【研究論文】学びの個別最適化をめざす自律活用型デジタルコンテンツデザイン
【研究論文】学びの個別最適化をめざす自律活用型デジタルコンテンツデザイン
―学びの基礎としてのインストラクショナルデザインを取り入れた初等科教育法(音楽)の構造化とカリキュラム開発―
はじめに
いのち輝く未来社会のデザインをテーマに、EXPO2025が開催された。世界80億人の人類共通の課題解決に向け、先端技術の英知と新たなアイディアを、未来社会に向け共創する。25年後、50年後はどのような未来なのだろうか。
いくら科学技術が進歩しても、人間の本質は変わらない。人は楽しい時、寂しい時、心が動くとき時、思いを音楽で表したり音楽に心をゆだねたりしてきた。日本では、9年間の学校教育で音楽が必修である。その意味は何か。子供たちが多様な音楽と出会い、多様な感じ方や味わい方で表現したり鑑賞したりすることで音楽の感動を共有し、感情や記憶に様々な効果をもつ音楽の魅力を実感することで、柔らかな感性と創造力や豊かな心を育んでいる。
本研究では、時代の要請や学習観の変化に対応した初等科教育法(音楽)のコンテンツを開発した。人がよりよく学ぶには、どうすればよいか、音楽のもつよさを子供が見いだし、音楽で生活を豊かにしていく資質・能力を身につけるため、インストラクショナルデザインの考え方に着目して構想した。学びの基礎としてのインストラクショナルデザインを用いた自律型デジタルコンテンツをつくることで、教師がその学びを通して日頃の小学校音楽科の授業改善を行い、教育パラダイムを学習者中心とした、インストラクション、評価、カリキュラムの設計理論の統合に挑戦した。本コンテンツは、子供の学びの個別最適化をめざすと共に、教師も学ぶことで学びの個別最適化をめざす自律活用型デジタルコンテンツデザインを体験することができるよう設計している。
第1章は序章として、2025年の教育を取り巻く現状と自律活用型デジタルコ
ンテンツデザイン研究の目的を述べた。第2、3章ではその手法として、初等科教育法(音楽)の目標の構造化とカリキュラム開発、e-learningの学習環境についてまとめた。第4章は、初等科教育法(音楽)全15講を掲載した。第5章は結言として、結果及び考察について述べ、まとめでは、今後の展望について記した。本研究が、学習者中心のシステムへの転換となり、効果的なe-learningの在り方を探る実践的研究となるよう寄与したい。
目 次
第1章 2025年の教育を取り巻く現状と自律活用型デジタルコンテンツデザイン研究の目的
第1節 教育における世界の動向と日本の教育
第2節 データ駆動型教育の近未来
第3節 教師の専門職としての自律性に基づく授業改善の手法
第4節 学習観の変化と新しい教育モデルの変革
第5節 小学校音楽科教育の現状と課題
第6節 教員研修のスタイルの変化と研修観の転換
第2章 初等科教育法(音楽)の目標の構造化
第1節 教科内容の構造化
第2節 タキソノミーテーブル
第3章 e-learningの学習環境
第1節 コンテンツの構成
第2節 自律活用に向けた動画の役割と授業改善
第4章 初等科教育法(音楽)テキスト 全15講
第1講 21世紀に求められる学力と学習環境
第2講 インストラクショナルデザイン
第3講 教育デザインの理論的研究
第4講 教育方法の歴史
第5講 子供の学習意欲を高める教育
第6講 教育デザインの実践的研究
第7講 学校段階間の接続
第8講 「教えないで学べる」という新たな学び
第9講 新たな学びとしての反転授業
第10講 協働的な学びのICTデザイン
第11講 主体的・対話的で深い学びの実現
第12講 カリキュラム・マネジメントと学校における音楽科の役割
第13講 カリキュラム・マネジメントと音楽科経営の自己評価
第14講 コンピテンシーを育むデジタルアーカイブの構築と活用
第15講 音楽はなぜ学校に必要か
第5章 結果と考察、今後の課題
第1節 コンテンツの内容更新と維持
第2節 学びの個別最適化をめざす自律活用型デジタルコンテンツのシリーズ化
第3節 成果と課題
第6章 結言
第1章 2025年の教育を取り巻く現状と自律活用型デジタルコンテンツデザイン研究の目的
第1節 教育における世界の動向と日本の教育
「2030年に臨まれる社会のビジョン」ならびに「そのビジョンを実現する主体として求められる生徒像とコンピテンシー(資質・能力)」を追究してきたOECDが、Education 2030プロジェクトとして、第1フェーズとして「ラーニング・コンパス(学びの羅針盤)2030」を公表して以来、日本の教育もコンピテンシー(基盤教育)重視の考え方に移行した。その結果、現行の学習指導要領から、コンピテンシーの育成を重視するようになり、学習観の変化に対応して授業観が変化してきた。
学校で身に付けさせたい21世紀の知識基盤社会における学力は、他者と協働しつつ創造的に生きていくための資質・能力の育成である。この力を育むのが、学校教育の役目であるといえ、そのために、学習活動では、他者と共に新たな知識を生み出し、深い知識を創造させていく経験を数多く積ませるようになった。また、情報化や国際化が進み、社会が⼤きく変化する中で、ICTを積極的に活用するようになった。
OECDの第2フェーズとしては、教師に向けた「ティーチング・コンパス」の検討を進めており、本研究が目指す教師のための自律活用型コンテンツデザインはその考え方を汲むものである。
第2節 データ駆動型教育の近未来
最近では、生徒や保護者、教師へフォームなどのツールを用いてデータを収集し、それを加工して対話にいかしたり、学習プロセスを可視化して学習状況を分析したりするなど活用している。藤原(2025)によると、今世紀初頭以降、アメリカを中心として諸外国では、データ駆動型学校改善(Data-driven school improvement)、データ駆動型教育(Data-driven school instruction)といったワードが使われ、データ活用は、このような身の回りの課題解決をはじめ、次第にビックデータを活用したアクションや意思決定へと広がりをみせ、デジタルアーカイブがAI生成やデータサイエンスにいかされるようになってきた。
国立教育政策研究所内の教育データサイエンスセンターでは、これまで教育の分野で十分にできていなかったEBPM (客観的な根拠に基づく政策立案)につなげていくため、「公教育データ・プラットフォーム」の構築といった教育データの共有基盤を整備している。データにより教育を見える化し、データ駆動型の教育に転換して教育の質向上を図り、成果を教育政策や学校や子供たちのために活用できるよう取り組まれるようになった。
現場にも、データ駆動型教育への対応と開発が求められており、学びのためのデジタルコンテンツもその一つといえる。
第3節 教師の専門職としての自律性に基づく授業改善の手法
今回開発する自律活用型デジタルコンテンツは、現代的な教育の課題を解決しつつ小学校音楽授業の工夫・改善をめざすものである。
そもそも、音楽の授業づくりには、莫大な時間を要する。授業デザインの後には、1つの題材に複数の教材(楽曲)、楽譜、楽器、書籍、音源、動画(演奏、番組、CM等)などの準備、ICT授業用のプレゼンテーションや課題などが、必要なためである。これらを現在主流の考え方になっている学習者中心の学びにデザインして、音楽の楽しさを子どもたちに、よりよく教えたい。指導者に学習者中心のコンテンツで学んでもらい、授業準備・授業づくりに関わる新しい授業デザインの学びのヒントを得ていくことで、子供たちの学びも学習者中心の自律的な学びのつくり手となり、教師の専門職としての力量をつけていく。
本研究では、インストラクショナルデザイン(設計理論の集合)を手がかりに、学んでいく中で小学校音楽科の授業改善を行っていけるよう設計した。
授業は教師の本分である。練られたよい授業は子供の目が輝き、教師も自信をもって提供でき、子供の反応がよく深い学びにつながる授業ができたとき、教師はますます教材研究や授業づくりが楽しくなり、満足感を得る。
2022年度「教員勤務実態調査」(文部科学省)では、「授業時間」は増えた一方で「授業準備」は減少し、6割以上の教員がさらに「削減すべき」と回答した。授業準備についての回答欄には、「削減すべきで削減可能」か「削減すべきだが削減は難しい」の2つしか用意されておらず、「削減すべきではない」という選択肢がなかったため、小学校67.9%、中学校の62.7%が授業準備を「削減すべきで削減可能」「削減すべきだが削減は難しい」と答えていた。しかし、教職の中核である授業の質の担保と不可分のもので、授業の質を維持、向上させるのに、授業準備は不可欠な時間である。その時間が不足しているとすれば、子どもたちの学びに影響を与えるのは必至である。
音楽の授業づくりに話を戻すと、音楽が得意であればよいが、苦手な教科が音楽となると、後回しにした挙句益々時間がかけられない、その結果、指導書のコピーで、まるで内容教科のように、歌唱法や演奏法、鑑賞曲にまつわる知識のみを教え込むような授業をしてしまう、という場面をみかける。専科を取り入れている学校も音楽専科の数は少なく、専門家への相談も難しい。英語や道徳科、総合的な学習の時間の研修、学校研の教科研究が中心となり、音楽の研修まで手が回らないのが現状といえる。それでも、教師が専門職としての自律性に基づき学んでいくとしたならば、タイムパフォーマンス重視で、短時間で効果的に学べるようなものが提供できるとよいのではないか。
本研究では、授業改善に役立つ指導者のための、自律活用型デジタルコンテンツを開発することにした。各講をたどっていけば、自然のうちに現代的課題の中から授業改善のポイントがみつかっていくように構成している。関心のある内容からピックアップして進めることも可能であり、各課題をこなしていく中で、短時間で新たな視点の授業づくりができることをめざしている。インストラクショナルデザインは、複雑で困難な仕事であるが、教師にとって最も重要な仕事である。
第4節 学習観の変化と新しい教育モデルの変革
学習観の変化(行動主義1960、認知主義1970、構成主義1980、社会構成主義1990)による授業観の転換が見られ、現在では、社会構成主義の考え方が主流である。それにより、社会構成主義の考え方による手だてとして、ジグソー法、ICTの協働学習、などが用いられるようになった。これらは、全ての教科にあてはまる手だてになるかどうかは、教科の特性によるものが大きい。例えば、内容教科ではあてはまったとしても、音楽科の学習にそのまま適合できるかどうか、など、音楽科の立場において、内容や取り入れ方を十分に吟味する、などが求められる。
そこで、本研究では、社会構成主義的なインストラクショナルデザインへのアプローチ(個人に合わせた課題選択や個人に合わせた協働学習が設計できる)を大切にしつつ、学習者中心の教育を実現する音楽科としての教科の特性をいかしたインストラクションデザインを行うことにした。
近年e-learningの普及により、インストラクショナルデザインは、より注目を浴びるようになった。インストラクショナルデザインは、様々な教授設計理論やツールを組み込むことができるアプローチであるため、分析→設計→開発→実施→評価(改善)という基本プロセスで、新しい学習コンテンツや教材などを作成していく際に、有力な方法論であるといえる。誰がやっても一定の授業の質が保証できるよう、教えること(子供の学び)を科学的にデザインした。学習科学の立場にある三宅なほみは、「人は元来、自分で考えて学ぶことが得意である」「人が学ぶ力を発揮できる学習環境はデザインできる」という、2つの命題へのこだわりを貫いている。
このような学習者中心の教授法についての知識が、コンピテンシー(基盤教育)重視の考え方の学習指導において必要とされている。
第5節 小学校音楽科教育の現状と課題
学校には、予測不能な社会への対応、多様な子供(不登校、外国籍、発達支援、障がい)への対応が求められている。どの子も置き去りにしない、という個別最適な教育への要請がある。資質・能力を育む学校教育において、音楽科は何を教えるべき教科なのか、どのような役割があるのか、を考え、様々な問いやニーズに対応していかなければならない。
2024年12月に示された論点・整理では、学習指導要領の今後の改訂の具体的な方向性が示された。
前回のような全体的な方向性の変更ない。これらの方向性は、インストラクショナルデザインの考え方で解決できると考える。
デジタル学習基盤としてのICTを取り入れた音楽科の現状としては、表現・鑑賞の領域ともにweb上の多くの参考資料(音楽動画)が手に入り、歌唱・器楽・創作、鑑賞どの分野においても、他者との考えの協働、共有が容易にできることで学習形態の幅を広げ、授業の質の向上につなげてきた。また、ツールの活用により、音楽技能の差に関わらず、創作・追究活動ができるようになった。特に、知識・技能において、教え込みスタイルからの脱却がなされてきている。
課題としては、エドテック(EdTech)による意見の共有により、人の答えをすぐに参考でき、子供が自分の感受や考えをもつことをしなくなりがちになったり、ICT活用が子供の主体性という名の自由な授業になってしまい、教科本質(音楽的感性の育成)をめざすものとならなかったりする実態もある。ICTの活動だけ行っている授業では、かつての活動あって内容なし、に後退する。子供に委ねる一人一人の学びの時間や自由度が拡大する分、個別の課題設定への取り組み方への支援や共通課題をめぐって考えをつなげ深めるファシリテーションが重要となる。これらデジタル学習基盤の現状を前提として、ねらいを明確にした効果的な学びデザインを考えていくことが大切であり、今後益々ICTの果たす役割は大きい。
第6節 教員研修のスタイルの変化と研修観の転換
新たな教師の学びにおいては、一人一人の教師が、自らの専門職性を高めていく営みであると自覚しながら、変化を前向きに受け止め、探究心をもちつつ自律的に学ぶことが望まれる。教師の学びの内容の多様性は、自らの日々の実践や他者から学ぶといった現場の経験やOJT(Office Job Training)も含み、学びのスタイルが多様であることも重要となる。子供が学習者として学び続けることが求められるように、教職を目指す学生や教員も一学習者として学び続けることが求められている。教員も資質・能力を磨く時代である。
免許制の廃止後、研修観も転換している。全国教員研修プラットフォーム「Plant」が構築され、研修の受講や受講履歴記録の作成がデジタルで一元的に行われるようになった。2年目となる2025年度時点では、所属の教育委員会や教育センタ―主催研修に加え、文部科学省や教職員支援機構、大学などのコンテンツが必要に応じて選択できる。
本研究ではこのような背景を受けて、教師の学びとして、自律的に学ぶ仕組みを備えたコンテンツを構築した。新たな知を求める教師が、自律活用できるコンテンツで、個別最適な学びを実現できる。自律的な学びを目指し、①教材の構造化と明確な出口の設定と、②カリキュラムの構造化を行い、③達成を確認できる課題の提供と、④教育リソースを準備した。インストラクションで個人の進捗と達成基盤に合わせられることは、大人の学びとして有効である。学びの目的は授業改善で、教師の学びを手助けし、マネジメントする。
以上の点から、本研究では教職を目指す学生や現職教員の自主的研修に役立つ、初等科教育法(音楽)の自律型デジタルコンテンツをデザインすることにした。子供の学びの変化に伴い、教師に求められるものも変わってきている。人がよりよく学ぶにはどうしたらよいか、小学校音楽科の授業づくりと工夫・改善を行うことで、インストラクショナルデザインの考え方を学ぶものである。
第2章 初等科教育法(音楽)の目標の構造化
第1節 教科内容の構造化
初等科教育法(音楽)のe-learningのための授業の設計、実践、評価について述べていく。
コンピテンシー(基盤教育)重視となった現行の学習指導要領から、目標構造が変わった。アクティブ・ラーニングや主体的・対話的で深い学びの重視のように、教えることから学びへ(教師主導から学習者主体へ)、授業の改革が繰り返し叫ばれ、さらに個別最適な学びで、子供たち一人一人が自ら自由に学ぶようになる考え方も広がりつつある。
C.M.ライゲルース(2020)は、資質・能力の育成にむけては、学習者中心の教育への転換が重要で、学習者中心の教育のためのガイドラインとして、次の5つを示した。
①学習者の進捗は、時間で測るのではなく学習進度の達成度で測る【達成度基盤型インストラクション】、②課題は実際の社会的な文脈に合わせた真正の課題にする【課題中心型インストラクション】、③進めるときは個人に合わせるべき【個人に合わせたインストラクション】、④教育者、学習者、ICTの役割転換と支援【役割の変化】、⑤学習者は自ら学ぶことが必要で、学ぶだけでなく、時には人と協働したり、人に教えたりする役割の変化が求められる、カリキュラムを再構成【カリキュラムの変化】すべきである。
これら5つのポイントを重視して、初等科教育法(音楽)の内容構成を15講で設計した。インストラクショナルデザイン理論に関わる内容は、8講分にわたる。第1講に、21世紀型学力、第2講に、インストラクショナルデザインとは、第3講に学習目標の明確化の手法について、第4講に、教育方法の歴史をたどり、教えと学びのパラダイムが交錯した経緯を、第5講に、インストラクショナルデザインの視点で学習意欲を⾼めるフレームワーク例の紹介、第6講で、インストラクショナルデザイン理論とモデルを活用した音楽科の授業設計について、第8講で、教えないで学べる学習環境、第9講で、反転授業を紹介した。第10講では協働的な学びとICT活用のデザイン手法、第11講、第12講では、カリキュラム・マネジメントについて、さらに、第14講では、音楽科のデジタルアーカイブの展望を追加した。最終講は、教科としての音楽科の存在意義を確認できるものにした。
理論と実践の往還が学習者の理解を深めることにつながると考え、インストラクショナルデザインに関わる講は、理論部分と小学校音楽科教育実践部分の両方で構成するようにした。理論部分は、岐阜女子大学教授 久世 均先生が、これまでのご研究や学生の授業科目として築き上げてこられた理論を、掲載させていただいた。
学習者の実践にあたっては、理論に続く授業デザインの実践部分として、小学校音楽科の学習ではどのような授業づくりをしていくのか、具体的な学習活動例を示し、実際に応用してデザインしてもらえる課題を準備した。
理論基盤としては、学習者中心のインストラクショナルデザインに、C.M.ライゲルースの学習者中心の教育のためのガイドライン②の、コンピテンシー重視の考え方を反映した。この考え方は、コンピテンシーを育む学習者中心のインストラクショナルデザインが、現在の教育の流れに適している。
ジョーンズJones et al.(2002)は、実用面を強調するコンピテンシー(特定のタスクを実行するために必要なスキルと能力、および知識の組み合わせ)達成の実演として、図1の階層図を提案している。
下段から、これまでの経験や適性、特性の違いにより、なぜ人々が異なった学習経験を追究し、様々なレベルと種類のスキルや能力、あるいは知識を獲得するのか、その理由が説明できる。これらは、教室内での学習だけでなく、仕事やコミュニティ活動への参加を含めた、広義の学習経験を通じて開発される。続いてコンピテンシーは、スキルと能力、及び知識が相互作用し、それらに応じ組み立てられたタスクに密接に関連する学習の組み合わせとしての統合的学習経験の結果となる。最後に、コンピテンシーが達成され実演できる力となる。このコンピテンシー階層図は、B.S.ブルームの分類学(Bloom’s Taxonomy 1973)に類似している。
デューイDewey(1902)、スキナーSkinner(1958)ガニェGagne(1985)が築いたコンピテンシー基盤型アプローチの基礎となるタスクの支持する土台は、さらに、アンダーソン(2001)が、能動的学習の方略を組み込むため、改訂版タキソノミーを提案し進化している。教科内容の構造化については、B.S.ブルームの分類学と完全習得学習を理論的基盤として、教科内容の構造化を行った。
第2節 タキソノミーテーブル
教科内容の構造化にあたっては、B.S.ブルームのタキソノミ―を用いた。具体的には、初等科教育法(音楽)の目標を分析し、基礎から高次の目標へ段階的に並べ、目標の偏りを防ぎバランスをとっている。タキソノミ―は、①の達成度基盤型インストラクションに向けて、目標と評価を明確化する目的がある。
タキソノミーは、B.S.ブルームの目標分類の認知的領域の目標分類を応用した分類を基に、本研究では、岐阜女子大学の科目のタキソノミーテーブルのフレームを使用させていただいた。
タキソノミーテーブルについては、認知領域として、既習事項を必要に応じて知識を利用できる「想起する」、伝えられる情報の意味を捉えて必要に応じて活用する「理解する」、すでに学んだことを新しい課題場面や具体的状況に適応する力としての「応用する」、問題を構成要素に分解・再構成し、問題の全体的な構造を明らかにする力としての「分析する」、価値や意味を判断する力としての「評価する」、新しい全体をつくり出す力としての「創造する」の6段階とした。そして、タテ軸に内容、ヨコ軸に学修後にできるようになってほしい具体的な行動を示し、「内容と目標行動のマトリックス」とした。
表2 初等科教育法(音楽)のタキソノミーテーブル
分類の意義として、様々な種類の目標を考慮することで、深い学びにつながる。15講の各講の目標が、全体の中で担っている役割を果たせるように、長期的目標の分類に照らして、不足している目標を確認したり、その目標をどう評価するか、調整したりした。区分した目標が相互に関連性をもっている場合には、2つの枠組を通した目標も設定した。
このような形での目標分類は、カリキュラムの開発と評価などの枠組みとして重要な意味をもつが、授業設計や形成的評価のために用いることが教育実践的意義である。目標を明確にすることで、学習者に何を学んで欲しいのかを明らかに示すことは、その目標が達成できたかどうかを判断する、評価の材料を提供することになる。
初等科教育法(音楽)の調整後のタキソノミーテーブルは、次の通りである。多くの講で、「理解して応用する」を繰り返す中で、実践力をつけていき、そのデザイン力をいかして、「分析したり創造したり」して、実際の題材構成を行うように調整した。「分析したり創造したり」することが、高次の目標となっている。また、できあがった題材デザインを評価して、よりよいものに練り直す過程も構想している。
目標と評価のための初等科教育法(音楽)は以上の通りだが、授業デザインの過程では、カリキュラムや学習指導要領の目標を、授業の目標として検証可能な形にして明確化を行うこと、目標は、期待する子供の行動や姿で記述し、その妥当性の検討も行うこと、次に、目の前の子供の実態を明らかにすること、さらに、題材レベルで目標分析をして、下位の行動目標の学習順序を決定すること、学習環境と教材、学習形態を決めること、評価の方法を決定すること、また設計の修正をすること、を大切にした。また、子供の授業デザインには、情意領域を表に加えた改訂版タキソノミーを応用して、現行の学習指導要領のコンピテンシーと対応させた、タキソノミ―テーブルを独自で作成した。
第3章 e-learningの学習環境
第1節 コンテンツの構成
e-Learningは、あらかじめ用意されたコンテンツを視聴して学習する研修方法で、学習管理システム(サーバー)に保存された動画教材を視聴する。e-Learningの設計は、「学ぶためのもの」であり、「教えるためのもの」ではない。全体目標をより効果的に達成するような選択肢を組み合わせることが求められる。
本研究のデジタルコンテンツの構成は、デジタルテキストと動画である。原則は、テキストで基本的な考え方を伝え、動画で具体的な音楽科の授業づくりについて例示して課題を出す。動画時間は、最長でも20分とし、できるだけ音楽の楽曲や関連資料を動画の中で演示し、実践に応用したり課題をイメージしたりしやすいようにした。動画作成にあたっては、教えない選択肢を考え、どうしてもそれでは達成できないものだけ、教えるという手段で実現するように心がけた。その結果として、より効果的・効率的・魅力的なe-Learning教材が実現することになる。学習者が各講を学び、個別最適な自分の授業づくりに取り組むことができる。
教育活動の効果を高めるために、より短期間に、そしてより労力をかけずに当初の目標を達成するため、またやってみたいと思う気持ちをもたせるため、インストラクショナルデザインの発想が有用である。
e-Learningについては、岐阜女子大学大学院「遠隔教育特講」第9講 遠隔授業のデザイン手法 2.e-Learningと遠隔授業を組み合わせた授業構成、第10講 自律的なオンライン授業の分析と設計 を参照願いたい。
第2節 自律活用に向けた動画の役割と授業改善
自律型デジタルコンテンツには、動画作成の工夫が欠かせない。動画は、プレゼンテーションを用いて説明し、エドテック(EdTech)の実際や楽曲の提示や紹介など、実際の授業ですぐに使える教材を多く提示していくようにした。
講義ビデオの撮影技法や、印刷教材のレイアウトや構成、あるいは学びやすさについてのデザイン原則がふまえられていなければ、e-Learningの学習効果が向上することは期待できない。e-Learning教材の設計には、e-Learning以前から培われてきたインストラクショナルデザイン技法も参照し、部品の精度を上げていく必要がある。
今回は、魅力的な動画づくりのため、プレゼンテーション作成ソフトとしてオンラインデザインツール、説明にはオンラインアニメーション制作ソフトを用いた。実際に用いたツールは、以下の通りである。
使用できるデザインには制限があるものの、無料で使用できるものを利用した。動画も学習者がクリックしてすすめるよう設計し、プレゼンテーションや説明動画、アニメーションなどを組み合わせて構成した。
最後に、e-Learning開発工程とインストラクショナルデザインプロセスモデルの関係と授業改善について述べていく。
e-Learningのコンテンツ開発には、一般的なインストラクショナルデザインプロセス(ADDIEモデル)の段階にしたがって、分析(Analysis)、設計(Design)、開発(Development)、実施(Implementation)、評価(Evaluation)のフェーズがある。どんなコンテンツが必要かを見極め(分析)、どのように教えるかを考え(設計)、web上などに教材を実現する(開発).研修を行い(実施)、その結果を見ながら必要な修正を行う(評価).この5段階を必要に応じて繰り返すことで、よりよいものができる。
つまり、これまでの教育で蓄えられた様々なノウハウをe-Learningの一要素として組み入れ、トータルに学習環境をデザインすることが求められている。様々な手法の長所を組み合わせて、より効果的な学習環境を整備する統合プラットフォームとして、e-Learningを位置づけているのが、現在の考え方である。
e-Learningが人の学びを根本から変えていく手段として発展するために、e-Learningの実践のみならず、インストラクショナルデザインの知見が生かされ、また、e-Learningの実践から得られた知見が応用されてインストラクショナルデザインが発展していくことが、期待できる。この能動的な学びが、自律的なディープアクティブラーニングの道へと続く。
第4章 初等科教育法(音楽)全15講
【授業】初等教科教育法(音楽)【構築中】
Ⅰ はじめに
21世紀の知識基盤社会における「学力」は「他者と協働しつつ創造的に生きていく」ための資質・能力の育成である。そのために,学習活動では,他者と共に新たな知識を生み出す活動を引き出しつつ深い知識を創造させていく経験を,数多く積ませることが重要である。また,情報化や国際化が進み,社会が⼤きく変化する中で,学校,そして教師は様々な変化に直面している。児童に求められる学力の変化や授業でのICT活用など,教師はどう対応していけばよいか。
本講座では「インストラクショナルデザイン」を手がかりに,学びの基礎としてのインストラクショナルデザインを取り入れた音楽教育について考える。
Ⅱ 授業の目的・ねらい
知識基盤社会とは,新しい知識やアイデア,技術のイノベーションがほかの何よりも重視される社会である。そのイノベーションのために,他者とのコミュニケーションやコラボレーション(協働,協調)が重視され, それらが効果的・建設的に行えるように,人と人を繋ぐコミュニティやICTの役割に注目が集まっている。つまり,現在決まった答えのないグローバルな課題に対して,大人も子供も含めた重層的なコミュニティの中で,ICT を駆使して一人ひとりが自分の考えや知識を持ち寄り,交換して考えを深め,統合することで解を見出し,その先の課題を見据える社会へと,社会全体が転換しようとしている。ここでは,その高度情報社会とそれに応じて求められる音楽における資質や能力について考える。
Ⅲ 授業の教育目標
(1)「インストラクショナルデザイン」を手がかりに,効果的・効率的・魅力的な授業づくりや学びの方法について考え,自分の考えを具体的に述べることができる。
(2)21世紀に求められる学力を育む新たな授業と評価を,背景や音楽における実践事例を紹介しながら考え,説明できる。
(3)目標を分析して構造がわかると,評価規準ができる。目標の構造がわかるというのは,評価規準のなかで,重要度を決定することを考える。
(4)「教えないで学べる」学びの視点を考え,音楽教育の内容を構造化し整理し提示する。
(5)音楽教育における「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実について考える。
動画資料
第1講 21世紀に求められる学力と学習環境
1.何を学ぶか
21世紀にふさわしい主体的・協働的な授業をいかに設計し、評価していくべきだろうか。21世紀の知識基盤社会における「確かな学力」は「他者と協働しつつ創造的に生きていく」資質・能力の育成であるため、授業では、他者と共に新たな知識を生み出す活動を引き出しつつ深い知識を創造させていく経験を、数多く積ませることが重要である。ここでは、21世紀に求められる学力を育む新たな授業と評価について、背景や実践事例を紹介しながら考える。
2.学習到達目標
(1)21世紀に求められる学力について説明できる。
(2)資質・能力を引き出す授業の条件を説明できる。
3.研究課題
(1)知識習得モデルと知識創造モデルの違いを説明しなさい。
(2)知識習得モデルから知識創造モデルへの授業改善について、具体例をあげて説明しなさい。
(3)変容的評価について、具体例をあげて説明しなさい。
4.映像資料
5.プレゼン資料
6.テキスト
第2講 インストラクショナルデザイン
1.何を学ぶか
情報化や国際化が進み、社会が大きく変化する中で、学校、そして教師は様々な変化に直面している。子供達に求められる学力の変化や授業でのICT(Information Communication Technology)活用など、教師はどう対応していけばよいのだろうか。本講では「インストラクショナルデザイン」を手がかりに、効果的・効率的・魅力的な授業づくりや教材開発について、考えていく。
インストラクショナルデザイン(ID:Instructional Design)の「インストラクション」は、教授や授業、指示を示す言葉で、授業設計や授業デザインと呼ばれることもあるが、以下の鈴木(2005)の定義に「学習環境」とあるように、今日では広く捉えられている。
IDとは「教育活動の効果的・効率的・魅力的な学習環境をデザインしていくための手法を集大成したモデルや研究分野、またはそれらを応用して学習支援環境を実現するプロセスのこと」(鈴木、2005)
またこの定義の中で「効果的・効率的・魅力的な学習環境をデザイン」とある。これはIDが重要視していることで、学習者が短時間で(効率的)、学習目標に到達し(効果的)、もっと学びたいという気持ちになる(魅力的)、そのようなよい授業やよい教材を目指せるよう、IDではさまざまな手法やモデルが提案されている。教員研修プログラムや映像教材を開発する際に、IDの手法やモデルを応用することで、「効果的・効率的・魅力的」を目指せるようになるのである。
2.学習到達目標
(1)インストラクショナルデザインとは何か説明できる。
(2)インストラクショナルデザイン専用のPDCAサイクル「ADDIE(アディ―)モデル」について事例をあげて説明する。
3.研究課題
(1)ADDIEのプロセスを検討し,音楽の教材を作成しなさい。
4.映像資料
5.プレゼン資料
6.テキスト
第3講 教育デザイン研究と授業デザインの実践
1.何を学ぶか
学習者が目標を十分に達成できることが、よい授業の条件である。そのような授業づくりには、インストラクショナルデザイン(第2講)のはじめの段階で、学習目標を明確に設定しておくことが重要となる。学習目標とは、学習者が、わかるようになること、できるようになること、身に付けることなど、教師が授業でねらいとすることを、より具体的な形で表し、わかったか、できるようになったか、身に付いたか、を判断できるように書かれたものである。学習目標を明確にすれば、その目標が適切かどうか、学習者にとって達成可能かどうか、などの検討が可能となり、学習目標と評価を一致させて、授業の展開や評価などの学習をデザインしていくことができる。
IDの「設計」は、学習目標を設定し、すべての学習者が目標を実現できるように、それに向けた計画を立てることである。学習目標が明確になると、授業で何を目指して、どのように授業を進めていくのか、適切な教材は何か、などの授業設計ができる。
2.学習到達目標
(1)ブルームの教育⽬標分類について、⾏動⽬標による具体例を挙げて説明できる。
(2)ガニェの学習成果の5分類について、⾏動⽬標による具体例を挙げて説明できる。
(3)音楽科の題材における学習⽬標について、具体的に説明できる。
3.研究課題
1.ブルームの教育目標分類について、行動目標による例を取り上げて説明しなさい。
2.ガニェの学習成果の5分類について、具体例を挙げて説明しなさい。
3.具体的な題材において、目標分類表を設定しなさい。
4.映像資料
5.プレゼン資料
6.テキスト
第4講 教育方法の歴史 ~教えと学びのパラダイムの交錯~
1.何を学ぶか
「教育とは何か」、と問われると、どのような解を思い浮かべるだろうか。「学ぶとは何か」と問われると、どうだろうか。「教える」と「学ぶ」は、同じなのか、異なるのか。解は、簡単なようで簡単ではない気がする。「教育」を「教え」「育む」と分けて考えることもできる。「教える」行為は、その歴史を振り返れば、古代ギリシアまで遡ることができる。
それは、古代ギリシアの哲学者によって探究され、伝聞・口述による行為であった。古代ギリシアの著名な哲学者としては、ソクラテス、プラトン、アリストテレスを挙げることができる。ソクラテスは青年たちに金銭や名声ではなく、自分の「魂の世話」に心がけた市民としての生き方を唱えた。その中で、対話をすることによる「問答法」を生み出している。プラトンはアテナイの民主主義の混乱期に、国家が「正義」を実現するための理想的な国家制度を考えた。子供を素質に応じて庶民、戦士、支配者候補に振り分け、真に「知恵」を有する者を支配者にする教育制度である。アリストテレスは、知性や特性は有徳な人々と交際し、現実生活の中で習慣と反復によって身に付くと考えた。教育には実用目的のものと、人間的な教養のためのものがあるとした。
このように「教える行為」は、古代ギリシアから始まっていると言える。そこから、中世・近世・近代と時代の軸を進めていくこととなる。
2.学習到達目標
(1)教育方法の歴史をつかみ、現行学習指導要領の転換が図られていることを理解し、説明することができる。
(2)現在の学習指導要領において、重要視されている学習者の主体的に学ぶ態度(自律的な学び)について、音楽科の具体例を示しながら説明できる。
3.研究課題
(1)教育方法の歴史としての学習観の変遷を、学習者の具体的な姿を示し、述べなさい。
(2)現在の学習観において重要視されている、学習者中心の主体的に学ぶ態度を育成する音楽科に適する学習の方法を1つ取り上げ、具体的な活動例を示して説明しなさい。
4.映像資料
5.プレゼン資料
6.テキスト
第5講 子どもの学習意欲を高める教育
1.何を学ぶか
予測困難な社会の変化に、主体的に関わり感性を豊かに働かせながら、どのような未来をつくっていくのか、どのように社会や人生をよりよいものにしていくのかという目的を、子供たちが⾃ら考え、⾃らの可能性を発揮し、よりよい社会と幸福な人生の創り手となる力を、身に付けられるようにすることが必要である。
人間性の涵養を目指し、学習においてもこのような資質や能⼒を育てるために、学びを人生や社会に生かそうとする力を伸ばし、学習の評価として「主体的に学習に取り組む態度」を評価している。しかし、学習到達度調査などによると、⽇本の⼦供の学習意欲は、改善傾向にあるとはいえ、平均を下回っていることが指摘されている。ではどうすれば、学習意欲を⾼めることができるのであろうか。
意欲とは、進んで何かをしようと思うことであり、⼼理学では「動機づけ」と呼ばれる。「動機づけ」については、マズロー(A.H.Maslow)の欲求段階説など、様々な研究が⾏われてきた。ここでは、基本的な分類である「外発的動機づけ」と「内発的動機づけ」について取りあげる。
「外発的動機づけ」は、義務、賞罰、強制などによってもたらされる動機づけで、たとえば、試験に合格したり⾼得点を取ったりするためにする勉強がそれにあたる。活動それ⾃体を楽しむのではなく、何かのために活動するのが、「外発的動機づけ」である。
2.学習到達目標
(1)学習意欲を⾼める指導法について説明できる。
(2)J.M.ケラーの ARCS(アークス)モデルについて、音楽科の学習活動の例を挙げて、具体的に説明できる。
(3)アンドラゴジー(Andragogy)をもとにして、学校式教育から⼤⼈の学び⽀援についてその違いを具体的に説明し、授業設計に生かすことができる。
3.研究課題
(1)音楽科の学習の動機づけの具体的な⽅法をあげて、J.M.ケラーのARCS(アークス)モデルのどの分類にあたるか、説明しなさい。
(2)アンドラゴジーの特徴を、ペタゴジーとの比較をもとにして、学校式教育から大人の学び支援について、その違いを具体的にカードで5つ挙げ、みんなの広場でグループごとに分類し、説明しなさい。【タブレット課題】
4.映像資料
5.プレゼン資料
6.テキスト
第6講 音楽科授業の分析と授業設計
1.何を学ぶか
「子供がいかに学ぶものか」という理念(理論、学習観)とその不断の検証が、何よりも重要だと考えている。それは、教科の特性と子供の実態に応じて、どのような学習活動を選択し、どのような学習環境をデザインするかは、授業のねらいに応じて、学習理論や教授学(ペダゴジー)に基づいた必要な教授ストラテジーを選択することが、大事だと見なしている。インストラクショナルデザインとして確立された一般的な理論に、組織・個人の価値観を加えて、児童にマッチしたデザインを構築していくことが大切である。
2.学習到達目標
(1)学びの関連性、学びの積み重ね、学びのつながりを高めていく授業設計が構想できる。
(2)「主題による題材構成」「楽曲による題材構成」について説明できる。
3.研究課題
(1) 学びの関連性、学びの積み重ね、学びのつながりを高めていく題材として、第1・2学年の学習で身に付けたことを関連付けて活用する第3・4学年の主題による題材構成を構想し、説明しなさい。その際、「教授フローチャート」を用いて、題材構成(授業デザイン)を示しなさい。
4.映像資料
5.プレゼン資料
6.テキスト
第7講 学校段階間の接続
1.何を学ぶか
教育課程は、社会が著しく変化する中で未来を創造する次世代への教育を実現するものであり、各学校段階と各教科等が相互に連携し全体としての学校教育の在り方を示すことを特色としている。
2024年12月論点整理では、学校段階間の連携・接続について、幼児教育から高等学校段階までの発達を連続的に支えるものとして重要であり、義務教育9年間を通した教育課程・指導体制等の在り方や高大接続の観点も含め、引き続きその在り方について検討すべきと示した。特に幼児教育と小学校教育の連携・接続については、「架け橋プログラム」の成果も踏まえつつ、資質・能力の育成に向けて、幼児教育の学びと連続性のある学びを小学校教育でも実現するといった観点のみならず、小学校教育以降の資質・能力の育成に繋がる多様な体験をいずれの幼児教育施設でも経験できるようにするといった観点も含め、幼児教育と小学校教育が相互にその教育のよさを取り入れていくためにはどうすればよいか検討すべき、と指摘した。中学校教育との接続については、小中一貫教育の制度化に関係する動き等も踏まえた検討が必要である。こうした接続を確かなものとするため、接続を担当する教員のみならず、小学校全体の教職員による取組が求められる。
2.学習到達目標
(1)保幼小の連携、小中の学習指導要領の構成について、説明できる。
(2)発達段階を踏まえた指導の充実(低・中・高学年)について、具体的な手だてを説明できる。
3.研究課題
(1)器楽分野における「思考力、判断力、表現力」「知識」「技能」に関する資質・能力を身に付けさせる事項、の各学年の内容を、歌唱分野を参考にして表にしなさい。
(2)①低学年から中学年、②中学年から高学年、③小学校及び中学校で教材の重なり、の中から、いずれかの接続を意識した発展的な学習の関連題材例を提案しなさい。
4.映像資料
5.プレゼン資料
6.テキスト
第8講 「教えないで学べる」という新たな学び
1.何を学ぶか
学習者にはそれぞれに個性があり、個人の資質や興味・関心が異なる。このような個人差について、教師はどのように考えたらいいか。
学習者の学習の目標の達成ができないことについて、学習者の能力が原因ではなく、図14-1の式で示すように、キャロル(J.B.Carroll)は、1963年に提唱した学校学習の時間モデルで、学習の目標を達成するための学習者の時間が不足していたと考えた。学校で授業を受ける中で、何故、ある子供は成功し、ある子供は失敗を重ねる現象が起きているのか、を分析し、失敗を防いだり、立ち直らせたりするための手だてをどう考えたらよいか、を模索した結果として、能力から時間への発想の転換を行ったのである。
多くの子供は、その子に必要な時間さえかければ、大抵の学習課題を達成することができる」という視点に立つことで、その子にとって課題達成に必要な時間をどう確保し、どんな援助(環境、問題、助言など)を工夫したら、より短い時間で良い効果(成績)がおさめられるような授業になるのか、を検討できるのではないかと考えた。
2.学習到達目標
(1)「教えないで学べる」とはどのようなことか、具体例を挙げて説明できる。
(2)「教えないで学べる」という新たな学びの環境について、説明できる。
3.研究課題
(1)キャロル(J.B.Carroll)の学校学習の時間モデルについて説明しなさい。
(2)「教えないで学べる」学習環境について具体的に説明しなさい。
(3)「教えないで学べる」研修を実現するための手だてを考えなさい。
4.映像資料
5.プレゼン資料
6.テキスト
第9講 新たな学びとしての反転授業
1.何を学ぶか
近年、「反転授業」とよばれる新たな学びが注目を集めている。タブレット端末やデジタル教材、インターネット環境など情報通信技術(ICT: Information and Communication Technology)を組み合わせて反転授業を取り入れる教育実践が普及し始めている。
日本では1980年代から「自ら学び自ら考える力」が重視されてきた。このことは、他律的でない自律的な学習態度の教育が基盤となっている。ここでは、この実践的資質・能力の向上と、教科における反転授業の効果の向上について検討する。
2.学習到達目標
(1)反転授業について具体例を挙げて説明できる。
(2)反転授業について具体的に音楽科の授業設計ができる。
3.研究課題
(1)反転授業とその効果と可能性について説明しなさい。
(2)反転授業の効果的な学習展開を具体的に構想し、反転授業を取り入れた音楽科の学習指導案を作成しなさい。
4.映像資料
5.プレゼン資料
6.テキスト
第10講 協働的な学びのICTデザイン
1.何を学ぶか
チームの中で効果的に働く能力は、様々な職場において極めて重要であると認識されており、21世紀における学習目標の一つとされてきた。(OECD,2013)仕事や地域など、社会では、様々な⼈と協調的に関わり合いながら、複雑な問題を解決し、新しいアイデアを創造している。
⽇本において「協働学習(Collaboration Learning)」という⾔葉や概念は、教育⼯学・認知科学の分野において使⽤され始め、ICT環境の整備とテクノロジによる学習⽀援が実現されていくと共に、広く知られるようになった。「協働」とは、⾃らが属する組織や⽂化の異なる他者と、⼀つの⽬標に向けて、互いにパートナーとして働くことである。
この考え方を学習に取り入れた「協働学習」は、単に「問題を⼀緒に解く」というような活動や形態のことだけではなく、問題を解く場⾯で「どうしても他⼈がいないと解決に結びつかない活動」を通じて相互作用を促し、「他⼈がいることで、⾃分⼀⼈で解くより答えの質が上がる」経験を繰り返すことで、柔軟な解決をめざす、使えるスキルを身につけていくことができる。
2.学習到達目標
(1)協働学習の考え⽅について説明できる。
(2)ジグソー学習について説明できる。
(3)協働学習を取り入れた、音楽科の授業デザインができる。
3.研究課題
(1)ICTを活用した協働学習を含めた題材を構想し、学習者⾃⾝が知識を統合して答えを出す学習活動過程について理解を深め、その効⽤を検討しなさい。
4.映像資料
5.プレゼン資料
6.テキスト
第11講 「主体的・対話的な深い学び」の実現
1.何を学ぶか
学校教育でのアクティブ・ラーニングは、「教員による一方的な講義形式の教育とは異なり、学修者の能動的な学修への参加を取り入れた教授・学習法の総称(文部科学省)」と定義され、大学教育の質的転換を図るために提唱されたものだった。その後、包括的な教育改革の流れの中で、初等中等教育の授業改善に適用されることになった。
子供たちが成人して社会で活躍する頃には、生産年齢人口の減少、グローバル化の進展や絶え間ない技術革新等により、社会や職業の在り方そのものが大きく変化する可能性が指摘されている。そうした厳しい挑戦の時代を乗り越えていくためには、伝統や文化に立脚しながら、他者と協働し価値の創造に挑み、未来をきり拓いていく力が必要とされている。このような時代だからこそ、子供たちには、変化を前向きにとらえて、人間らしい感性を働かせ、社会や生活、人生、未来を豊かに拓いていってほしい。
資質・能力を育成する場としての学校の役割は大きくなっている。学ぶことと社会とのつながりを意識し、「何を教えるか」という知識の質・量の改善に加え、「どのように学ぶか」という、学びの質や深まりを重視することが必要とされる。現行の学習指導要領の特徴は、学習者主体のコンピテンシーベースへの転換である。これを明確化して実現するために、児童が身に付けるべき能力を3つの柱に整理し、これを育むため子供たちが「どのように学ぶか」として、「主体的で・対話的で深い学び」という教育の方法が示された。
2.学習到達目標
(1)「主体的・対話的で深い学び」について、具体例を挙げて説明できる。
(2)ICTを活用した「主体的・対話的で深い学び」を実現する授業をデザインできる。
3.研究課題
(1)「主体的・対話的な深い学び」を実現するための視点を説明しなさい。
4.映像資料
5.プレゼン資料
6.テキスト
第12講 カリキュラム・マネジメントと学校における音楽科の役割
1.何を学ぶか
よりよい学校教育が、よりよい社会を創ること、を基本の考え方として、学校では、子供たちに「生きる力」を育んでいる。変化の激しいこれからの時代を見据えて、子供たちに必要な資質・能力をしっかりと身に付けることができるよう、学校の教育目標や目指す子供像などを地域社会と共有しながら、連携・協働を進めることが大切である。そのため学校は、「社会に開かれた教育課程」の実現に向けた取り組みを構想することが大切とされている。
カリキュラム・マネジメントとは、「社会に開かれた教育課程」の理念の実現に向けて、学校教育に関わる様々な取組を、教育課程を中心に据えながら、組織的かつ計画的に実施し、教育活動の質の向上を図っていくことを示している。学校が、社会の中の学校となるために、教育課程もまた、社会や地域とのつながりを意識することが求められている。つまり、教育課程を介して、学校が社会や世界との接点をもつことが、これからの時代において、より一層重要となってくるのである。
2.学習到達目標
(1)音楽科におけるカリキュラム・マネジメントの充実について、説明できる。
(2)「社会に開かれた教育課程」の実現のために、カリキュラム・マネジメントの充実を目指して、学校教育目標をふまえた音楽科における地域社会とのかかわりを構築することができる。
3.研究課題
(1)(あなたの所属校、もしくは出身校の)子供や地域の実態を生かした「カリキュラム・マネジメント」実現のための特色ある音楽の指導計画を立てなさい
4.映像資料
5.プレゼン資料
6.テキスト
第12講_テキスト「カリキュラム・マネジメントと学校における音楽科の役割」
第13講 カリキュラム・マネジメントと音楽科経営の自己評価
1.何を学ぶか
カリキュラム・マネジメントについては、マネジメントの技法としての3つの側面が示されている。この3つの側面を手がかりとしながら、学校の教育目標を達成するうえで、音楽科がどのように貢献できるのか、具体的な音楽科経営のカリキュラム・マネジメントについて検討したい。
2.学習到達目標
(1)カリキュラム・マネジメントの3つの側面から、音楽科経営の重点を説明できる。
(2)音楽科経営の自己評価の観点と振り返りについての考え方を説明できる。
3.研究課題
(1)PDCAサイクルにおける音楽科教育経営の自己評価を行いなさい。
4.映像資料
5.プレゼン資料
6.テキスト
第13講_テキスト「カリキュラム・マネジメントと音楽科経営の自己評価」
第14講 コンピテンシーを育むデジタルアーカイブの構築と活用
1.何を学ぶか
音楽科の授業をデザインしていくうえで、目の前の子供に必要な力をつけるための教材(楽曲)は何が適していて、子供がその力をつけるために、どのような曲と出会い、どんなコンセプトで何を大事にしていきたいか、コンピテンシーベースの改革をきっかけに、音楽では子供が何を学ぶのか、という視点が重要とされている。
かなり早い段階からコンピテンシー主義を重視する傾向が強まってきた英国では、専門家による報告書(Department for Education,U.K.,2011)において、コンピテンシーとコンテンツは二項対立的でない、と指摘し、何かを学習することなしに、独自に「学び方」を概念化することは不可能である、と述べている。白井(2025)はこの分析として、いくらコンピテンシーの育成が大事だとしても、教師が、「批判的に考える力をつけましょう」「創造性を発揮しましょう」と呼びかけたところで、子供たちは何をすればよいか分からず、自分でコンテンツを探すだけで、授業時間が終わってしまうかもしれない、やはり学習のコンテンツは必要だ、と結論づけている。
これまで音楽科教師は、題材授業のための楽譜、参考書籍、音源、演奏映像などを、指導者個人で収集することが多かった。同じものを異動先の学校が備えていなかったり、独自で開発した題材に適した教材が見当たらなかったりして、教材開発には事前の労力と費用・時間を要するためである。
デジタルアーカイブは、そうした授業者が集めた資料を、デジタル技術を駆使した記録でコンテンツとして保管しておくことを指す。コンピテンシーを育む授業のために必要な、学習効果の高い資料を厳選したデジタルアーカイブを構築しておくことで、授業の度に一から準備せず、また、共有すれば誰でもどこからでも使えるデータとして、加工や編集が自由に行うことができるようになる。資料に加えて、実際の授業を動画で保存することで、組織固有のノウハウ、達人の技法のような、これまで「経験や勘」などと言われて記録が残らず、その先生だけができた技術・ノウハウなどの暗黙知までも、動画などのデータで記録・整理することにより、検証し形式知化して、次世代に継承していく可能性も高まる。
2.学習到達目標
(1)音楽科におけるデジタルアーカイブの利点を説明できる。
(2)音楽科デジタルアーカイブを構想できる。
3.研究課題
(1)1 適切な楽曲を挙げなさい。採択している教科書をはじめ、それ以外の教科書の掲載楽曲、子供の身の周りにある音や音楽も参考にして教材選択をすすめ、必要とされる音楽科のデジタルアーカイブのフレームワークを構成しなさい
4.映像資料
5.プレゼン資料
6.テキスト
第14講_テキスト「コンピテンシーを育むデジタルアーカイブの構築と活用」
第15講 音楽はなぜ学校に必要か~未来を生きる世代に必要なこと~
1.何を学ぶか
音楽「ミュージック(Music)」の語源は古代ギリシャの「ムーシケー(mousike)」
とされ、詩・音楽・舞踊を指し、音楽の起源とされている。アリストテレス(Aristoteles)は、音楽は、遊戯や休養、徳の涵養、高尚な楽しみにおいて有用であると論じ、徳の涵養が教育の目的として最も重要であるとした。
紀元前のローマ帝国では、算術・幾何学・天文学・音楽の4つの科学的学問(数学)に文法学・論理学(弁証法)・修辞学の3つの人文学分野が取り入れられ、科学的学問(数学)に統合した「自由七科」となり、ギリシャで発展した学問が引き継がれ、リベラルアーツ(artes liberales)が形づくられていった。
古代中国の孔子は、教育は、詩(詩経)に始まり、礼(典礼)を学び、最後に音楽を学ぶことによって完成すると述べた。これら、古代社会における哲学は、その後の歴史に大きな影響を与えた。音楽の学びの意義に関わる原点である。
2.学習到達目標
(1)学校における音楽科教育の意味と役割を説明できる。
(2)未来を生きる世代に必要な音楽の意義と価値について、自分の考え方を反映させて授業デザインできる。
3.研究課題
(1)音楽を学校教育で学ぶ意味を、子供にわかる言葉で説明しなさい。
4.映像資料
5.プレゼン資料
6.テキスト
Ⅳ レポート課題
課題1
課題2
Ⅴ アドバイス
課題1
課題2
Ⅵ 科目修得試験:レポート試験
Ⅶ テキスト
Ⅷ 参考文献
資料
1.学修到達目標
2.【e-Learning】初等科教育法(音楽):学習到達目標(Word版)
3.学修到達目標7.17(Word版)
4.【e-Learning】初等科教育法(音楽):学習到達目標10.14(Word版)
5.【e-Learning】修正 初等科教育法(音楽):学習到達目標2.11
6.【e-Learning】 初等科教育法(音楽)学習到達目標
7.【e-learning】 _初等科教育法(音楽)タキソノミ—テーブル
8.【e-Learning】 初等科教育法(音楽)学習到達目標
9.【e-learning】 _初等科教育法(音楽)タキソノミ—テーブル
第5章 結果と考察、今後の課題
第1節 コンテンツの内容更新と維持
日本の教育は、時代の変化に対応するため、学習指導要領はおおよそ10年スパンで改訂されている。本コンテンツは、現行学習指導要領のキーワードで構成している。テキストや動画は今後の改訂にあわせて、変更・再構成して差し替えていくことが容易である。
2024年12月に学習指導要領の改訂に向けた検討が、中央教育審議会に諮問され、生成AIの発展などを踏まえ、知識の集積だけでなく、深い意味の理解を促す学びのあり方などが、検討課題として挙げられた。
今回の諮問で強調されたのが、画一的な教育から脱した柔軟な教育課程のあり方である。生成AIなどのデジタル技術が急速に発達する一方で、不登校の子どもたちが増え続ける中で、未来を担う子どもたちの教育をどのように行っていくのか、この課題を解決し、多様な子どもたちが、主体的に深く学べることを目指している。具体的に想定されているのが、授業時間の短縮などの工夫や子どもたちの理解度に応じた授業の実現である。この実現には、教員のサポートが不可欠である。特に授業づくりにおいて深い学びを考えるうえで、先生の負担が大きくならないよう、現場の取り組みを後押ししたい。コンパクトに現代的研修課題をまとめた学びの個別最適化をめざす自律活用型デジタルコンテンツは更新していくことで、これに対応できると考えている。個人の進捗と達成基盤に合わせられるインストラクショナルデザインは、有効である。
また、動画コンテンツのアニメーション進化はめざましく、プレゼンテーションや動画編集が、簡単にわかりやすく、思い通りにできるようになっている。今後も、新しくわかりやすく、AI操作や互換性など、便利な動画作成ができるよう、動向をつかんでいきたい。
第2節 学びの個別最適化をめざす自律活用型デジタルコンテンツのシリーズ化
今回、学びの個別最適化をめざす自律活用型デジタルコンテンツデザインは、第1段として、教職を目指す学生や現職教員の大学での学修、研修にいかすものとして構築した。今後は、実践部分を入れ替えた中等教育(音楽)への応用、教職を目指す学生のための教職実践演習、を続けて展開したいと考えている。また、子供たちが多様な能力や個性に応じ、それぞれのペースで学習を進められる教材や方法として、生徒用の学びの個別最適化をめざす自律活用型デジタルコンテンツ(中学校音楽)で、新しい学習指導要領改訂の趣旨に対応できるものを開発したいと考えている。
第3節 成果と課題
2022年7月1日から教員免許更新制は発展的に解消された。現在は文部科学省や各教育委員会、大学が、より成果につながる研修を設計し、その研修履歴を活用するなど、新しい研修制度の整備が進められている。
最後に、本論文で提案したコンテンツの有用性、新規性、信頼性、についてあらためて指摘したい。
本コンテンツは、岐阜女子大学及び岐阜女子大学デジタルアーカイブ研究所が、本学独自で育んできた実践的な解決や新しい文化を創造できる人材育成のために開発した、学習システムの一環である。本研究は、この枠組をお借りして、スタートした。テキスト、動画・プレゼンテーション、資料リソースをまとめたコンテンツは、現代の学修スタイルにマッチしており、通信教育課程学生として、自身も実際にそのコンテンツで学修し、その有用性を実感している。そもそも実技を伴う音楽科においては、音楽の研修そのものを受けることが難しい現状がある。かつての教員免許更新でも、音楽に関する単位取得が困難(芸術・音楽大学の設置がない県がある)で、東京をはじめとする各地の芸術・音楽大学等の講座を受けに行ったり、教科単位がそろわないため代わりに他教科や分野の単位を受講したりしていた経験がある。現職で働きながら、芸術・音楽の大学院や通信制課程に進む選択肢はなかった。
音楽科の教職を目指す学生や現職教員の大学での学修、研修にいかすものとして構案した学びの個別最適化をめざす自律活用型デジタルコンテンツデザインは、指定された期間であれば、いつでもどこからでも自分のペースで学修・研修できる。音楽科としては画期的な本コンテンツは、時代のニーズによって、変更・再構成して差し替えできるようにしている。したがって、本コンテンツには、汎用性と利便性からなる有用性がある、と考えることができる。
初等科教育法(音楽)のツコンテンツは、前半部がインストラクショナルデザインによる構成、後半部は現学習指導要領のキーワードをもとにした現代的課題解決に向けた内容構成としている。受講者の興味・関心のある講から選んで学修・研修でき、また、参照すべき資料はQRコードですぐに確認できる。テキストはコンパクトでありながらも、動画の中では具体例を紹介し、自分の展開例を実際に試してみることができるダイナミックな学びを準備した点、動画コンテンツをアニメーション動画にしたり、プレゼンテーションに入れ込むスタイルに工夫したりした点に、本コンテンツの新規性がある。
また、本コンテンツは、各講とも理論部分と小学校音楽科における具体的実践部分で構成している。インストラクショナルデザインの考え方については大学教員が、実践部分を現職教員が担当しており、その信頼性についてはいうまでもない。小学校音楽科での実践例をきっかけに、自身の実践を考えやすいコンテンツとなっており、学ぶうちにカリキュラム・マネジメントを推進していることにもつながる構成となっている。
研究と修養は、教員の務めである。時代に沿った研修の在り方で、現代的教育の課題解決に対応できる研修内容で、教員の学びの個別最適化を描く一助としてのティーチング・コンパスになることと期待したい。
第6章 結言
インストラクショナルデザインは、さらなる授業改善の手だてとして実施していくところからはじまる。本コンテンツを使ってみたことが日々の授業改善を図るきっかけになったり、新たな改善策を生み出していくことにつながったりして、子供たちの資質・能力を育む新たな方法や手だてを発見し、カリキュラム・マネジメントが活性化されていく。
各講における受講者の音楽の事例は、受講者相互の双方向の交流で練り上げたり、参考にして自身のプランを充実させていったりすると、成果をデジタルアーカイブして自身が担当していない学年の教材開発も利活用できるようにすると、いつか自分も利活用できるタイミングがやってくる。目の前の子供たちの実態に合わせて、修正し実践していった別の実践が、新たなストラテジー(ICTを活用した反転学習のようなもの)を生み出す可能性につながるかもしれない。今後も、学びの支援技術の確立に向けた音楽科教育・学習の研究活動の推進に尽力していきたいと考えている。
なお、2024年11月時点で、JMOOC認定講座数は765講座、登録者数約163万人、延べ学習者数は185万人を超えた。学習者は大学卒業生を中心とした継続学習意欲の高い方々が集まっており、近年は10代の若い学習者も増えている。講座認定による質の保証やアジア諸国との連携などが推進されており、ニーズの高さがうかがえる。
e-learningの学習環境は整った。今後は、学習行動データを蓄積且つ分析することで、新たに得た知見を、学習支援技術にフィードバックしていく方法や継続的学習を目指す取り組みについて、学修・研修のサブスクのようなシステムで、知や価値を守りつつ発展させていく方法についても、あわせて検討していきたい。
音楽科における学び続ける教師とは、主体的かつ自律的に、子供たちに音楽の何を伝えるのか、何のための音楽教育なのかを問い続ける教師である。教師は授業を通して成長する。今後も学校教育は、社会の変化によって見直され、教師に求められる資質・能力は変わっていく。既存の理論を実践化し、行った実践の蓄積から新たな理論を導き、導いた理論は固定化せず仮説的にとらえ、再び新たな実践を積んで検証し、さらに新たな理論として描き、その過程を省察して論理的に説明できる力が求められる。
実践経験やその省察を通して暗黙的な実践知を学び豊かにしていく一方で、理論知(教科内容、子供の学習、教育方法)を学ぶことも重要である。理論を学びだ明けで実践はできないが、だからと言って理論を学ばないというのは誤りである。教師は自分の実践を支えている理論を自覚化し、より広い視野から実践の意味を理解し、それをかたる言葉をもつ。それは、教師の感覚的な判断を、根拠や革新を伴ったものとし、実践の変革可能性や柔軟性も準備するだろう。失敗や天気となる経験の先に、その経験や出来事の本質に気付き、そうかつし、知識化する際に、理論を学び枠組みや言葉をもっておくことは、自らの実践家哲学を豊かなものにする。教師の学びは、模倣と省察の過程で理論値と実践知を統一する研究的な学びとして遂行されねばならない。(2024 石井)
創造的な一斉授業はフレキシブルな形態を含むものだった。(齋藤2006)
時代や社会が求める力を育むインストラクショナルデザインの音楽の授業づくりができるようになり、教育で未来の社会を創造しつづけていくことができることは、真の喜びである。
Acknowledgment謝辞
Reference引用
はじめに
高橋暁子 ほか(2019) 日本におけるインストラクショナルデザイン研究の動向(2003-2018)(日本教育工学会論文誌) 43(3)、253-265
第1章
全米科学・工学・医学アカデミー(2024)「How people learn Ⅱ」人はいかに学ぶのか授業を変える学習科学の新たな挑戦(北大路書房)
ライゲルースet al.(編)(2020)「学習者中心の教育を実現する インストラクショナルデザイン理論とモデル」(北大路書房)
石井英真(2015):「今求められる学力と学びとは―コンピテンシー・ベースのカリキュラ
ムの光と影―」(日本標準)
秋田喜代美(2020)「見通し・行動・振り返り」の繰り返しが生徒自身の幸せな未来創造へとつながる」Career Guidance 2020 DEC. Vol.435 リクルート進学総研
藤原文雄(2025)「データ駆動型教育の近未来」Educasphere 全国公立学校教頭会
白水始「認知科学 三宅なほみ研究史 すぐ、そこにある夢」
文部科学省(2020)「小学校音楽科の指導におけるICTの活用」
https://www.mext.go.jp/content/20200911-mxt_jogai01-000009772_05.pdf
文部科学省(2024) 教員勤務実態調査(令和4年度)【速報値】について(R6.4)
https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/mext_01232.html
第2章
沼野一男、鈴木克明、生田孝至 他(1989)「教育方法・技術」(学文社)
梶田叡一(1999)「教育評価」(有斐閣双書)
B.S.ブルーム(1973)「学習評価法ガイドブック上・下」(第一法規)
第3章
鈴木克明(2005)e-Learning 実践のためのインストラクショナル・デザイン(日本教育
工 学会論文誌 29(3>,197205)
日本能率協会マネジメントセンター(2024)eラーニングとは?メリット・デメリットを
徹底解説!https://www.jmam.co.jp/hrm/column/0143-eleaning.html
岐阜女子大学大学院(2022)「遠隔教育特講」第9講 遠隔授業のデザイン手法
第4章
第1講
1)P・グリフィン編、三宅なほみ監訳、益川弘如編訳(2014)「21世紀型スキル 学びと
評価の新たなかたち」(北大路書房)
2)勝野頼彦(2013)「社会の変化に対応する資質や能力を育成する教育課程編成の基本原理」(国立教育政策研究所)
3)岐阜女子大学編:教材開発の基礎としてのインストラクショナルデザイン
4)白井俊(2020)「OECDEducation2030プロジェクトが描く教育の未来」(ミネルヴァ書房)
5)白水始(2017)評価の刷新―「前向き授業」の実現に向けて―(国立教育政策研究所
紀要第146集)
第2講
1)C.M.ライゲルース編、鈴木克明監訳(2020)「学習者中心の教育を実現するインストラクショナルデザイン理論とモデル」(北大路書房)
2)スーザン・マッケニー著、鈴木克明訳(2021)「教育デザイン研究の理論と実践」(北
大路書房)
3)鈴木克明(2019)「インストラクショナルデザイン-学びの「効果・効率・魅力」の
向上を目指した技法-」(電子情報通信学会 通信ソサイエティマガジン13巻 2
号 p. 110-116)
4)赤堀侃司(2004)「授業の基礎としてのインストラクショナルデザイン」(財団法人
日本視聴覚教育協会)
5)島宗理(2004)「インストラクショナルデザイン」(米田出版)
6)鈴木克明(2015)「授業設計マニュアルVer.2」(北大路書房)
7)鄭仁星、久保田賢一、鈴木克明(2008)「最適モデルによるインストラクショナルデ
ザイン ブレンド型eラーニングの効果的な手法」(東京電機大学)
第3講
1)岐阜女子大学編(2015)「教材開発の基礎としてのインストラクショナルデザイン」
2)スーザン・マッケニー編、鈴木克明訳(2021)「教育デザイン研究の理論と実践」(北
大路書房)
3)鈴木克明(1995)「放送利用からの授業デザイナー入門~若い先生へのメッセージ
~」(日本放送教育協会)
4)梶田叡一(2001)「教育評価」(有斐閣双書)
5)教育課程企画特別部会資料(2015)「教育目標・内容と学習・指導方法、学習評価の在
り方に関する補足資料ver.5」
第4講
1)岐阜女子大学編(2015)「教材開発の基礎としてのインストラクショナルデザイン」
2)森本康彦(2008)「e ポートフォリオの理論と実際」(教育システム情報学会誌 Vol.25 No.2、pp245-263)
第5講
1)J. M. Keller、鈴木克明(監訳)(2010)「学習意欲をデザインする―ARCS モデルに
よるインストラクショナルデザイン」(北大路書房)
2)鈴木克明(2010)「授業設計マニュアル」(北大路書房)
3)島 美佐子(2019)「M. ノールズの成人教育理論に関する考察」(早稲田大学大学院教
育学研究科紀要 別冊26号)
4)アチーブメントHRソリューションズ(2024)「アンドラゴジーとは?成人学習におけ
る5つの観点とペタゴジーとの違い」https://achievement-
hrs.co.jp/ritori/andoragogy/
第6講
1)久世 均、生田孝至 他(「教材開発の基礎としてのインストラクショナルデザイン」
「第4講 教材の分析と設計」(岐阜女子大学)
2)スーザン・マッケニー、鈴木克明訳(2021)「教育デザイン研究の理論と実践」
3)全米科学・工学・医学アカデミー、秋田喜代美 編(2024)「人はいかに学ぶのかー授
業を変える学習科学の新たな挑戦」(北大路書房)
4)髙口 努「資質・能力を育成する教育課程の在り方に関する研究報告書 1~ 使って育
てて 21 世紀を生き抜くための資質・能力」(2015、(国立教育政策研究所 教育
課程研究センター
5)沼野一男、鈴木克明、生田孝至(1989)「教育の方法・技術」(学文社)
6)B.S.ブルーム(1973)「学習評価法ガイドブック上・下」(第一法規)
7)梶田叡一(1999)「教育評価(第2版)(有斐閣)
8)加藤真由美、櫟 彩見 他(2021)「e-learningとデジタルアーカイブを結ぶ学習フロー
チャートの紹介」(アーカイブData Report No.81、NPO日本アーカイブ協会・岐
阜女子大学・沖縄女子短期大学・学習システム研究会)
9)初等科音楽教育研究会(2020)「初等科音楽教育法」(音楽之友社)
第7講
1)文部科学省(2024)「今後の教育課程、学習指導及び学習評価等の在り方に関する有
識者検討会(論点整理)」
2)宮下俊也(2018)「平成29年改訂 小学校教育課程実践講座」(ぎょうせい)
第8講
1)久世 均(2022)「教育のDX時代における “新たな学び”の在り方-教育リソースと
連携したe-Learningシステムの構築-」
2)久世 均(2022)「遠隔教育特講」(岐阜女子大学)
3)多鹿秀継(1999)「認知心理学からみた授業課程の理解」(北大路書房)
第9講
1)久世 均(2022)「遠隔教育特講」(岐阜女子大学)
第10講
1)全米科学・工学・医学アカデミー編(2024)「How people learn ; Brain, mind, experience, and school」人はいかに学ぶのか」(北大路書房)
2)田村学(2021)「個別学習と協働学習を往還する授業デザインで、知識を構造化・概
念化する「深い学び」に導く」(VIEWnextベネッセコーポレーション)
3)熊谷圭二郎(2017)「児童生徒同士の互恵的な相互作用を活用した教授・学習法に関
する研究の動向について」(学級経営心理学研究)
第11講
1)岐阜女子大学編「教材開発の基礎としてのインストラクショナルデザイン」
2)石井英真(2024)「教育変革の時代の羅針盤 教育DX個別最適な学びの光と影」
3)中央教育審議会(2024)「論点整理」
4)宮下俊也(2018)「平成29年改訂小学校教育課程実践講座音楽」(ぎょうせい)
5)津田正之 他(2017)「特集Ⅱ学習が深まった子供の姿を大切にした音楽の授業づく
り」(初等教育資料)
第12講
1)文部科学省(2020)スライド「カリキュラム・マネジメント」
2)宮下 俊也(2018)「平成29年改訂 小学校教育課程実践講座 音楽」(ぎょうせい)
3)初等科音楽教育研究会 編(2020)「初等科教育法」(音楽之友社)
第13講
1)文部科学省(2020)スライド「カリキュラム・マネジメント」
2)天笠 茂(2024)「カリキュラム・マネジメント」(独立行政法人教職員支援機構)
3)宮下俊也(2018)「平成29年改訂 小学校教育課程実践講座 音楽」
4)初等科音楽教育研究会 編(2020)「初等科音楽教育法」(音楽之友社)
5)藤田文子(2019)「音楽科におけるカリキュラム・マネジメントに関する研究 –幼稚
園、小・中学校、高等学校における理論と実践を中心に-」(茨城大学教育実践研
究 38、p25-34)
6)高階玲治、岩木美詠子 他(2003)「学校の自己評価・外部評価」(教育開発研究所)
第14講
1)白井 俊(2025)「世界の教育はどこへ向かうか」(中公新書、p166,167)
2)石井英真(2024)教育「変革」の時代の羅針盤「教育DX×個別最適な学び」の光と影(教育出版、p211、212)
3)文部科学省(2020)「教育データの利活用について」
4)後藤忠彦 他(2020)「デジタルアーカイブの利活用基礎」(岐阜女子大学)
5)中教審教育課程部会(2019)「これからの社会を生きるすべての子供たちに求められる資質・能力の育成における芸術教育の意義とICTの活用」
6)文部科学省(2021)「学習指導要領コード」
7)文部科学省(2021)「GIGAスクール構想のもとでの小学校音楽科の指導について」
第15講
1)マーセルJ.L.Mursell(1967)「音楽教育と人間形成」(音楽之友社)
2)日本音楽教育学会(2019)「音楽教育研究ハンドブック」(音楽之友社)
3)菅野恵理子(2020)「MITマサチューセッツ工科大学 音楽の授業~世界最高峰の「創
造する力」の伸ばし方」(あさ出版)
4)今川恭子(2020)「わたしたちに音楽がある理由【音楽性の学際的探究】」(音楽之友社)
5)小路明善(2024)「全世代型教育システムの構築」週刊 経団連タイムス No.3622 https://www.keidanren.or.jp/journal/times/2024/0125_05.html(日本経済団体連合会)
第5章
おわりに
1)日本音楽教育学会(2019)「音楽教育研究ハンドブック」宮下俊也「教職大学院の動
向と課題」(音楽之友社)
2)石井英真(2024)「教育変革の時代の羅針盤 教育DX個別最適な学びの光と影」
p189