確化し,学習の方法を示したのちにe-Learningによるオンライン授業(オンデマンド学習)に取り組む.e-Learningでは,わからなかった内容を繰り返し閲覧し確認することが,自分の理解度やペースに合わせて繰り返し視聴できるため,予習時の理解も高めることができる.また,復習にも活用することができるため,知識を定着させる効率を高めることができる.
(c)Ⅲ型
e-Learning のみでの学習は,いつでも,どこからでも学習ができ,教えないで学べる完成型として位置付ける.社会には多くのオンラインでの学習機会がある.今後,広く深く学びを継続し,学び続ける教師としてハイブリット型授業Ⅲ型は,発展性がある学習方法になる.
(d) 教育リソース
これらのハイブリット型授業の効果を上げるのが教育リソース(個別に対応した教材・素材のデジタルアーカイブ等学習支援デジタルアーカイブ)である.これらの教材をデジタルアーカイブし,提供できるシステムを構築しておくことが重要である.
このように,学習者の状況などを考慮してハイブリット型授業をデザインしていくことが重要である.講座の目的は「教えること」ではなく,学習者が「自ら学ぶ」ことを手助けし,学習者に変化が起こることである.成果につながる行動変容できる人材育成のみならず,大学など学校に「学習する文化」を広げることが重要である.
本学では,2000年から遠隔教育を衛星放送,テレビ会議システムを使用して実施し,その後,2010年からはテレビ会議システム,e-Learningによるハイブリット型授業を一部で導入・実施している.
また,通信制の大学院文化創造学研究科を2008年に設置し,教員免許状上進講座,各種公開講座,デジタル・アーキビスト資格取得講座等において遠隔教育を推進してきた.
コロナ禍が教育のデジタルトランスフォーメーション(DX)を加速する中,本学は,ニューノーマル時代に求められる学びの在り方に対応するため,大学生から社会人まで幅広い学習者を対象として,本学における今までの「遠隔教育の実績」と「膨大な教育リソース(デジタルアーカイブ)」を最大限に活用し,e-Learningを授業主体として展開する新しい遠隔教育を推進している.
そして,「生涯学習社会」の実現に向けて,学習者が生活している場所を離れることなくいつでも,どこからでも,誰とでも,資格の取得を含め広く文化創造学を学び,多様な文化創造活動を支える専門的かつ実践的な力を持つ知的な素養のある人材の養成を目指している.
(3)「教えないで学べる」という新たな学び
学校における授業は,教科書や様々な教材等を使用して行われており,児童生徒たちの学びにとってこれらの果たす役割は極めて大きい.学校教育における重要なツールであるデジタル教科書・教材やタブレットPC等について,21 世紀を生きる児童生徒に求められる力の育成に対応した学習環境の整備を図っていくことが必要である.
ICTの活用では,一斉指導による学び(一斉学習)に加え,児童生徒一人一人の能力や特性に応じた学び(個別学習)や,児童生徒同士が教え合い学び合う協働的な学び(協働学習)を推進することにより,基礎的・基本的な知識・技能の習得や,思考力・判断力・表現力等や主体的に学習に取り組む態度の育成ができる.
こうした学びを,学校教育法第30 条第2 項に規定する学力の3 要素である「基礎的・基本的な知識・技能の習得」「思考力・判断力・表現力等の育成」「主体的に学習に取り組む態度の育成」という観点から見た授業を実践するために今後必要な学習環境を次に考えてみる.
(1)クラウドコンピューティング(cloud computing)
クラウドコンピューティングとは,ネットワーク,特にインターネットを介したコンピュータの利用形態で,学習者は,インターネット上にあるサーバやソフトウェアなどのリソースが提供するクラウドサービスを利用し,e-ラーニング(e-Learning)等のさまざまな学習を行うことができる.クラウドコンピューティングは,インターネット回線を経由して,データセンタに蓄積された資源を利用するものであり,学校でサーバ等の設備を持たずに済むことから,情報環境を構築する負荷の軽減と,運用に伴う人的・物的負担を軽減することが可能となる.
(2)教育リソース
教育リソースとは,PCやタブレットPCで読むことができるように設計された電子化された資料などで,電子書籍(electronic Book),デジタル書籍,デジタルブック(digital book),eブック(e-book),オンライン図書(online book)も含まれる.今後は,メディアの特性を生かし,学習者が主体的に活用でき,一人一人の学習者の特性に対応した教育リソースのあり方を調査研究する必要がある.
(3)フィールドワーク
フィールドワークのためのタブレットPCの機能分析及び活用方法の検討をとおして,タブレットPCの教育利用には大きな可能性があるものの,現在流通している機器そのままでは教育利用に適さない部分が多々ある.
(4)e-ラーニング(e-Learning)
e-Learningを推進する上では,教育リソースであるデジタル教材(学習材)の整備が必要不可欠となる.デジタル教材(学習材)自体は,各学校の教育事情に応じて整備されるべきもので,一元的に学校間で利用できるものにはなりにくいと考えられる.しかし,リメディアル系やキャリア支援系等の共通基盤教材や,教育素材的なものは,内容的・用途的にも十分共有可能であり,こうした利活用可能なデジタル教材(学習材)・素材を具体的に検討し,実際に実践可能な大学間で提供しあえるルール作りを検討することが重要である.
(5)eポートフォリオ(e-Portfolio)
eポートフォリオとは,「学習,スキル,実績を実証するための成果を,ある目的のもと,組織化/構造化しまとめた収集物」のことで,学びの目標を自己点検・確認させる一つの手段として,学びの成果を可視化するためのeポートフォリオの活用が進みつつある.しかし,まだこのeポートフォリオは,自己管理・点検させるまでに留まっている例が多い.そこで,児童生徒一人一人の課題と向き合い,組織的に学習指導を行い,授業と連携した「反転授業」や,不足している能力を卒業までに身に付させるための振り返りの学習の場を提供するルールを考える必要がある.今後,eポートフォリオをどのように評価するかという研究も行う必要がある.(6)ラーニング・コモンズ(Learning Commons)
ラーニング・コモンズ(Learning Commons)とは,ICTを活用しながら,学習者自身が主体となって学ぶ教育環境をいう.能動的学習授業では,まず①教育リソース(デジタル教材)で予習をした上で,授業の最初に仮説の予想をし,②仮説をグループで討議し,机の上に用意されたタブレットPCで調査を行い,③調査結果をタブレットPCに接続された電子黒板(アクティブボード)を使って分析し,仮説が正しかったかどうかを検討する.その後,④結果を発表した後,電子黒板(アクティブボード)で仮説の内容を可視化しながらシミュレーションをし,仮説と調査結果の関係をグループで再討議し,⑤授業後に発展課題のレポートを作成する授業を推進するような,グループ・ディスカッション,ディベート,グループ・ワーク等による課題解決型の能動的学習を積極的に導入・実践することが必要となる.
そのためには,児童生徒が,十分な質を伴った学習時間を実質的に増加・確保するためにICTを利用した学習の方法として,授業の内容をアーカイブし,授業外の時間にデジタル教材管理システムで自主的に視聴できるようにする.このことにより,授業では事例や知識の応用を中心とした対話型の活動をする事が可能となる.このように,説明型の授業をオンライン教材化して授業外の時間に視聴し,従来宿題であった応用課題を教室で対話的に学ぶ教育方法(反転授業)を実践することが必要となる.
学校においては,「答えのない問題」を発見してその原因について考え,最善解を導くために必要な専門的知識及び汎用的能力を鍛えること,あるいは,実習や体験活動などを伴う質の高い効果的な教育によって知的な基礎に裏付けられた技術や技能を身に付けることができる.また,授業ための事前の準備(資料の下調べや読書,思考,学生同士の議論など),授業の受講(教員の直接指導,その中での教員と学習者,学習者同士の対話や意思疎通など),事後の展開(授業内容の確認や理解の深化のための探究,さらなる討論や対話など)やインターンシップやサービス・ラーニング等の体験活動など,事前の準備,授業の受講,事後の展開を通した主体的な学びに要する総学習時間の確保することができる.さらに,学生の主体的な学びを確立し,十分な質を伴った学習時間が実質的に増加・確保できる.
また,この学習支援を実施するためにも,自学学習をする児童生徒の利用目的や学習方法にあわせ,ICTを柔軟に活用し,効率的に学習を進めるための総合的な学習環境であるラーニング・コモンズ(Learning Commons)を各学校に整備する必要がある.
資料
1.Multi Campus One Digital University構想
2.Multi_Campus_One_Digital_University構想__私立大学地域創生推進事業20240507
3.学校DX戦略コーディネータ養成カリキュラムの開発
<課 題>
〇大学院専修免許上進のインセンティブがない。
〇専修免許上進のカリキュラムに一貫性(コンセプト)がない。
〇専修免許(16単位8科目)の取得の時間的・経済的負担が大きい。
<解決案>
〇学校DX戦略コーディネータ(仮称)の養成プロクラムを構成し、全体のコンセプトを統一し、いつでも、どこからでも、学修できるプログラムを提案する。
学校DX戦略コーディネータの定義
“学校DX戦略コーディネータ”は、学校や教育機関においてデジタルトランスフォーメーション(DX)戦略の計画、実施、および評価をし、効果的に推進する役割を担う専門家
1.履修証明プログラム
履修証明制度とは、学校教育法第105条及び学校教育法施行規則第164条の規定に基づき、大学が教育や研究に加えてより積極的な社会貢献として、主として社会人向けに体系的な学習プログラムを開設し、その修了者に対して、法に基づく履修証明書を交付するもの。
2.オンラインによるスタートアップ講座(1日)+e-Learning8科目 16単位 )
→オンラインによるスタートアップ講座(1日)により本人確認可能
→オンラインによるスタートアップ講座(地域でのアウトリーチ可能)
3.学校DX戦略コーディネータ概論の作成
4.学校DX戦略コーディネータ(仮称)の養成プロクラムの特色
①教員ICT活用指導力の向上(目標)
②生成AIの活用に関する内容(追加)
③教育データの利活用に関する内容(追加)
④著作権や情報セキュリティに関する内容(追加)
7.スケジュール
令和7年度:4月から実施
8.カリキュラム
学校DX戦略コーディネータのカリキュラムを以下のように15講で示します。このカリキュラムは、デジタル技術を活用して学校の教育・運営を改革するための戦略を立案し、実行するためのスキルや知識を提供します。
【講座】学校DX戦略コーディネータ特論(Ⅰ)
【講座】学校DX戦略コーディネータ特論(Ⅱ)(構築中)
資料
①【e-Learning】学校DX戦略コーディネータ特論(Ⅰ):学習到達目標
②【e-Learning】学校DX戦略コーディネータ特論(Ⅱ):学習到達目標(内容含)