【授業】情報の管理と流通
Ⅰ はじめに
デジタルアーカイブは,さまざまな分野で必要とされる資料を記録・保存・発信・評価する重要なプロセスである.このデジタルアーカイブは,わが国の知識基盤社会を支えるものであり,デジタルアーカイブ学会でも,デジタルアーカイブ立国に向けて「デジタルアーカイブ基盤基本法(仮称)」などの法整備への政策提言を積極的に行っている.今後,知識基盤社会おいてデジタルアーカイブについて責任をもって実践できる専門職であるデジタルアーキビストが必要とされている.ここでは,デジタルアーキビストの学術的な基礎として,デジタルアーカイブに関する歴史から我が国の動向並びにデジタルアーカイブの課題を学ぶ.また,この内容は,今後の学修におけるデジタルアーキビストの学びの地図となる.
Ⅱ 授業の目的・ねらい
・この授業は全15講に分かれて論述している.各講における参考文献並びに関連情報は,横のQRコードで示してある.各講においてこれらの参考文献などを読み込んで発展的な学修ができるように構成されている.
・各講の最後に研究課題が設定されており,個別で学修する場合にも,集団で学修する場合においても学修を深めるために主体的に研究課題を考えることが重要である.
・解が見えない地域課題を主体的に探求し,深化させ課題の本質を探り実践的な解決方法を導き出すための手法を研究する.
Ⅲ 授業の教育目標
・日本の目指す知識基盤社会を支えるのはデジタルアーカイブといっても過言ではありません.初期の文化遺産を中心とした展示やウェブ公開など提示中心から,いかに社会の全領域で知的生産やナレッジマネジメントに活用できるインターフェイス,横断的ネットワークなどの環境を確保するかの段階に入ったといえます.
・ここでは,15のテーマに基づいて,それぞれのテーマの中に研究課題を設定し,また,各講に学修到達目標を設定し,個々に学修の到達を確認することができる.
第1講 デジタルアーカイブの歴史とその課題
1.何を学ぶか
デジタルアーカイブの日本にける歴史と本学のデジタルアーカイブの変遷を比較しながら,どのような点が明らかになり,新たにどのような課題が創出されたのかについて考える.
2.学修到達目標
・デジタルアーカイブの歴史について説明できる.
・知識基盤社会におけるデジタルアーカイブの必要性について事例をあげて説明できる.
3.研究課題
・デジタルアーカイブの歴史をまとめて,何が変化して何が課題になっているかを話し合ってみなさい.
4.プレゼン資料
情報の管理と流通(第1講)
5.映像
6.資料
デジタルアーカイブ年表(岐阜女子大学)
第2講 デジタルアーカイブプロセス
1.何を学ぶか
2000年代における第1次のデジタルアーカイブブームの現在の状況を見て,第1次のデジタルアーカイブブーム(デジタルアーカイブ1.0)のプロセスから何が問題で,今後何をどのように改善することが持続可能なデジタルアーカイブ(デジタルアーカイブ2.0)を開発するために必要であるかについて考える.
2.学修到達目標
・「Wonder沖縄」におけるWeb用コンテンツがなぜ消滅したかについて説明できる.
3.研究課題
・「Wonder沖縄」のアーカイブプロセスでは何が足りなかったのか.どうすれば持続可能になったのかを考えなさい.
4.プレゼン資料
情報の管理と流通(第2講)
5.映像
第3講 知のデジタルアーカイブ
1.何を学ぶか
知のデジタルアーカイブに関する研究会により知のデジタルアーカイブ ―社会の知識インフラの拡充に向けて―(2012年3月30日)という提言がされ,システム(技術),人材育成,災害の3テーマに焦点を当てたグループを構成して議論を行った.こうした議論から,デジタルアーカイブのための技術,知識,ノウハウの共有の重要性,デジタル・ネットワーク社会に適合したデジタルアーカイブ連携の必要性について考える.
2.学修到達目標
・知のデジタルアーカイブの提言について説明できる.
・MLA連携などデジタルアーカイブの連携の必要性について説明できる.
3.研究課題
・知のデジタルアーカイブの提言を受けて博物館・図書館・公文書館の現状と課題について論述しなさい.
4.プレゼン資料
情報の管理と流通(第3講)
5.映像
6.資料
知のデジタルアーカイブ ―社会の知識インフラの拡充に向けて―(2012 年 3月 30 日)
第4講 デジタルアーカイブの構築・連携のためのガイドライン
1.何を学ぶか
デジタルアーカイブの構築・連携のためのガイドライン(2012年3月26日)が総務省から提言されている.ここでは,図書・出版物,公文書,美術品・博物品,歴史資料等公共的な知 的資産の総デジタル化を進め,インターネット上で電子情報として共有・利用できる仕組みを 構築し,知の地域づくりを推進するため,地域の知の記録組織で活用することを提言している.ここでは,インターネット上で電子情報として共有・利用できる仕組みを 構築し,知の地域づくりを推進することを考える.
2.学修到達目標
・知の地域づくりの推進するために必要なことは何かを説明できる.
・デジタルアーカイブの構築・連携において大切なことを説明できる.
3.研究課題
・デジタルアーカイブの構築・連携のためのガイドラインをよく読んで,それぞれの組織のデジタルアーカイブ構築・連携の手引きを完成しなさい.
4.プレゼン資料
情報の管理と流通(第4講)
5.映像
6.資料
デジタルアーカイブの構築・連携のためのガイドライン
第5講 知の増殖型サイクルの情報処理システムの構成
1.何を学ぶか
デジタルアーカイブのプロセスとして,知的創造サイクルをデジタルアーカイブに当てはめた知の増殖型サイクルを開発した.ここではこのシステムについて理解する.このためには,知の増殖型サイクルにおけるデータ分析・解析・加工処理システムなどのスキルやその考え方を知る必要がある.ここでは,これらのデータ処理における留意事項について解説する.
2.学修到達目標
・デジタルアーカイブのプロセスとして,知的創造サイクルをデジタルアーカイブに当てはめた知の増殖型サイクルについて説明できる.
3.研究課題
・知の増殖型サイクルにおけるメタデータの項目を作成してみなさい.なお,その際にDublin Core(ダブリン・コア)に配慮すること.
4.プレゼン資料
情報の管理と流通(第5講)
5.映像
6.資料
国立国会図書館ダブリンコアメタデータ記述(DC-NDL)解説
第6講 知の増殖型サイクルの知的処理と流通システム
1.何を学ぶか
デジタルアーカイブにおける知の増殖型サイクルの構成は,資料の保管,検索,分析処理とその結果の利用という閉じたサイクルとして成立つものである.そのためには,利用の計画,活用,評価の面のみではなく,知の増殖型サイクルで最も重要なデジタルアーカイブの保管,メタデータ,検索,抽出,提示,分析,解析処理についても研究する必要がある.また,このデジタルアーカイブを用いた知の増殖型サイクルでは,利用目的に対し,いかに適した資料を検索し,分析・解析・加工処理して提供できるかが重要である.ここでは,知の増殖型サイクルが何回もサイクルを繰り返すことにより,新しい知が各サイクルに追加され,より精度の良いデータの利用が可能になる.ここでは,いかに適した資料を検索し,分析・解析・加工処理して提供できるかという視点から,横断検索やサイクル処理を支えるメタデータ,また,知的処理に対応した著作権,プライバシーの問題及び検索結果の選定・提供における課題を考える.
2.学修到達目標
・デジタルアーカイブにおける知の増殖型サイクルの構成を説明できる.
3.研究課題
・「沖縄おぅらい」における知の増殖型サイクルはどのように構成されるか述べなさい.
・沖縄の学力向上における知の増殖型サイクルとは,どのようなサイクルになるか論じなさい.(参考:沖縄における教育資料デジタルアーカイブを活用した学力向上について)
4.プレゼン資料
情報の管理と流通(第6講)
5.映像
6.資料
クリエイティブコモンズ・ライセンスとは
沖縄おぅらい
沖縄における教育資料デジタルアーカイブを活用した学力向上について
第7講 知の増殖型サイクルを支えるメタデータの構成
1.何を学ぶか
知の増殖型サイクルでは,新たな知を創造することが重要であり,また,その新たな知をデジタルアーカイブする閉じたサイクルである.そのために,新たにメタデータをその新たな地に対応した項目を追加し,ここでダイナミックなメタデータを提案する.
2.学修到達目標
・地域資源のメタデータの構成について説明できる.
3.研究課題
・地域資源のデジタルアーカイブのメタ情報の項目を考えてみなさい.そのうえで,それらの項目がなぜ必要なのか利用を考えて論述しなさい.
4.プレゼン資料
情報の管理と流通(第7講)
5.映像
6.資料
震災関連デジタルアーカイブ構築・運用のためのガイドライン
第8講 我が国におけるデジタルアーカイブ推進の方向性
1.何を学ぶか
平成 29 年4月に「我が国におけるデジタルアーカイブ推進の方向性」がデジタルアーカイブの連携に関する 関係省庁等連絡会・実務者協議会より提言された.この新たな提言で新たに追加されたデジタルアーカイブの考え方について考える.
2.学修到達目標
・デジタルアーカイブ社会について説明できる.
・オープンなデジタルコンテンツの必要性について具体例を挙げて説明できる.
3.研究課題
・デジタルコンテンツのオープン化と著作権はどうしても利害が衝突する.デジタルアーカイブ社会においてオープンデータ化はなぜ必要で,そのために著作権をどのように改正する必要があるかについて論述しなさい.
4.プレゼン資料
情報の管理と流通(第8講)
5.映像
6.資料
我が国におけるデジタルアーカイブ推進の方向性
第9講 デジタルアーカイブの構築・共有・活用ガイドライン
1.何を学ぶか
平成29年4月に「デジタルアーカイブの構築・共有・活用ガイドライン」がデジタルアーカイブの連携に関する 関係省庁等連絡会・実務者協議会にてまとめられた.ここでは,博物館・美術館,図書館,文書館といった文化的施設に加えて,大学・研究機関,企業,市民団体,官公庁・地方公共団体などの有形・無形の様々なコンテンツを保有する機関・団体等を対象に,業務にもサービスにも役立つデジタル情報資源の整備・運用方法について報告している.ここでは,各機関におけるデジタルアーカイブの構築・共有・活用について考える.
2.学修到達目標
・デジタルアーカイブの構築・提供ついて説明できる.
・アーカイブ機関が無理なくデータを整備・共有・連携できる共通基盤(プラットフォーム)の構築について,その機能を具体的に説明できる.
3.研究課題
・活用する場合は,メタデータを共有することで,様々なアプリの提供,付加価値の追加等を通じて,活用を行い,その成果物を保存・共有領域に還元し,再資源化することも期待されると報告されている.そのためには,具体的に何をすることが必要になるか述べよ.
4.プレゼン資料
情報の管理と流通(第9講)
5.映像
6.資料
デジタルアーカイブの構築・共有・活用ガイドライン
第10講 知的財産推進計画に見るデジタルアーカイブ
1.何を学ぶか
知的財産戦略本部より知的財産推進計画2017(2017年5月)が発表され,そこには,「我が国の知や文化資源を結集し,世界中に発信しながら新たな価値創造につなげることができるデジタルアーカイブの構築とその利活用について,計画的に推進していくことが必要である」と,デジタルアーカイブに関する記述が増加していることを見ることができる.知的財産推進計画の目的と今後の方向性について考える.
2.学修到達目標
・知的財産推進計画を理解し説明できる.
・新たな価値創造とデジタルアーカイブの構築について具体例を出して説明できる.
3.研究課題
・知的財産推進計画とデジタルアーカイブとの関係を明確にして,知的財産計画の目的について論述しなさい.
4.プレゼン資料
情報の管理と流通(第10講)
5.映像
6.資料
知的財産推進計画
第11講 地域資源デジタルアーカイブによる知の拠点の形成
1.何を学ぶか
知識基盤社会においてデジタルアーカイブを有効的に活用し,新たな知を創造するという本学独自の「知の増殖型サイクル」の手法により,地域課題に実践的な解決方法を確立するために,地域に開かれた地域資源デジタルアーカイブによる知の拠点形成をする.このことにより,地域課題に主体的に取り組む人材を養成する大学として,伝統文化産業の振興と新たな観光資源の発掘並びにデジタルアーカイブ研究による地方創成イノベーションの創出を行う.
2.学修到達目標
・デジタルアーカイブと地域課題解決について説明できる.
・地方創成イノベーションの創出について具体的に説明できる.
3.研究課題
・飛騨高山匠の技デジタルアーカイブにより,地域の文化産業を振興するための方策を3つ挙げて論述しなさい.
4.プレゼン資料
情報の管理と流通(第11講)
5.映像
6.資料
木田宏教育資料「木田文庫」の整理と利用
飛騨高山匠の技デジタルアーカイブ
第12講 知の拠点形成のための基盤整備
1.何を学ぶか
知識基盤社会においてデジタルアーカイブを有効的に活用し,新たな知を創造するという岐阜女子大学独自の「知の増殖型サイクル」の手法により,地域課題に実践的な解決方法を確立するために,地域に開かれた地域資源デジタルアーカイブによる知の拠点形成のための基盤整備が必要となる.このことにより,地方創成イノベーションの実現と伝統文化産業の振興並びに新たな観光資源の発掘を行うことができることを考える.
2.学修到達目標
・知識基盤社会とデジタルアーカイブの関係について説明できる.
・知識循環型社会について具体的に説明できる.
・地域課題の解決とデジタルアーカイブについて説明できる.
3.研究課題
・大学が地域の知の拠点形成のための基盤整備に必要な要素は何か論述しなさい.
4.プレゼン資料
情報の管理と流通(第12講)
5.映像
6.資料
「地域資源デジタルアーカイブによる知の拠点形成のための基盤整備事業」岐阜女子大学
第13講 デジタルアーカイブにおける新たな評価法
1.何を学ぶか
20017年10月,Europeanaより評価方法の新規開発プロジェクトの成果物として“Impact Playbook: For Museums, Libraries, Archives and Galleries”(以下プレイブック)の第一部が公開された.プレイブックは「インパクト評価」を実施するための手順・方法をまとめた一種のガイドラインであり,Europeanaだけでなく,その参加機関である欧州各域の図書館・博物館・公文書館・ギャラリー等が各々のデジタルアーカイブ関連事業の持つ多様な価値を各々の見方で評価し,かつその評価結果を他者と共有できるようにするための「共通言語」としての役割を果たすという.筑波大学大学院図書館情報メディア研究科・西川開氏によると,インパクト評価はもともと環境分野で発達した評価方法であると言われており,その後公衆衛生や社会福祉事業などの諸領域にも普及・発展してきた.近年では公的助成金の減額等を背景として図書館を始めとする文化機関においても自組織の持続可能な発展に資する手段として注目を集めている.
2.学修到達目標
・新たな評価法であるインパクト評価について具体的に説明できる.
3.研究課題
・デジタルアーカイブの新しい評価について論述しなさい.
4.プレゼン資料
情報の管理と流通(第13講)
5.映像
6.資料
「デジタルアーカイブ」の新たな評価法:ImpactPlaybook 概説
デジタルアーカイブの利活用促進のための国際標準の検討
第14講 デジタルアーカイブを活用した地域課題の解決手法
1.何を学ぶか
飛騨高山匠の技の歴史は古く,古代の律令制度下では,匠丁(木工技術者)として徴用され,多くの神社仏閣の建立に関わり,平城京・平安京の造営においても活躍したと伝えられている.しかし,現在の匠の技術や製品についても,これら伝統文化産業における後継者の問題や海外への展開,地域アイデンティティの復活など匠の技を取り巻く解が見えない課題が山積している.ここでは,知識基盤社会におけるデジタルアーカイブを有効的に活用し,新たな知を創造するという本学独自の「知の増殖型サイクル」の手法により,これらの地域課題に実践的な解決方法を確立するために,「知的創造サイクル」をデジタルアーカイブに応用して飛騨高山の匠の技に関する総合的な地域文化の創造を進めるデジタルアーカイブの新たな評価指標ついて考える.
2.学修到達目標
・「知の増殖型サイクル」の手法による地域課題に実践的な解決方法を確立することについて説明できる.
3.研究課題
・住民R(Resident)-地域資源L(Local Resources)認知度診断表から何がわかるか論述してみなさい.
4.プレゼン資料
情報の管理と流通(第14講)
5.映像
6.資料
デジタルアーカイブにおける知的創造サイクルの実践的研究
第15講 首里城の復元とデジタルアーカイブの可能性
1.何を学ぶか
鎌倉芳太郎は沖縄で撮影したガラス乾板を自身の避難先である防空壕で保管していたという.これら保存されていた資料が,首里城復元において大きな役割を果たしたという事実は,「知の増殖型サイクル」の考え方に当てはめることができる.首里城復元の際に利用された鎌倉資料は原資料であり,デジタルアーカイブではない.しかし,「知の増殖型サイクル」に適応することで,これからのデジタルアーカイブの在り方が見えてくる.
2.学修到達目標
・鎌倉芳太郎と首里城復元の過程で説明できる.
・デジタルアーカイブという視点から鎌倉芳太郎資料集について説明できる.
3.研究課題
・首里城の復元に鎌倉芳太郎の資料が重要であったかについてデジタルアーカイブの視点で論述しなさい.
4.プレゼン資料
情報の管理と流通(第15講)
5.映像
6.資料
沖縄デジタルアーカイブセミナー
鎌倉芳太郎資料画像データベース- 沖縄県立芸術大学附属研究所
Ⅳ 課題
課題1 テーマ1からテーマ8の中で,興味を持った研究課題についてさらに詳しく調べA4用紙1ページにまとめよ.
課題2 テーマ9からテーマ15の中で,興味を持った研究課題についてさらに詳しく調べA4用紙1ページにまとめてよ.
Ⅴ アドバイス
課題1解説 テキスト並びに参考文献を参考に論述しなさい.
課題2解説 テキスト並びに参考文献を参考に論述しなさい.
Ⅶ テキスト
1.学修ガイドブック
情報の管理と流通ガイドブック
久世均著:情報の管理と流通 岐阜女子大学 2020
1.表紙&奥付
2.目次
3.情報の管理と流通
課題提出用
情報の管理と流通(デジタル資料の選定評価)課題様式(docx)
年表
4.年表
Ⅷ タキソノミーテーブル(教育目標の分類体系:タキソノミー)
タキソノミーテーブル(教育目標の分類体系:タキソノミー)(PDF版)
タキソノミーテーブル(教育目標の分類体系:タキソノミー)(Ward版)
映像資料
資料
特別講演「首里城の復元と沖縄の文化」
市民キュレーション講座資料